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山の郵便配達

制作年:1999年
制作国:中国
監督:フォ・ジェンチイ
視聴日:2024年2月10日

もやった朝の空気。
どこまでも続く棚田。
空へ伸びる木々。
切り立つ崖。
ゆったりと回る水車。
山も道も葉も人の顔も赤く染める広大な夕焼け。

人影はまばらで静まり返っています。

父から息子へ、郵便配達という仕事を引き継ぐ、120キロ、二泊三日の旅。

「次男坊」という名前の犬を先頭にして歩いていく、父と息子。
次男坊はこの道に慣れています。
川を犬かきで泳いで渡る、火にくべる枝を口にくわえて持って来る、風に飛ばされた郵便物をジャンプして集める。
おそらくは息子の弟という意味で、「次男坊」と名付けられたのでしょうが、ここでは息子よりも一人前。

山で人とすれちがうときは右側によれ。
愚痴だけはこぼすな。
郵便を届けるだけが仕事じゃない。
ときには孫に変わって手紙を読んでやる。

父親は息子に仕事を1つずつ丁寧に教えます。
素直に受け取る息子。

子どもの頃は父がいないのが普通でした。
あまり話をしなかったし、父さんと呼んだこともありません。
だんだんと尊敬の念が芽生えてきます。
いつしか自然と父さんと呼んでいました。

川を渡ると4キロ近道だ。
しかし水量が多いときは渡っちゃいけない。

息子は父親を背負って渡ります。
父親を背負えるようになったら男は一人前だと子どものときに言われたっけ。あのときは大きく見えた父親が、今は郵便物よりも軽い。

こんな日が来るとはな。
父親は息子の背中で涙ぐむ。

ときは1980年代。
この後おそらく中国の山間部までもインターネットは普及し、手紙を書く人も減ったでしょう。
荷物を背負い、1日に40キロも歩いて、二泊三日の旅をするような配達は、やがてなくなるか、あるいはもうなくなっているかも。

もしかしたら彼が最後の郵便配達人になるかもしれません。
消えゆく職業。

この映画の原題は『那山、那人、那狗』(あの山 あの人 あの犬)です。
あの犬、すなわち「次男坊」が果たす役割は大きい。
「次男坊」は、これまでずっと父親と一緒に郵便配達をしてきました。
父親が引退するなら、自分もそれに従う。
「息子と一緒に行け」と追い立てられますが、必死に抵抗する様子が涙ぐましいのです。
いやだいやだ、おいらはここに残る、おいらのご主人はお父さんのほうさ。

しかし、父と息子ふたり旅のお供を終え、翌日、息子がひとりで旅立つときは、門前に残る父親に、後ろ髪引かれる思いを抱きつつも、息子を追いかけて走っていきます。
どうやら息子は次男坊に、こいつならできると認められたよう。
そこがラストシーンです。


江戸時代まで、日本でも多くの人が親の仕事を引き継ぎました。
親と村の人々が師となり、息子は一人前になったのでしょう。



カバー写真:Amazon Primeビデオ

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