映画『星の旅人たち』
ある日、アメリカ人眼科医トムのもとに、一人息子ダニエルの訃報が届きます。
聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへ巡礼の旅※に出てすぐ、ピレネー山脈で嵐に巻き込まれたのでした。
ダニエルの遺品(バックパック)と遺灰を手にした彼は、息子に代わり、聖地巡礼を決意します。
聖地までは800km。
行く先々で、トムは遺灰を少しずつ、撒いていきます。
最初は孤独な旅。
川に落としたリュックを飛び込んでやっと拾い、ずぶぬれになったときの彼の孤独と消沈に、この旅を続けていけるのだろうかと、見ている者を不安にさせます。
やがておなじ道を目指す人たちと、出会いと別れを繰り返すうち、3人の仲間ができました。
ダイエット目的で巡礼しているものの、よく食べよく飲みよくしゃべり、いっこうに痩せる気配がないオランダ人、ヨスト。
禁煙目的で巡礼している、DV夫から逃げ出し、娘と生き別れた、ヘビースモーカーのカナダ人、サラ。
スランプを抱え、ネタ探しの旅をしている、雑誌ライターのアイルランド人、ジャック。
ちょっと頭がおかしい主人の宿屋から逃げ出したり、リュックを盗まれたり、打ち明け話をしたり、仲違いをしたり…。
4人の距離が徐々に縮まります。
中でも転換期になったと思うのは。
悪酔いしたトムが、ライターのジャックを「このパンをどうやって手に入れた、このワインをどうやって手に入れた、財布にあるクレジットカードのおかげだろう?」と責めて怒鳴り散らし、警官によって居酒屋から連れ出されます。
一晩、警察のご厄介になり、出てきた時、ジャックに「保釈金ありがとう」とお礼を言うのですが、その保釈金は、ジャックのクレジットカードで支払われたのでした。
それを知っているので、トムは身の置き場がないのです。
息子の代わりに聖地巡礼をしていることが、かっこうのネタだと思っているジャックが「じゃあ君のことを書いてもいいかい?」と迫ってくるのに、いやとは言えなくなりました。
ようやく到着した聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラで、トムは、息子の名前が記入された巡礼修了書を受け取りました。
決して関係が良好とは言えなかった息子へ、この旅を通じて、理解が芽生えていました。
ジプシーに教えられた通り、ムシーアの海に遺灰を撒きます。
ムシーアには、海に面した教会があり、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼のもう1つのゴールです。
ア・ビルシェ・ダ・バルカ礼拝堂
こうして帰路につくかと思いきや、トムはまた新たな旅へと出発するのでした。
映画の冒頭シーンで、「何故巡礼の旅に?」と聞かれ「息子のため」と答えたトムに、「道は自分のためのもの」と言った人がありました。
息子のために始めた旅は、いつしか自分の旅になっていたのです。
原タイトル「The Way」は、巡礼の旅と、自分の道をかけたのではないかしら。
道中の素晴らしい風景や、街の人々が織りなす文化は、ちょっとした旅行気分を味あわせてくれます。
一方で、ヨーロッパにおけるジプシー※に対する偏見が垣間見え、緊張感を強いられます。
もともとは聖地巡礼だったこの道が、自分探しやダイエットや禁煙を目的に、スタンプラリーのようになってしまったことへの、ちょっとした皮肉も感じないではありませんでした。
日本でも江戸時代のお伊勢参りなど、なかば旅行として娯楽の要素が強くなっていましたね。
※サンティアゴ・デ・コンポステーラ(世界遺産)
ローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の三大巡礼地。
州都であるサンティアゴ・デ・コンポステーラには聖ヤコブの遺骸が眠っているとされています。
毎日世界中から巡礼者が訪れているそうです。
※ジプシー
映画の字幕で「ジプシー」と翻訳されていましたが、軽蔑的意味合いがあるとされ、ロマ,ロマニーRomanyの呼称を用いようとする傾向にあります。
インドが起源と考えられる、ヨーロッパ最大の少数民族であり、かつては徒歩や馬などで移動していましたが、現在はキャラヴァンで季節ごとに移動生活をしています。
定住者も多く、映画では定住しているように見えました。
長らく、差別と迫害を受けてきましたが、とくにナチスが1933年から絶滅政策をとり,約50万人が虐殺されたのは有名な話。
カバー写真:facebook 星の旅人たち
https://www.facebook.com/hoshinotabibitotachi/
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