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CCCreation舞台「白蟻」レポ①

こんにちは。ぽろん、またの名を雛田みかんと申します。役者の端くれで観劇オタクです。

先日、CCCreationさんの舞台「白蟻」を観劇しました。

KAAT神奈川芸術劇場にて。

CCCreationさんのプロデュース公演、およびあやめ十八番の堀越涼さんの脚本・演出を目にするのは初めてだったのですが、
一言で言うと演劇性が高く「すごいものを見たな…」という気持ちに久しぶりになった舞台でした。
あまりにもすごかったので、レポ久々に書くか、と筆を取った次第です。

込められた様々なメッセージの全てを紐解くのは私のおつむではできず、「こういうこと?」という自分なりの解釈と「刺さった部分」をメインに書いた文章になります。

あまりにも長くなるので前後編に分け(またかい)、前編は主にストーリーのレポになります。

ネタバレ全開なのでご注意ください。
また、何度か配信を観ましたが台詞の言い回し等微妙に違っていてもご容赦ください。

(もしストーリーや演出を詳細に書かれると困る、という問題があればご指摘ください)


ストーリーレポ


まず目につくのは前方に傾斜がかかった形の八百屋舞台。板の上はまだらに白く塗られている。舞台上方には人が2〜3人通れるくらいの幅のキャットウォークと、人が1人立てるくらいの大きさの光る箱。その箱から電線のようにワイヤーが繋がれ宙に浮いている。
そして音響は全て生バンド

生バンドが舞台上方の演奏スペースに入ると演奏が始まり、傾斜がかかった板の下から、全身白い衣装のダンサーが数名ぞろぞろと這い出てくる。どこか生理的に受け付けない不気味さを視覚から受ける。
言われずとも分かる。これは軒下から出てくる白蟻だ。

そこにパジャマ姿の勢堂直哉(演:多和田任益さん、平野良さん)が登場し、彼の台詞によりこれは彼の夢の中の光景なのだと分かる。
彼は世話係のAI・ダイコク(演:島田淳平さん)から寝物語に聞かされた白蟻の話から悪夢を見る。
悪夢の内容は彼の過去のトラウマとなっている心象風景を描き、この後のことを示唆する予知夢となっている。

悪夢の中には櫛元悟(演:平野良さん、多和田任益さん)が登場する。彼は直哉の高校の先輩であり、AI技術を飛躍的に発展させた天才。5年前にターマイト社を設立した彼の発明により、世の中はこれまで人間が手動でしてきたことのほとんどをAIがするようになった。
櫛元は白スーツ姿で、朗々と演説をする。
(この時点で台詞量が凄まじく、これ平野さんも多和田さんも直哉の台詞と合わせて両方覚えたの?やばない?となる)

悪夢の最後は、アンサンブル数名が縦に立てられた棺の形をした木枠を一人ずつくぐっていく。火葬を暗示したシーン。
最後に棺をくぐろうとするのは櫛元美緒(演:今村美歩さん)。櫛元悟の妹で、亡くなっている。
美緒を焼こうとするのは白衣姿の木葦恭介(演:谷戸亮太さん)。櫛元の同級生、直哉の先輩で今は医師をしている。
傍らでは法衣を纏った新渡戸淳(演:松島庄汰さん)が経を唱えている。彼もまた直哉の先輩で今は僧侶をしている。

直哉は木葦を必死に止めようとする。「あんたがそれを焼いちゃ駄目だ、それは僕の仕事だ」と。
美緒は「ありがとう直哉くん。綺麗に焼いて」と棺をくぐる。
読経とパイプオルガンの音が聞こえる中、直哉はダイコクと問答する。

「白蟻は何故死ぬ?」
「王蟻がそう命じたからです」
「王蟻はいつまで生きる?」
36歳の誕生日まで

悪夢は醒めていく。

…と、文章で説明すると「なんのこっちゃ?」となるオープニング。とにかく視覚、聴覚から受ける情報が多い。
この約10分間のシーン、YouTubeにも公開されている。なんと太っ腹。



悪夢から醒めた直哉はダイコクに起こされ、数体のAIアンドロイドに世話されながらシャワーを浴びたり着替えさせてもらったり、朝の支度をする。
歯磨きさえも自分で手は動かさずダイコクが歯ブラシを口に突っ込んで奥まで磨き、二日酔いで嘔吐くというギャグシーンもある。

余談だがこの嘔吐き方が直哉役のキャストによって違う。
平野氏は「ゴホエッ」って感じの咳混じりな嘔吐き方。分かる。こうなる時あるよね。
多和田氏は「オエロロロロロ」って感じの胃から逆流したものが喉からせり上がってる音が喉から出ていて、あまりのリアルさに笑った。マジのそれじゃん。ゲロ出てんじゃん。再現力が高すぎる。その顔で出していい音じゃない
なんてことないシーンだが両者共に芸が細かいと思った所。

喪服に着替えて葬儀社に出社すると、既に直哉の父・(演:山森信太郎さん)、母・智美(演:保坂エマさん)、部下の児玉樹(演:溝畑藍さん)、八重山素子(演:内田靖子さん)が出勤している。直哉は取締役のポストについている。

遅刻だと譲に責められるが時刻はまだ8時20分。社長である譲の起床時間によって始業時間が決まっているような、奇妙な空気。智美の謝罪に対し、周囲の反応は淡白。ここは伏線になっている。

直哉の元に依頼が届く。依頼主の名前が有名人の櫛元悟のため誤りではないかと児玉は言うが、間違っていない。
櫛元悟は直哉の高校の先輩であり、依頼内容は櫛元の妹・美緒の十三回忌の法要を行ってほしいというもの。

直哉は彼らを初めて目にした時のことを思い出す。
櫛元家は町一番の害虫・害獣駆除業者で、年に一度、駆除した白蟻を弔う白蟻供養のため勢堂葬儀に来ていた。
まだ幼かった直哉は母に白蟻供養の説明をされ、制服姿(実際にはもっと下の年齢)の櫛元兄妹を見て「あの子、かわいいね」と呟く。母は「じゃあ、直哉のタイプなんだ」と。ここも伏線。

場面は変わり、木葦総合病院。
父の病院の副院長である木葦恭介は、高校の後輩である新渡戸淳に腎不全の診断を下す。
容態は極めて悪く、透析治療の他に、機械でできた人工腎臓の埋め込みを提案する。

同時に、過去のシーンが共に展開される。
美緒は心臓の病気に罹っており、臓器を提供してくれるドナーを待つか、もしくは新たに開発された人工心臓の埋め込み手術をする必要がある、と櫛元兄妹は説明を受ける。兄妹に説明をする医師は木葦の父である。
美緒は人工心臓を二つ返事で受け入れ、手術は成功する。

腎臓の説明、心臓の説明が過去と現在で交互にされ、同時に進行するシーンはテンポが良く斬新。
現在の木葦は父に対し、「一番になりたかったのか?箔が欲しかったのか?」と思う所があるよう。

シーンは現在の勢堂葬儀に戻る。
ダイコクは、児玉から集金した500円玉が昭和64年製のものだと報告する。
昭和64年は1月1日から7日までの1週間しかなく、このコインは希少価値が高い。さらに、もしエラーコインなら更に価値が上がると。
その話から、直哉は櫛元悟を思い出す。櫛元は昭和64年製のエラーコインだった。
昭和64年1月1日生まれの櫛元は、世間では昭和が生んだ最後の天才と言われているが、日本が生んだ最後の天才と称するべきだと直哉は話す。

数日か数週間が流れたころ。勢堂家では智美が「飲み込んだ魚の骨が腰に刺さって腰痛になった」と普通のことのように言っている。何を言っているんだ、と譲は困惑し、妻の認知症を疑う。ここも伏線。

そこにフェードインする形で美緒の13回忌が行われ、櫛元らが焼香を上げていく。
その後の会食には、櫛元、木葦、新渡戸、直哉が出席。
高校の生徒会役員(ここに美緒も入る)だった4人は、軽口を叩いたり当時の思い出話に花を咲かせる。

この中で木葦(愛称キョン)が櫛元以外の実家を継いだ3人のことを「俺が殺し勢堂が焼いて新渡戸が経を読む。この3人で輪廻転生ができるお手軽セットだ」とクソ不謹慎なオシャレブラックジョークで評する所が好きだったりする。おもしれー男…
不謹慎なだけでなく、作品のメッセージ性に繋がっていそうなポイントでもある。

思い出話をする中で、櫛元は自分達のフルネームとともに当時の役職をご丁寧に説明し、周囲に不審がられ種明かしをする。
櫛元は自伝の出版をすることになり、自分で書く時間がないため、ゴーストライターとして自分のコピーAIを作るべく、当時の思い出を学習させるため会話を録音していたのだと。
AIチップが入っているという恐竜のぬいぐるみを取り出す。ここも伏線。

それにしても自分たちのスペックでなぜ全員独り身なのか、何か欠けている所があるに違いない、と言い出す木葦。
まず自分自身は自覚がないが倫理観に欠けている。(←仰る通り)と、一人一人を分析していくが、完璧超人な櫛元の欠点は思い浮かばない。

直哉「櫛元先輩の何が欠けているかなんて、本当はみんな分かってた」


学生時代の回想へ。
この回想のすごい所が、喪服の襟を閉じると学ラン風の学生服に早替わりするという所。
視覚的に分かりやすく、かつテンポよく過去と現在の切り替えがされている。

生徒会の顔合わせから始まる回想。
当時の櫛元は生真面目、木葦は今と変わらず淡々とした面白い人、新渡戸は野球部の元気な好青年、美緒は明るい女の子、一年生だった直哉は緊張している。

下校時、直哉は櫛元兄妹に一緒に帰ろうと誘われおどおどする。「君、勢堂葬儀の息子さんだろう。小さい頃ずっと(自分たちを)見てたじゃないか」と、櫛元に認知されていたことが発覚。
どうしてこの高校に入ったのかと聞かれ、「一緒の高校に行きたくて…」とこぼしてしまう直哉。美緒には好きな人!?と聞かれおどおど。ここも伏線。

そんな中、新渡戸が現れ美緒をお茶(つまりデート)に誘う。兄の目の前で。
しかし秘密裏に誘うことは櫛元先輩に対して不誠実だと思いました!とガチガチに緊張して叫ぶ新戸部に対し、その心意気や良し!と特別に30分の許可を出す櫛元。(新渡戸は1時間と言っていたが、超絶シスコンの最大限の譲歩といえる)

こうして直哉は櫛元と2人で帰ることになる。
櫛元「残念だったな。美緒のことが好きなんだろ?
ただ、美緒はもうすぐ心臓の手術で入院するため思うように外出できなくなる。今のうちに楽しんでほしいのだと。

その後交際することになった新渡戸と美緒は、高校生カップルらしい甘酸っぱいやり取りをしている。

電車で隣り合う櫛元と直哉。
櫛元は美緒により良い心臓を作るため、実家を継がず人工知能工学を学びにアメリカに渡るのだと直哉に話す。

直哉「櫛元先輩は自分の心臓を美緒にあげたがっているように見えた。でもそれができないから、先輩は自分の人生を捧げることにした

新渡戸「まさか俺がお経を上げることになるなんてなぁ」

青春の回想は、現在の直哉・櫛元がそれぞれ日記や記録のために当時のことを話し、「今日という日をこれで終えよう」と言う形で終了。

AIに学習させる中で櫛元は「お前が僕を思い留まらせてくれることを、心の底から願っているよ」と不穏すぎる一言を口にしている。超大事な伏線。

シーンは現在の勢堂葬儀へ。

児玉は「世界で一番優れた生き物はな〜んだ?」とダイコクに聞く。ダイコクは「白蟻です」と答える。
ダイコクはコンテンポラリーダンスをしながら白蟻の生態を説明していくのだが、徐々にその勢いが増し狂気的なまでになっていく。
ここの島田さんの身体表現が体の関節どこ??という可動域と人間じゃあり得ない動きをしていて圧巻。

しかし観客が不穏さを覚える一方、児玉は「ジョークでしょ?」と笑って一蹴。
ダイコクらターマイト社製のAIは皆そう答えるらしいが、櫛元の実家が白蟻駆除をやっているからだろうと。

そこに八重山は、ターマイトは日本語で「白蟻」を意味する。なんか気持ち悪いな。自分たちが人間より優れてるって言いたいの?と不快感を示す。

ダイコク「私はあくまで生物としてのあの小さな白蟻について申しました。ですから八重山さんのご質問には拡大解釈が含まれていると考えられます。しかしながら我々アンドロイドが優れた生命体であることは否定できません」

八重山「生命じゃないでしょ?

笑い出すダイコク

ダイコク「失礼をいたしました!皆さんと仕事をしていると、時々分からなくなるんです。こんな当たり前のことが。機械なのにとんだエラーだ!」

爆笑するダイコクに、「ブラックジョークってそんなウケるもんじゃないから」と冷たくツッコミ。
(ダイコクにはこれ以前にも何度か人間の笑いのツボを履き違えてブラックジョークで爆笑するという癖がある)


その後、妊娠中の八重山は車で帰宅途中、飛び出してきた犬を避けようとして事故を起こす。
大した怪我はなくお腹の子にも影響はなかったが、相手の車を運転していたアンドロイドは機能停止に。

周囲や八重山の旦那はアンドロイドを物としてしか見ておらず、八重山が罪悪感を抱いていてもそれがアンドロイドに対するものだとなかなか思い当たらない。
この様子がなんとも見ていて胸糞悪くなるというか、モヤモヤして違和感を感じるくだり。
この「違和感を感じさせる」のが本当に上手い。これ以前のダイコクのこともあり、すでに観客は(私の場合は)アンドロイドを単なる物として見れなくなっている。


それから数日後、勢堂葬儀にある依頼が来る。
アンドロイドの葬儀をしてほしいと。
どこの葬儀社に行っても取り合ってもらえないが、世話になったこの子を廃棄処分になんてできない、弔ってあげたい、と依頼主は涙を流す。自分にとっては妹のような存在だったのだと。
このアンドロイドを殺したのは八重山の起こした事故だと直哉は気付く。
依頼主は妹と言っていたが、本当は恋人だったのだろうと直哉は察する。(ここも伏線)

依頼主の気持ちを汲み取った直哉は社長である父・譲に葬儀の許可を貰いに行くが、大の機械嫌い・アンドロイド嫌いである譲は猛反対する。
アンドロイドは物だ。葬儀は生命を弔う神聖なものだ。物に葬儀を上げるのは冒涜だと。
長く火葬路の責任者をしていた智美に意見を聞くと、「難しいと思う」と答える。
譲「今日はまともな日だ」
直哉「ああ、今日はまともな日だ」ここも伏線。
「でも、」と智美は続け、「弔いたいと思う気持ちに寄り添うのが葬儀社のするべきことなんじゃないかしら」と直哉に賛同する。

母さんはまともな状態じゃない、と訴える譲に、「今日はまともな日だと言ったのは父さんだ。そういう日を選んだ。こうして来たのは長年葬儀に携わってきた父さんたちの意思を尊重したいと思ったからだ」と、直哉は葬儀を決行することに。

直哉は僧侶である新渡戸に葬儀の相談をする。お経にはダイコクの意見を取り入れ、アンドロイドにとっての子守唄と言われている円周率を読むことになった。

初めてなんだから手作り感があっていいじゃないか、という話から、「手作りの葬儀…昔こんなことがあったような…」と過去の回想へ。


シーンは学生時代。
美緒が心臓の手術を行い入院し、4人になった生徒会会議で櫛元はある議題を取り上げる。

櫛元「本校の女子生徒が野犬に襲われ怪我を負った。本校の裏山には野犬が多く危険な状態だ。保健所の対応は未だ行われない。そこでこの問題を我が生徒会で解決しようと思う」

……??

櫛元「心配せずとも、櫛元は害虫害獣駆除の専門家だ」

………????

一同ポカンとする中で、櫛元は野犬掃討作戦の概要を説明する。

自分とキョン(木葦)で毒餌を作り、それを自分が設置。
死骸を回収し、勢堂葬儀の火葬路で焼却。
新渡戸にはお経を読み上げてほしいと。

………何言ってんだこいつ????

その疑問は新渡戸が真っ直ぐに投げかけるが、櫛元はまるで当然のことのように作戦の必要性を説明する。
しかしそこじゃない。学生の仕事ではないし、倫理観どうなってんだ。

櫛元がこんなトチ狂った提案をしだしたのは美緒に危害が及ぶ可能性を考えてだと分かり、新渡戸は「そういうことですか」と席を立つ。
美緒が手術をしてから、あんたはおかしくなった。寺の息子として殺生に加担はできない、と新渡戸は退室する。

木葦もまた、作戦自体は興味深いがバレたら内申に傷がつきそうだと退室。(倫理観ェ…)

残ったのは櫛元と直哉のみ。
お前はどうする?強制じゃない、と櫛元。

直哉「僕を…(間)…櫛元先輩には…僕が必要ですか…?」

……ん?

直哉「野山で焼くのは先輩にとってリスクになる…だから火葬路が使えないと困りますよね…?」

……おやおや?

直哉「僕が必要だと言ってください!!

櫛元「……僕には、勢堂が必要だ」

直哉「ならばやります!!先輩のために!!僕はあなたを否定しません!!その代わりに権利をください!!あなたに付き従う権利を!!」

(直哉のモノローグ)
「その夏、櫛元悟の秘密とともに僕は地球上で最も価値ある権利を手にした。
それは勝利者の夏であった。
僕と先輩は合計8頭の野犬を駆除した。
それは僕の人生において最も甘やかで幸福な時間であった。


………これはもしかして……アレか……??

ブロなマンス的なアレなのか………??

尊敬…?崇拝…?いや、「甘やか」なんてワードチョイス…

ブロマンスっていうか…アレじゃないと出ないよな…??

と観客(私)が思っているうちに、櫛元先輩は半年後、僕(直哉)を置いてアメリカに行ってしまい、僕たちは離ればなれになったそうな。ほへー…(その言い回しもさぁ…)

直哉がそう話す背後で野犬たちの手作りの葬儀を上げる櫛元は般若心経を読んでおり、美声だな…と両キャスト共に思う。
野犬たちの葬儀はAIの葬儀と、櫛元の般若心経は新渡戸が円周率を読む声と重なっていく。

シーンは現在へ。

譲は何かの数字を口にしているが覚束なく、そのうちひどく幼い言動を取る。認知症と言われていたのは智美だったが、これではまるで…。

直哉が始めたAI葬儀は話題となり、バズっている状態。
直哉が取材を受けた番組を見る櫛元。「面白いこと考えるなあ、勢堂は。これでまたアンドロイドについての法律が増える。うちの基礎はもう、穴だらけだっていうのにね
……不穏すぎるんだが??

新渡戸は木葦のもとで透析治療を始める。
(少し前にあったシーンで端折ってしまったが)ターマイトからの人工腎臓の提供を櫛元に断られたのだ。機械を体に入れた拒否反応による死亡件数が増えているのだとか。

勢堂葬儀にて、八重山は退職を申し出る。
AI葬儀が増えたことで、自分の起こした事故を思い出すと申し訳なくなるのだと。
八重山と仲の良い児玉は悲しむ。女子二人で飲む中で児玉は、今のうちに直哉さんに告白しちゃおっかな。もし振られた時に素子さんがいなかったら立ち直れないー、と管を巻くのだが…
八重山は迷いつつも、直哉と婚約していたことがあると打ち明ける。破局した理由は、2年付き合っていたが一度もできなかったからだと。(言わずもがな性交渉のこと)

………おや?もしかすると本当にもしかするか?

と、観客(私)が思ったところで。

「勢堂ーーー!」と、白いツナギ姿で手を振る櫛元。
眩しい笑顔。

(直哉のモノローグ)
「大学を出て、僕が葬儀屋として働きだした年の春。
前触れもなしに、僕の恋が帰国した。」

…か…

確定演出キターーーーー!!
こ、ここここれってやっぱり、ビーアンドエル〜〜〜〜
〜!?!?
ブロマンスじゃないよなぁ!?!?
「恋」だもんなぁ!?!?
はい、「恋」、帰国しましたぁ〜〜〜〜〜!!!!

私の脳内

これまで(もしかするとブロなマンス的な…?)(いや、もしかするともしかするか…?)と濁されていたものが明確に「恋」と表現されたことへの衝撃とともに、これまでのことが全て腑に落ちる。

・「あの子、かわいいね」→妹ではなく兄の方
・「一緒の学校に行きたくて」→兄の方と
・下校時の櫛元に対する挙動→完全に好きな人へのそれ
・AI葬儀の依頼主に対するマイノリティとしての共感
(依頼主がアンドロイドを「妹みたいな存在」と言っているが本当は恋人なのだろうと気付いたのは、自分もマイノリティであることを隠しているから)←これは私の解釈ですが…
・野犬掃討作戦での湿度の高いアレコレ
・2年付き合った彼女と一度もできない→恋愛対象が男性(おそらくそれ以上に初恋を引きずっている)

他にも探せば散りばめられたエッセンスがあれこれ出てくると思うのですが。
上手い具合に「直哉の思い人は美緒である」というミスリードをされていた所に、もしかして…?という段階を踏み、見事にひっくり返されたわけです。いやぁ見事。

面白くなってきたな〜〜〜〜〜!!!!

と、これまでのストーリーや演出も面白かったのですが、私はここで完全に心を掴まれました。(現金なオタク)


さて、話は脱線したのですが。(しすぎだろ)
櫛元が何故ツナギ姿なのかというと、実家に帰ってきて家業の白蟻駆除を手伝っているから。櫛元は「似合うだろ?」と笑ってみせる。人工知能工学は「間に合わなかった」。

地元からエリートが出たと言っていた周囲の人間は櫛元を嘲笑い、「機械に頼るからこんなことになるんだ」と言う譲に直哉は「知ったようなこと言うなよ!」と激怒する。ここの直哉の台詞、文字に書き起こせないくらい辛い。


場面は現在の勢堂葬儀へ。
年末に葬儀の依頼が入る。
12月31日の23時から1月1日の3時まで。
依頼主はターマイト
櫛元の側近AIの葬儀とともに、ターマイトの全AIの慰霊祭を行いたいと。
とんでもない額も提示される。
直哉は戸惑うが、八重山らの希望もあり引き受けることに。ターマイトとの連絡は全てダイコクが担う。

葬儀の相談を新渡戸にするが、年末は引き受けられないと断られる。新渡戸は櫛元に聞きたいことがあり、電話をしても繋がらないのだという。

舞台上方。
美緒らしき後ろ姿の女性の前で、呆然と座り込む櫛元。「完璧だ…」
「何もかも…全て完璧なはずなのに…」
鳴り続ける電話。

………この時点で不穏メーターが振り切れそうなんですが??

直哉は譲から年末の葬儀の許可を得る。
譲はすっかりボケてしまった様子。智美は譲に優しく接し介護をしている。
直哉たち勢堂葬儀は慌ただしく年末の葬儀の準備をする。譲は「彼な、よくやってくれてるよ」と。(伏線)

そして年末。
舞台上方にあった光る箱が、ワイヤーで下ろされる。
その中には公衆電話が。
あのセット使われないのかなと思っていたが、あれって電話ボックスだったのか〜〜〜!!という驚き。

電話ボックスに新渡戸が入り、木葦に電話する。
苦しげな声で、明らかに非常事態。
アンドロイドと揉めてアバラを折ったと。

何事だと問い詰める木葦に、「信じてもらえるか分からないんですけど…」と新渡戸は事のあらましを話し始める。

新渡戸は櫛元を訪ねた。
録音学習させたAIはどうなったかと聞くと、「失敗した」と。「やはり、人間のコピーを作るのは難しいなぁ」と言う櫛元からは、既に不穏な気配がする。

新渡戸は言う。AIチップを入れていたぬいぐるみは、高校生の時に自分が美緒にプレゼントしたものだった。

櫛元「だからあいつ、あんなに大事にしてたのか」

そう、これは美緒の大事にしていた遺品。

新渡戸「先輩が作ろうとしてたの、自分のコピーじゃないですよね?」

一方の勢堂葬儀。除夜の鐘が聞こえ、もうすぐ2024年は終わろうとしている。
にも関わらず、ターマイト社の者は誰もやってこない
ターマイトとのやり取りを一任されていたダイコクは、遺体はもうすぐ届く、歩いてこちらに向かっていると。

そこに現れたのは、櫛元美緒

「久しぶり、直哉くん」と発する彼女は美緒にそっくりだが、その喋り方はどこか機械的。
直哉は彼女が美緒ではないことに気付く。

「やっぱりそうなんだ。兄さんにもそう言われちゃったよ。ごめんなさい。あたしがもっと良くできてたら、止められたかもしれないのに

勢堂家では、年越しそばをすする譲が智美に「食べないの?」と。「食べられないのよ」
「あたし、アンドロイドなの」

勢堂葬儀では美緒を模したアンドロイドが説明をする。もうすぐターマイト製の全人工知能は機能を停止する

彼らのコア部分の時計は西暦の4桁ではなく、S99と記録されている。2025年は昭和100年にあたる。3桁しか入らない時計はS100と表示しようとするとS00になり、誤作動を起こし機能を停止する。

初めからそういう風に作られていた。
2025年の元旦に全て機能を停止するように

そんなことになれば、ターマイトのAI頼みになっている世の中は大変なことになる。
なにせ、運転も医療さえもほとんどをAIが行っているのだ。

美緒「これは兄さんの」

櫛元「僕の生涯をかけた」

美緒「長い長い掃討計画なのです」

櫛元「どこまでいっても僕は櫛元害虫駆除の跡取りで、それが僕の生きる道だ」

櫛元「なぁ、美緒が死んだ日のことを覚えているか?」

新渡戸「忘れると思うのか」

直哉「忘れると思いますか」

直哉「僕が泣きながら火葬路の火を入れたのは、これまでにたったの2回だけ」

譲「お前智美だよな?だって智美じゃないか」

智美「あたし智美じゃないの。智美さんは死んじゃったでしょ」

直哉「1度目は母さんを焼いた時。2度目は…」

場面は美緒が亡くなった時へ。

美緒の亡骸の前で土下座する木葦。
「許してくれ。親父は15年持つと言った」

櫛元は「きっと15年持つんだろう。美緒の体が拒否しただけさ」と、泣きも怒りもせずに淡々と言う。

櫛元「機械と人間は、やはり相容れないんだなぁ

新渡戸は泣き崩れる。

櫛元に「勢堂も触ってみないか?」と促され、直哉が美緒の胸に手を当てると、そこでは機械の心臓が鼓動を続けている。

美緒はもう死んでいるのに、心臓だけが動いている。

櫛元「こんな辱めが…この世にあっていいんだろうか…

直哉「2度目は美緒を焼いた時。薬でボロボロになった美緒の体はほとんどが形を成さず、機械の心臓だけが焼け残った」

櫛元「駆除しなくては…この世から駆除しなくては…」

直哉「あの日のことを忘れるものか!」

櫛元「機械とは、白蟻だ。社会という家の軒下に潜んでは、その基礎を全て食い荒らす。駆除しなくては…我が家が崩れてしまわぬうちに…」

新渡戸はそんなのは妄想だ、これまで俺たちは共存することができていたと反論する。

直哉は美緒に問う。なぜ機械を駆除しようという先輩が機械を作ったのかと。

櫛元と美緒は答える。
白蟻を最も効率良く駆除する方法は、家の建て直しに他ならない。
社会という家を建て直すために解体作業をし、世界は再生の道を歩み始める。それが「機械掃討計画」だと。

………狂っている。

美緒を模したアンドロイドはそれを止めることができなかった。完全な美緒になれなかった。

櫛元「僕に欠けたものが、もうそろそろ分かったかい?」
その笑顔には、狂気とともに切なさが滲む。

新渡戸は「今すぐ中止してくれ」と訴えるが、もう止まらない。

新渡戸「美緒はこんなこと望んでない!」

櫛元「そうかもしれない。しかし、今はこれだけが僕と美緒との繋がりなのだ」

狂っているのに、泣きそうに笑っている櫛元は哀れに思えてしまう。
しかしここにすかさず新渡戸渾身の一撃

新渡戸「美緒をあんたのイデオロギーにするな。破壊の象徴に祭り上げるな。死んだ人間に泥を塗るな!!」

正論でしかない。

故人の復讐を掲げる人たちにもれなく突きつけたくなる言葉。結局は自己満足じゃんと思うから。
いや、誰かに殺された、とかならそいつのことぶっ殺して気を晴らすなりなんなりお好きにすればいいと思いますよ。
ただ、その中に無関係な人を大勢巻き込んで、復讐を大義として掲げたら故人を穢すことになると思うんですよ。

新渡戸「誰かがあんたを批判する時、美緒も同じく穢されるんだ。美緒はあんたを、自慢の兄さんと言ったんだ。自分ばかりが悲しかったと、被害者ヅラも大概にしろ!」

言いたいこと全部正論で言うじゃん!!
自称・復讐者の人たち全員に特攻入りますよ!?

(誤解なきように言うと私は復讐者全般が嫌いなわけじゃありません。個人への復讐なら好きにやってくれ、むしろがんばれと思う)

新渡戸は櫛元に掴み掛かろうとするが、アンドロイド達に阻まれ投げ飛ばされる。
(この時に肋骨を折りスマホも壊れている)

櫛元「すまない。これ以上正しいことを、今は見つけることができない」

新渡戸「あんたはそれでいいんでしょうよ。だったら俺はどうなんですか。恋人は兄貴ほど悲しむ権利はないんですか」

新渡戸〜〜〜〜〜〜!!
そうだよな!!その通りだよ!!
美緒に限らず、親しい人が亡くなってその近親者が暴走したら!!自分は耐えてるのに…ってなるよ!!その人の「ために」と言って好き勝手してほしくないよ!!

やり切れないことはそこいら中にある。ただ耐えて耐えて、墓前を弔うことだけが正しい行いなのだと新渡戸は叫ぶ。

私は特になんの宗教も信仰してないんですが、お坊さんの言うことには説得力があるなと思いました。

木葦は「素晴らしい説法だ」と新渡戸の言ったことを信じる。「俺はどうすればいいですか」と問う新渡戸にこう答える。「鐘をついて回れよ。機械がなくなっても世界は終わらないって知らせて回れ」

もうどうしようもないなら自分のすべきことをする、と木葦は院内の患者を一人でも救うべく素早く指示を出し、トリアージの準備を進める。
もうすぐここに大勢が運ばれてくるだろうと。
倫理観が欠けてると自称しているが、医師としてはとてつもなくしごできな男、木葦恭介。好きだわ…


そうこうしているうちに、2025年まであと3分。

美緒「兄さんは直哉くんに感謝していました。ただ壊れるだけだったあたし達に、最後の場を設けてくれたことを」

ダイコク「短い間でしたが、お世話になりました。私は葬儀に携われて光栄でした。八重山さん、元気な赤ちゃんを産んでください」

八重山「私、最後にこの葬儀に出れて良かった。私が殺したのは、やっぱり生命じゃなかったと確かめることができたから。死を避けようとしない生き物なんかいないんだよ」

八重山が言っていることは文面だけ見ると冷たくも思える。しかしそこには、ダイコクの思いやりを受け取ったからこその憐れみが存在していると私は感じた。

美緒「間もなく兄さんもここに運び込まれるでしょう。可能なら…」

直哉「僕が焼く。大切なものは、全てこの手で焼いてきた」

櫛元「すまない。お前にばかり迷惑をかける

これは野犬の葬儀をした時にも言われた言葉。

直哉「謝らないでください。僕は先輩を…」

美緒「ありがとう、直哉さん。さようなら」

そして時計は止まる。
全ての電源が落ち、暗闇になる。
登場人物たちは懐中電灯で暗闇の中を歩く。
救急車の音が聞こえる。

木葦総合病院は他院より被害を抑えトリアージの受け入れ体勢が整っていた。その指示をしていたことから、木葦は情報を事前に受け取っていたのでは、と記者から追われる。
しかし木葦は一切を否定し、ひとえに自分の手腕によるものだと答える。自分は倫理観に欠けた所があるからこそ、国籍年齢性別関係なく救える命のみを救えたのだと。

直哉は棺の中から目覚める。
役者一同が白蟻の生態を説明する中、身支度をする。

そこにデイサービスの職員が譲を迎えに来るが、その容貌はダイコクに酷似している。
譲はデイサービスの職員のことを直哉と呼び、共に施設へ行く。
…年末の準備の時に「彼な、よくやってるよ」と言った譲は、すでに息子のことが分からなくなっていたのだろう。

直哉は木葦から骨壷を受け取り、運ぶ。道中で学生時代の櫛元兄妹の幻とすれ違う。振り返るとそこには誰もいない。

どこからともなく円周率を唱える声が聞こえる中、直哉は骨壷を棺に納めると出棺するように舞台下に押し込み、納骨する。

形見のぬいぐるみを供え、手を合わせる。

幕。


私のレポで伝え切れたとは思いませんが、拍手しながら「すごいものを観た」という感覚になった舞台でした。しばらく余韻を引きずった。

終盤の大晦日〜の展開は怒涛すぎて、台詞の引用ばかりになってしまいすみません。台詞がどれも重要すぎて削れない!となってしまい…

舞台の3箇所(勢堂葬儀、勢堂家、電話ボックス)で代わる代わる展開されていく会話と音楽の親和性とテンポの良さ、真実が明かされていく様にはカタルシスがありました。

時々私情を挟みまくってしまったのですが、なるべくストーリーを伝えることに努めたつもりです。
キャラクター(主に直哉と櫛元)に関する話や考察、感想などは後編で語らせていただきます。

近いうちに後編を上げるので、よろしければお付き合いいただければ幸いです。

それでは!



追記:後編書きました。


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