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アイヌ祭祀記録映画『チロンヌプカムイイオマンテ』

滑り込みで観ました 2022/7/8(金) @東中野ポレポレ
アイヌ きつねのイヨマンテの記録映画
『チロンヌプカムイイオマンテ』 *プは小文字


35年前に撮影した祭祀イヨマンテを2019年に編集した映画だときき、ちょうどゴールデンカムイの漫画の影響もあり、どのようにいま観られるだろうという興味が一番の視聴動機です。

■どんな映画?

日川エカシという白髭のお爺さん、この方は北海道生まれのアイヌ民族のひとりで、商売のため北海道内をあちこち移動しながら人生を重ねてきた。猟をして残った子供を家でかわいがって飼ってきたツネキチというキツネがいる。1986年、大正時代から75年ぶりに「キタキツネのイオマンテ(霊送り)」を行なうことになった。祭祀の主宰となれるのは日川エカシしかいないと請われた。わが子と同じように育てたキタキツネを、神の国へ送り返す儀式を北海道屈斜路湖を臨む美幌峠で行った。その全記録。

‐BETACAMで撮影した映像
1986年BETACAMで撮影したものを2Kレストアしたとのこと。30年前とのことですがずいぶん昔な印象がしたのは、画面の照度が暗めだからだろうか。

-アイヌの祈りの言葉 祈詞
歌でもない独特な節回しが繰り返される。発声は、地声と頭に抜けるような音の混合体で独特の響き。私が鎌倉・熊野で聴いた山伏の声とどこか似ていた。(もしかすると、喉歌:ホーミーのような倍音唱法なのかもしれない)

-丁寧に撮影された記録映画
準備から本番までインタビューをはさみながら記録。祈りの言葉・祈りの動作が何度も繰り返される。日川エカシの手つきはきれいだった。

-一言でくくれない、アイヌ民族の物語
キツネを見送るプロセスには命を屠る場面もあり、ギクッとするが、見送るエカシの悲しみや儀式を若い衆へ伝える意味をもちつつ、中心はカムイに神の国へ遊びながらお帰りいただくよう人間が心を尽くす祈り。祈りを受けて、人間にこんなに良くしてもらった楽しかったと、キツネが神の国で他のカムイに報告し、皆に羨ましがられるという話に繋がる。さらにそこから、他のカムイが私も人間の世界を味わいたい、この人なら毛皮と肉を差し出そう、そう思ってクマやキツネや鳥などが人間の矢を受ける。感謝にみちたサステイナブルなサイクル。

●映画公式HP


■プロデューサー三浦康子さんのトーク

最終日の最終上映は、特別に上映後プロデューサー三浦康子さんのトークをお聞きした。

・撮影後30年してから、北村皆監督が当時のエカシと同じ年齢になったタイミングに映画化した

・日川エカシの言葉を訳すにあたっては、ゴールデンカムイでアイヌ語監修した中川裕さんが手を挙げてくださり、2年かけて翻訳した労作。

・日川エカシさんはチャーミングで魅力的、手先も器用でセンスいい。

・自分たちは元々沖縄民族に経験があったが、カメラマン堤さんのおかげでアイヌの懐に入れてもらえて撮影させてもらえた。

・映画でキツネの語りが入っていたのは、アイヌに伝わる口承物語の形を反映しているそうで、その口承物語を書き記したのは、1890生まれの知里幸恵さん。

■わたしのこれまでのアイヌ体験

私は、義務教育時代にアイヌ文化を知り、その後特に触れることなく、たまに写真展やアイヌ文化の記事を見聞きする程度でここまで来た。今年GWに友人に巻き込まれてゴールデンカムイを読み、6月下旬、北海道白老にあるウポポイへ行き、10日後にこの映画を観たことになる。ちょっとしたアイヌブーム。

ウポポイは、アイヌの生活そのものというよりは、マイルドに受け取りやすい形にしたものだという評価もあるようで、それは否めないかもしれない。そうであっても、施設内公用語としてアイヌ語を使い、チセの中での説明、実演、映像、舞台、飲食など、様々な形で生活に触れられる場所で、楽しく知ることができて意義があると感じた。

たまたま同時開催していた知里真志保さんの特別展示のなかで、姉 幸恵さんが書いたとても丁寧なローマ字と日本語で聴きとったノートがあった。きれいな文字と、その人が19歳で亡くなったことが印象的。そのノートは、祖母や叔母からきいた口承アイヌ物語をアイヌ語(ローマ字表記)と和文で書き留めたもので、のちに「アイヌ神謡集」として出版されたとのこと。それを本映画のキツネの語りスタイルに反映しているそうだ。偶然にも三浦さんトークを聴いて、そこが繋がった。

■撮影後30年経過した今、生まれた意味

30年前、小中学生だった子供たちはアイヌの暮らしと、都市の暮らしとを見比べて都市の生活を選んだ。彼らが選択肢があり稼げる生活を選ぶのはある面で自然な流れ。でも30年経過した今、映画化されたことで、1980年代前後に生まれた人達にこの映画が伝わることは、一旦置いてきたものへ価値を見出す助けになるのではないかと思う。

また私たち見る側が1980年代後半~1990年代に観たならば(生まれていれば・・・)、アイヌ民族を何か別な人達だと区別して捉えがちだっただろうけれど、30年後の今、自分達に繋がる民族としてアイヌを捉え、彼らが大事にしてきたものは私たちにとっても大事なものかもしれないという視点をもって観ることができるようになった、この違いがあるのではないか。それはこの30年くらいの間でおきた社会の成熟だと思う。30代くらいの男女数名が熱心に質問していたことからも、その違いを感じた。

自然界からもらって肉や魚を食べている人間が、自然界を壊すような影響を与えている今、自然と人間がどのように調和していくのか、どのような世界観を持つか、参照したくなる知恵がアイヌの生活には沢山ありそうだ。そして同時代に生きる私たちのなかに、文化や民族の存続を願う気持ちが刺激されていることも見逃せない。


以下、アイヌに関連して最近であった情報をリストします。よかったらご興味あるところをご覧ください。

■関連情報
●NHK新日本風土記「北海道 登別温泉」 2022/5/27初回放送日
 18-22分頃 知里幸恵さんや『アイヌ神謡集』についての紹介

●監督インタビュー

●映画公式HP

●ゴールデンカムイ展

  東京 2022/5/ -6/29 東京ドーム --記事アップ時終了
  京都 2022/7/9~9/11 京都文化博物館
  福岡 2022/10/15~11/27福岡アジア美術館 企画ギャラリーA・B・C
  北海道 開催決定

●ウポポイ 民族共生象徴空間 北海道白老町

●北海道 アイヌ関連施設一覧


長文をお読みくださりありがとうございます!
知恵や料理や生きる方法などアイヌ民族への興味が増してます。北海道だけでなく、樺太、千島列島、東北地方北部にも住んでいたんだと知りました。
ゴールデンカムイの漫画無料公開のときに頑張って読んでよかったw

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