蟲よ、死なないでくれ

 私たちの命と肉体が有限である以上、どんな達成も自らの血に塗れている。
 足元の踏み固められた土は一見土だが、実のところこれも血だろう。この社会を築いた先人の血と臓物だ。泥のように塗り固められ、やがて踏み固められた。
 ああ、どこもかしこも血塗れだ。いま吐いた息ですら赤い。きみが吸っているのは空気ではない。誰かが流した血だ。どろりとした血が肺を満たしているのは不思議なことじゃない。羊水の懐かしい記憶のままだ。

 こうしている間にも世界は血で満たされていく。
 血の通った思いで満たされて溺れていく。それを阻んでいるのは私たちの内部と外部の間だけだ。肌で隔てられているという単純さだけで私たちは外界の血の澱みから隔てられている。だが内面の奥には私たち自身の血と肉が充満している。


 肌と肉の間にだけある静かな場所。


 肌の感覚。薄皮一枚の内部。皮膚の直下にだけあるものを感じ取ったことがないだろうか? 虫が這うような異質なその感覚にだけ、人間は人間らしさを見出だせないでいる。
 心中の虫だ。
 彼は這いずり回っているか? 彼女は背筋を登ってくるか? 臓腑を喰らおうとしているか? 意思を蝕んでいるか? ああ、きもちわるい。

 だがときにはそれを頼りにしなければいけないときがある。私たちの内部に巣食うそいつらの血は赤くない。青い血だ。冷血だ。虫のようになって貝のようになって蟹のようになって、すべての血のない生物によって生き延びよう。罪と蜜と真珠を抱いて。
 その虫の居所の悪さが血塗れのきみを血塗れからすくうだろう。

続けられるかわかりませんが過去作の曲の単品販売に使おうかなと思ってます