「ドイツ縦断ひとり旅」(21)ロストック バルト海に沈む夕陽 旅の情け
ロストックはハンブルクに次いで、ドイツで2番目の規模を誇る港町だけど、街から海は見えない。見えるのは整然と並んだ美しい建物たち。ピンク色の綺麗な建物は市庁舎だ。少し歩くと、13世紀に建てられた聖マリエン教会。渋いレンガ造り。時間的に無理だったが、中に入ると1472年に造られた、有名な天文時計を見ることができる。毎日、正午にはキリストの12使徒の人形が現れるからくり時計なんだって。ユダは一目でわかるそうだ。ここには1泊するだけなので、今回は見られない。
現在は市立図書館となっている牧師館も素晴らしいデザイン。ハンザ同盟(13~16世紀)の都市の一つだけあって、建築物の見事さに、往時の繁栄ぶりが偲ばれる。この北ドイツの商業同盟は、最盛期には70を超える都市が参加していたという。北の海はドイツの窓だったのね。
ロストックには1419年に創立された大学もあるけれど、日が暮れる前に海を見に行きたいので、断念。北へ向かって歩け、歩け。
ヴァルネミュンデに着いた! バルト海に面した海水浴場。夕暮れの海。 数えきれないヨットの帆が並び、遊覧船も出ている。あっ、白鳥もいる。 夕陽に向かって、ぶらぶら歩いていった。そして、夕陽が沈んでいくのをじっと眺めた。金色の美しい輝き! ここが、この旅行の折り返し地点かあ。いろんな経験をしたなあ。大切に持ち帰ろう。旅も終わりに近づいた。焦って怪我をしないよう、落ち着いていこう。
ディーンさんお勧めのシュトラーズントという、ドイツ最北東の町へは行けなかった。「ハンザの宝石」と称えられた美しい町らしい。ロストックでの思い出は、「心残り」かな。
あっ、あった! ドイツの海辺といえば、これ。シュトラントコルプ(海のバスケットという名のビーチチェア)。カレンダーの写真で見て、あこがれていた椅子だ。北海のは四角くて、バルト海のは丸いんだって。そーっと腰掛けてみる。通りがかりの人に、写真を撮ってもらう。やったー! 振り返ると、黄金の雲がひと刷毛見えた。
さあ、戻ろう、と思ったけれど、来た道を帰らずに聖ペトリ教会を捜し、立ち寄ったばかりに、道に迷ってしまった。辺りは真っ暗。
出会った人達に中央駅への道を尋ね、教えられた通りに進んで行ったけど、なかなか辿り着けない。焦るし、汗びっしょりだし。 もうだめだ。歩けない。ーーーと、そこへ1台のタクシー。ええい、乗っちゃえ!
「ロストック中央駅へ、お願いします!」 黙って走り出した、60歳くらいのドライバーさん。すぐ次の角を左折するや否や、駅が目に飛び込んできた。うそ! たった1分の乗車! こんなことなら、もう少し頑張って歩けば良かった、と思いながら、「おいくらですか?」と訊いたら、「いや、いや、ノー・マネーだよ。」「そんなー」「ほら、メーターも知らないってさ。」 そして、私にひとこと。「アレス・グーテ!」 涙が出た。
彼は「ごきげんよう!」と言ったのか。それとも、「お幸せに!」と言いたかったのか。きっと、「すべてうまくいくように!」色んな意味を込めて言ってくれたんだと思う。異国で受ける情けはひとしおだ。あのドライバーさんに、いいことがいっぱい起きますように!!