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別の世界の住人

※ この投稿は、私が妊娠する前の話です。夫婦生活?などについてかなり具体的に書いていますので、そういう内容が苦手な方は華麗に受け流すか回れ右して頂ければ、、。


私は3年前に出産し、現在娘が一人いる。
いわゆる自然妊娠ではなく、人工授精という方法で妊娠した。人工授精とは、簡単に言うと男性の精子を他人の手を介して女性の体内へ入れて妊娠を目指すという不妊治療の方法の一つ。
夫は私の体内で精子を出せない射精障害という症状がある。そう、セックスで射精できないのだ。

もともと夫は恥ずかしいのか自信がないのかよくわからないが、もともと奥手というか、あまりそういうことに積極的な方でない印象だった。
結婚してから何度か最後までできないということはあったように記憶しているが、当時は「まぁ、そんなこともあるよね」ぐらいに軽く捉えていた。けれど、いざ子どものことを考え始めたとき、何度試みても最後までできない。
「これって、、まずいんじゃ、、」
ようやく気づいた。ネットで検索すると、「膣内射精障害」という症状に辿り着いた。

「マジか、、、」

そこで早い方がいいと思い、二人でクリニックの門を叩いた。二人とも一通り検査を受け、他に大きな問題はなさそうとのこと。
先生「とりあえず何回かタイミングで様子を見てみましょう」
タイミング法とは、女性の排卵日に合わせて性交するというもの。でも、タイミングとか関係なくやはり何度やってみても上手く行かない。もう「やってみる」ってこと自体がイヤんなってきてしまった。

次の診察のとき、ある先生が、
「必ずしも性交して妊娠するということに拘らなくていいと思うんです。奥様の年齢のこともありますし(その当時私は35歳)、他に方法はありますから。夫婦のコミュニケーションと子づくり、分けて考えたらどうでしょう」
そのようなことを仰った。確かにそうだ。このままもし妊娠したら、夫の症状をそのまま放置することになりそうなのが気がかりだったが、時間に余裕はなかった。

でも、私の中には抵抗もあった。よく「子どもは愛の結晶」なんて言い方をするし、私も多少夢みがちなところがあったのか、なんかこう「子どもって、二人で高まって高まって一つになって、幸福感に包まれて満たされた先にできるもんよなー」みたいなイメージが漠然とあった。そんで、できればそれがそのまま現実化して欲しかったし、単純にわざわざそんなめんどくさいことしたくないってのもあったし、とにかくなんだかいまいち受け入れられない心境だった。

その頃、私の職場では(まだ退職前)ちょっとした妊娠ラッシュが。同時期に女性職員4人ほど妊娠中。顔を合わせれば、否が応でも何となくそれについて触れなければならないような雰囲気になる。

「おめでとうございます」
「悪阻とかどうですか?」
「あまり無理されないでくださいねー」

とりあえず無難に話しかける。
ようやった、私。大人な振る舞い。

その後一人でトイレに籠って、
「あーあ、みんな普通に妊娠したんやろうな。いーよな、簡単に妊娠できて」
「ていうか、出せへんってなに!?そんなことあんの??ていうか、なんで私なん!!」
やるせないし、腹が立ってしょうがなかったし、人知れず泣いた。

でも、何よりこの症状で一番「なんで?」と思っているのは夫本人だろうし、夫が何か悪いことしたわけでもないし、責めるに責められないし、(いや、ほんまは泣きわめいて責めるようなこと言ったことは何度かあるけど)私もこの気持ちをどこにどうぶつければいいのかわからなかった。

とまあ、モヤモヤを抱えたまま人工授精当日を迎え、、夫が朝自宅のトイレで採った精子を専用の容器に入れてクリニックまで持って行く。
そう、私は精子の運び屋だ。容器を鞄に詰めて、
「あーあ、朝早くから私何やってんねやろ。今持ち物検査とかされたらなんて答えたらいいんやろ」とか不貞腐れながら駅までの道を歩き、電車に乗った。精子は体外に出てから5時間以内にクリニックに提出して処理されなければならない。時間勝負。(私のクリニックの場合)

無事到着して容器提出後、たしか血液検査をしてぼーっと待っていたら呼ばれた。
精子の状態はまずまずらしい。よかった。
ほんでもって次は内診室に呼ばれ、いよいよ人工授精。もともと夢見る夢子だった私の妊娠イメージとは程遠く、現実は赤の他人(男性医師)の手を介して夫の精子が私の体内に注入された。
痛みも何も感じることなく、時間にして0.5〜0.6秒(私の感覚)あっという間に終わった。

「えっもうおわり??」

あまりの速さに拍子抜けした。

「あーあ、こんな事務的で無機質な方法で簡単に妊娠するわけないやん、、」

家に帰ってからひとしきり泣いた。スーパーで買った海鮮丼と天ぷら盛り合わせをやけ食いした。(←食欲はある)

私は別の世界の住人になった。
自然に妊娠する人たちとそうでない人たちの間を分断してそこには大きな河が流れてる。私はもうこちら側の人間。あちら側の人たちとは別の世界にいて、その人たちを羨ましそうに見てる。
そんな気持ちになった。

つづく


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