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観てきた聴いた記 藤木大地 7/31 みなとみらいアコースティックス2023

2023年7月31日
みなとみらい花火大会の日。
同じ日に、みなとみらいホールで開かれたコンサート、
藤木大地(カウンターテナー)、務川警護(ピアノ)、反田恭平(ピアノ)
1日でチケットはSold Outになった人気ステージ。

結論として、一粒で二度美味しい、沢山旨味があったコンサートでした。



はじまりはじまり・・・・・・・・


当日のプログラム

ホール改修後、初のみなとみらいでした。

それにしても花火と重なり周囲は凄い混雑で、みなとみらい周辺は15時頃から平日とは思えない人出、コンビニにも長蛇の列。

ホールへ入ってから、会場内に入る前にあるホワイエ(ロビー)から、花火会場へ向かう人の流れが見えました。

18:50頃のみなとみらい

そんななか、ホールに入るとひんやり、静か。
私達の席は2階5列目、舞台にピアノが小さく見えます。
プログラムを見ると、藤木大地さんは昨年まで"みなとみらいホール ディレクター"だったのですね。
このお三方の演奏は、生でお聴きするのは初めて。楽しみです。
はじまり、はじまり・・・

シューマン アラベスク

務川さんソロ 

遠い舞台から、繊細な音がこぼれてくるような感覚。美しい旋律が連なっていました。素敵なひとときが流れます。

藤木さんが務川さんとともに登場。

椅子の高さを調整する務川さん。さっきまで弾いていた同じ椅子とピアノなのに何故? ああ、譜面台があるから・・・なるほどです、

シューマン 歌曲集『詩人の恋』 16の連作曲

生のカウンターテナーは初めて。テレビやラジオなど放送を通じてはありましたが、生はこんな感じに聞こえるんだ、音域は女性アルトとほんとに重なっても歌詞は男性の立場のみ。女性の歌はないのね。

淡々と進んでいく。15曲もあるなか、途中で、藤木さんがピアノの周りを歩き始めた曲で、花火が始まりました。まさかホール内まで音はしないよね、と思っていましたが、ドーン、ドーン、という深い音がわずかにしています。振動音?と思うような音。それが歌をピアノ伴奏つきできいている間に聞こえるので、何となく落ち着きません。
気付いたお客様もいらっしゃるようですし、気づいていらっしゃらない方もいるようです。

それにしても
・花火と重なるとわかっていて、この日を選択せざるを得なかったのか?

・花火の開始時間を計算して、みんなの注意を歩く動作に惹きつける演出だったのか?

・このくらい音がするとは、事前にわかっていたのか? 案外すげぇなと思ってるのか?

・今日、花火でなくこちらへ来たお客さん達は、反田さんファンが多いのか、務川さんファンが多いのか、藤木さんファンか・・・。

色々なことが頭を巡りました。
曲が終わって二度拍手をして、

さて休憩時間

早くロビーへ!と私はソワソワしてしまいました。

ホール扉を出て、ホワイエ正面に見える大きな花火。わぁ。
私達がいる2階は、普段なら飲み物を買ってたたずむスペースが格好の観覧場所に。

最近の花火は、色がレインボーに変化したり、形が面白かったり、進化してますなー。大玉の中心がさらに開いて七色の小花のような花火が出てきたのには感動。

ひときわ大きな花火が上がると、みんな歓声を上げている。思いがけない休憩中の花火にみなウキウキし特別な幸福感を共有した感も楽しかったです。
おそらく25分間2万発の半分近くを見たのではないでしょうか。惜しみなく連発するところがゴージャスでした。

感激した空気をまとったままホールへ入りました。


後半は2台ピアノでスタート、

ルトスワフスキ パガニーニ変奏曲

最初、反田さん(第二)が強く重い音で、務川さん(第一)の軽めな細い音が聞こえにくい気がしたのですが、いつの間にかバランスが調整されて、それぞれが聞こえる状態になりました。反田さんが調整したのか、務川さんも調整したのか・・・。後半ほど絶妙にお互いの息が合っていました。小気味よい、カッコいい! 弾きながら調整していく、さすがですね。

昔ラベック姉妹で聴いたような気がしましたが、さらに密度濃い立体感のある演奏。

ここから、反田さん伴奏で藤木さんが登場。

まず、モーツァルトとシューベルト。

モーツァルト『夕べの想い』

が終わり、歌のリサイタルだとこういう場合拍手しないように思いますが、客席が静まっていると、反田さんの立ち上がるアクションで拍手。

そーなんだ、ここは拍手するんだ・・・。

シューベルト『ミューズの子』

藤木さんは前半よりも自由に動き、緩急つけながら歌い、それは曲想の違いからか、後半ほど調子が出て乗っているのか、伴奏者の違いからか。とにかくノリがいい感じなのです。

反田さんはほんとに伴奏が上手い。歌を盛り上げる伴奏をしている。ピアノの旋律もクリアに聴かせる。

曲全体の流れやバランスがわかって演奏していてさすがでした。ジュリアードの声楽コースの伴奏者が反田さんだった、みたいな玄人っぽさ。

一旦、舞台袖に引っ込んで後半二曲。

ベートーヴェン『はるかな恋人に』

なかなか凛々しい曲で、シューベルトの歌曲集が生まれる数年前に書きあげられていたとは。ベートーベンやるなぁ。

若い男性が恋をして、成長して、恋に破れたり、友と語り合ったり、自らを通したり、人生艱難辛苦かんなんしんくを乗り越えて、充実した生を全うする、という男の一生ものでした。

藤木さんの世界観とも重なるのかしらと思うような、ナイーブで、懸命で、誇り高い歌。

終曲、歌が終わり、ピアノ伴奏が終わり、音が消えたところで手を叩いた私は、他の何人かと共にフライングでした。一旦拍手が止まり、肩幅に広げて力強く立っていた藤木さんの脚が動き出して、全体で拍手。すみません、藤木さんの意図を汲めてませんでした。ごめんなさい。

最後は愛をめぐる男性と女性の歌。

ブラームス『永遠の愛について』

これも真摯で真剣な歌。そして希望があります。
こういう世界観をいつも抱いているんでしょうね。
こんなふうに生きていけたら素敵です。


ささっと、再登場した反田さんが

ショパン『バラード第3番』

さっきの務川さんの演奏がきれいな音がこぼれてくるのに対比して、キラキラした音の輝きがここまで飛んでくる感じ。熱くなり過ぎず、曲の体温は伝わってくる演奏。密度濃い。

さりげなく始まり、後半盛り上がった感じ。


そして舞台転換(ピアノを二台中央に)。

プログラムの中に、なんでSorita(1995)と書いてあるの?と同行者に伺ったら、あら、全てプログラムの英語表記には作曲家の生年没年が記載されていた。ほんとだ。彼だけ生年を記載しているわけではなかった。シューベルトは1764-1828とかね。作曲家に並んでいるってことのほうが凄い!

合唱曲の作詞は反田さんに頼まれた務川さん。
務川さんは文学にも興味関心をお持ちらしい。

「きっと、NHK合唱コンクールの課題曲ねらいだ」と友人と話していたら、そのことは後のトークで明らかになりました。

反田恭平『遠ゆく青のうた』

まず演奏について:良かったです。曲も歌詞も歌も。

務川さん作詞による清々しさ、甘美な憧憬と、単なる伴奏に陥らない印象的な旋律も添えられたピアノ伴奏。1台ピアノを今回のために2台用にアレンジしてもらったそうですが、合唱曲らしい伴奏を基本に、ところどころ、ポップス・歌謡曲のようなフレーズも入り情感を膨らませていました。

a/b/a+b/aという形だったかなぁ? 展開するときに、無音からアカペラで何小節か歌うところがとても効果的でした。もう一度アカペラのなるところがあるのですが、その時は割とすぐにピアノが裏メロディを奏でるのですよね。二度同じことはしない。

ツボを押さえたマーケティングセンスに長けた曲作りだとは友人の弁。
まさに!


カーテンコールで一旦袖に引っ込んだ三人が、今度はマイクを持って登場しました。

アフタートーク


藤木さんを囲んで、上手に務川さん、下手に反田さん。

・この日のチケットは即日売れたので、藤木さんとしては翌日から演奏のために力を注げて有難かった(普段のご苦労が察せられる)。務川さん・反田さんのおかげ。

・その時、花火当日だと理解していなかった。花火を差し置いて来てくれてありがとう。

・10年前の3人のなれそめ・・・

・合唱曲について:4年前に作った・NHK課題曲をつくりたい・歌が最高の楽器・作詞のために詩を沢山読んで自分なりに勉強した・・・

・2021-2022みなとみらいディレクターだった藤木さん(アニキ)へ、2代目を引き継ぐ反田さんから花束贈呈。


そしてアンコール。感激しました。

武満徹『小さな空』

伴奏は連弾(1台)

いやー、美しかった、日本語の歌も、伴奏も。こんなに美しいのは初めてかもしれません。伴奏も素晴らしく美しいし、歌の発音がきれいで歌詞の言葉が全てちゃんと聞こえる。途中、藤木さんは舞台P席や下手に向かうこともあり、ひな壇の2段まで上がりました。近くできいたらまたいいでしょうね。

ピアノの二人が何故か1つの椅子に半ケツで仲良く座って連弾で伴奏していたのですが、3番の夕方の歌詞に入ったら、藤木さんが背中合わせに同じ椅子に座り(よく座れましたね)、子犬が三匹密着しているような、とても仲良しな光景。

もしかしたら藤木さんは長いこと孤独に頑張ってきて、ここへ来て(まぁ10年かけて育んで)、こういう世界クラスで話せる仲間が出来た感じなのかなぁなどと想像力たくましくしてしまいました。

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藤木さんの歌を2人の伴奏で聴き比べる、花火、2台ピアノの妙味、3人による合唱曲、お楽しみトーク、小さな空・・・と沢山の驚きがあった演奏会。

藤木さんプロデュースということで、カウンターテナーというキーワードだけに閉じない、バラエティ溢れたプログラムでとても面白かったです。

(以下蛇足)

難点は、結構な数のお客さんが「ここぞ」というところで、チラシをパサッと落としたり、咳込み・咳払いをしたことでしょうか。開始時も、曲中の音が静まっているところも、そして、なんと「小さな空」の最中も。
ピリピリピリ、
ピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリ。
(ビニールでもない、紙でもない、ミシン目が入った切れ目を開けている?)
私たちの2列後ろのおば様。つまり2階最後列。
さすがにこれは、会場係の人が直接声をかけて止めていました。
くしゃみや咳は避けられないでしょうが、ピリピリは不要不急。
携帯音や飴のカサカサ音は案外と少なかったように思いますが気づかなかっただけかも。Ricolaのキャンディーボックスを入口に置くコンサートホールが一流だ、という言説を広めていただきたいものです。
でもお三方はそんなことに気分を損ねたりするような低次元では反応せず、淡々と演奏なさっていました。

会場を出たのが21:40近くでしたが、サイン会の列ができていて、係の方が4列縦隊となるよう指示していました。全て終わるのは22時半近くでしょうか。藤木さん、務川さん、反田さん、タフです! 
素晴らしい演奏をありがとうございました。


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