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「好きなことを突き詰めていいの?」人気児童文庫作家3人が明かす、創作のルール(前編)

昨今、児童文庫界隈がにぎわいを見せています。次々と新レーベルが誕生し、毎月の刊行点数も増加傾向に。
先日、ツイッターでトレンド1位となった「 #わたしを作った児童文学 」では、『若おかみは小学生!』や『黒魔女さんが通る!!』といった児童文庫作品も多くランクインしました。いまや児童文庫は、子どもたちにとって一大エンタメジャンルとなっています。
同時に「児童文庫を書いてみたい!」という人も増えているかもしれません。

今宵、3人の人気児童文庫作家キミノベル編集部に集結――!

あさばさんのTシャツに注目!?

あさばみゆき(写真左)
2013年に第12回角川ビーンズ小説大賞奨励賞を受賞。14年、第2回角川つばさ文庫小説賞一般部門金賞を受賞。「いみちぇん!」シリーズが大ヒット。著書に「歴史ゴーストバスターズ」シリーズ(キミノベル)、「星にねがいを!」「サバイバー!!」シリーズ(角川つばさ文庫)など。あさば深雪名義もある。

針とら(写真真ん中)
「絶望鬼ごっこ」シリーズ(集英社みらい文庫)で人気爆発。キミノベルでは「小説 魔入りました!入間くん」の文章を担当。他の著書に「死神デッドライン」シリーズ(角川つばさ文庫)、「恐怖の帰り道」シリーズ(学研プラス)などがある。

みずのまい(写真右)
『お願い!フェアリー♡ ダメ小学生、恋をする。』(ポプラ社)でデビュー。同シリーズは「おねフェア」と呼ばれ、23巻まで続く人気シリーズに。みらい文庫「たったひとつの君との約束」シリーズも大人気に。キミノベルでは「クリエイティ部!」シリーズを執筆。22年8月に『あなたの恋をかなえます ダーク』でホラー小説に挑戦。

児童文庫を書きたいという人、作品のウラガワを知りたいという読者、なんなら編集者もリアルなところを知りたい……ということで、創作について深くつっこんで聞いてみました!

なぜこのお三方なのか。
それはもちろん人気作家であることが理由なのですが、なにより……

編集担当が一緒だから(そこかい!)

👇念のため、自己紹介を……

松田拓也(ツイッター:@tm_xt)
一般書編集を経て、現在は主にキミノベルを編集。『歴史ゴーストバスターズ』『小説 魔入りました!入間くん』『クリエイティ部!』『幽霊お悩み相談室』『撮影中につきおしずかに!』『コトダマ!』『私は存在が空気』『かがみの孤城』(キミノベル版)『星の王子さま』などを担当。

ということで、松田が用意したのがこれ。

質問ガチャ!

手作り感あふれるガチャ(筐体自体は作ってません、スミマセン)

さて、どんなアツい議論がかわされるのか……。
最初の質問は針とらさんからいってみましょう!!

(ゴロゴロゴロゴロ……)

(なかなか出てこないガチャを見つめる一同)

じゃん!


【問1】主人公に求められるものは、なんだと思う?

松田 いきなり本質的な質問ですが……なんだと思います?

みずの ハリー(針とらさん)がみらい文庫小説大賞の選考会の時に、ものすごくいいこと言ってた。それを言うとかっこいいよ。

 無茶ぶりだなぁ……(笑)。ざっくり言うと、応援してもらえること。あとは、何かを欲していることですかね。主人公に何かやりたいこととかがないと、話がぐるぐる回っちゃう。けど、何かやりたいことがあると、そこに向かっていく過程に逆流するものを流してあげるとお話になるので。だから、何かやりたくて頑張るっていうことがある、っていうのが求められる資質かな。とかですか!?

みずの みたいなこと!  ある応募原稿に「何が足りないんだろう?」ってみんながなってた。そしたらハリーが「分かった! この主人公は応援する気持ちになれない。読んでて、頑張れ! って旗を振れないんだ」って。確かにそうだったなって。

 そうそう、その作品は、主人公の頭の中で全部進行しちゃっていて、「言いたくても言えなくて、やりたくてもやれない」っていうのでずっと進んでいて。現実で生きていると、そういうことって実際あると思うんだけど、それをそのまま描いてもドラマが起こらないので。何か一つ主人公が持ってる思いをちゃんと言うとか、行動するというところから始めないと、お話は広がっていかないのかな、みたいなことは言ったかもしれないです。はい。

  (一同拍手👏)

松田 みずのさんは?

みずの ……あ、みんな答えるの!?

松田 だって、座談会なので(笑)

みずの 「そっかー」って普通に納得して油断してた(笑)。私は、女の子向けはやっぱり”共感”が必要と思ってる。ここ数年よく見てる朝ドラは、女の人が主人公で、人気があるときは応援したい+共感できる主人公なんですよ。だからあんまりぶっ飛んだ主人公は……。

あさば ヤンヤンちゃん(『クリエイティ部!』主人公)はけっこうぶっ飛んでませんか?(笑) でも、ちゃんと共感できるからすごいですよね。

松田 そういう意味では、和子(『歴史ゴーストバスターズ』主人公)もぶっ飛んでますよね。

キャラクターデザインは、ヤンヤンは卯花つかささん、和子は左近堂絵里さんが担当。

あさば そうですね(笑)。和子もけっこうぶっ飛んだ系のキャラなんですけど、最初の初稿の時はすごいテンション低くて感じ悪かったんですよ。初稿終わった後に「このままやってくと人気出なさそうだな」って思って、ちょっと可愛い要素を付け加えて。あえてキャラを変えてったなぁと思うので、やっぱり私も主人公は共感が大切なのかなって思いました。

松田 応援できることと共感できることが大事。

みずの どっちかっていうと児童文庫って、テンション高めの主人公の方が多いのかな?

松田 逆ハー(逆ハーレム)ものとかはそんなに自己主張ないような気も。

あさば 逆ハーは個性をあえて作らない方がいいのかも……?

松田 ラブコメとかだと、テンション高めだったり。

みずの 逆ハーでテンション高いって、みんなイラっとするかも……! 「男の子がいっぱい!」って、チャラチャラしてるみたいで(笑)

あさば 低くても前向きさがあればね、応援したくなるかなって。後ろ向きでテンション低いとけっこうハードル高いですよね。セリフが「……」ばっかになっちゃう(笑)

松田 いきなり難しい質問でしたね。次、みずのさんお願いします!


【問2】アイディアはどういう時に思いつく?

あさば さっきみずの先生のブログを読みながら来たんですけど。

みずの なんか書いてた!?

あさば 「ご飯をいっぱい食べてよく寝てると思いつく」って(笑)

みずの そっか、それはそれは(笑)。 ちゃんと栄養を採るの大事。

あさば 心の栄養と。

みずの 体の栄養と。あと逆にない時も思いつく。具合が悪いとき、「あーーもうだめだ」ってときにキラキラしたものが見える(笑)

松田 自分が読みたいものとか見たいものが浮かぶ感じですか……?

みずの 私、デビューしたとき病気してたんですよ。その時に書いたデビュー作が上手くいっちゃって、なんか流れに乗ってったんだけど。だから弱ってるときもアリだなって。弱ってるときに、なんかもう一個のチャクラが開くみたいな(笑)

 参考になるんですか、これ!?  

みずの 真似しないで!(笑)

 でも確かに人生が上手くいってるときって書けない気はしますね。僕はわりと、漫画とか映画とかで面白いものを観てるとき「面白いな~」って思ってるとふっと出てきたりしますね。

みずの あと、「面白いんだけど、なんかケチつけたくなる」みたいなの。

 「ま、面白いけど、自分はこうしたいな」みたいな?

みずの そうそうそうそう。「自分だったらこうするな」っていう。『お願いフェアリー』って、『ドラえもん』からきてて。『ドラえもん』好きなんだけどさ、のび太が嫌いで(笑)だから、のび太を芯のある女の子にして、ドラえもんを道具を出すんじゃなくって、言葉をくれる妖精にした。

あさば 私はなんだろう……だいたい、眠れない時とかにもやもや妄想してると、なんかふって浮かんだのが……朝になると忘れてる(笑)

松田 少しも残らない感じですか?

あさば LINEに残したメモから一生懸命思い出そうとして、あんまりうまくいかないです(笑)

みずの でも、人の作品の表紙を見ただけでけっこう思いつきますよね。例えば、(『歴バス』を指さして)私も今度、男女二人組やってみようかな! とか。

あさば あー、きっかけが!

みずの (『絶望鬼ごっこ』を指さして)「逃げる」って人生最大のテーマだよなとか。

  (一同爆笑🤣)

松田 ふ~(ひとしきり笑って)。では次、あさばさんお願いします!


【問3】児童文庫を書くコツは?

あさば てってれ~!  って、うーん、これは出版社さんによってけっこう違いませんか?

みずの 違う……!

あさば 私はなるべく一文で改行するようにとか、特に一章はなるべく短い文章で書いて、だんだん後から詰めていきます。最初のとっかかりを、なるべくハードル低くしたいなぁと思ってますけど、どうでしょうか……?

みずの 最初の章は10ページ。「この話はこういう話ですよ」っていうのを、ばん!

 僕も、とにかくはじめから本題に入る。ミステリーとかでも、「はじめから死体を転がせ」って言いますよね。児童文庫なんで死体は転がさないけど(笑)。話の入り口はとにかく早く。児童文庫ならではって何かあります?

あさば スカートを短くしすぎない……(笑)

みずの うふふ(笑)。私もあんまり児童文庫って意識しないのも手かなって。そこでちっちゃくなっちゃうともったいないし。あとから編集さんに「ちょっとこれ児童文庫っぽくないんで」って直されればいいことで。

松田 たとえば、児童文庫って原稿枚数が少ないですよね。その枚数に収めるためにやっていることとかありますか?

みずの それはある。余計な描写を入れない! 私、国語の評価が10段階中「2」だったの。上から2じゃないよ、下からだよ。あまり凝った難しいこと書くのは自分には無理だし、たぶんそこを誰も求めてない。でも恋愛ものだと、気持ちのところでちょっと色っぽいことはほしいじゃない。そこはちゃんと押さえる。

 大人向けだったら3,4行書けるような描写も1行くらいでまとめるよね。だから児童文庫をずっと読んでると、大人向けの小説を読んだときに「なんか描写すげえ長えな」って……(笑)

みずの そうだよね。だって、例えば喫茶店に入っても、一般書だと喫茶店がどういう……とかってやるけど、児童文庫だと「おしゃれな喫茶店」で終わっちゃう(笑)

あさば 読者の想像力を信じる!!

 その分、キャラのセリフとかを、内面とかを書く。

あさば はい! 先生方に教えていただきたいんですけど、描写を削っていくと、いつも地の文のところが「うなずいた」とか「振り返った」とか「行った」とか、ワンパターンになっちゃうんですけど、どうすればいいですか?

みずの 他に、ない(笑)。私、デビューしたころ、地の文のメモ作ったんですよね。みんな似たような言葉を使ってるし、決まったパターン以外考えてもしょうがないんじゃないかな。

あさば あんまり凝ってるとわかりにくくなっちゃうけど、おんなじことばっかりやってるとどうなのかなという気もして……。

 あんまり気にしないことにしました。

あさば 気にしない……!!

みずの うん!(笑) あ、主人公の名前ってどこで出しますか?  女の子向けって、「わたし、○○!」って言っちゃいがちですけど。

あさば 三人称だと問題ないですよね。あと……

みずの 友達に呼ばれるとか。

あさば ですね! だいたい一章に主要キャラクター出揃うから、その二人目くらいにとりあえず呼ばせる?

 僕は三人称ばっかり書いてます。

あさば そうだ、針とら先生、三人称だ。三人称で分かりやすく読みやすいってすごい……!

 でもエセ三人称なんですよ、僕(笑)。 三人称からはじまって、一人称になって、三人称に戻ったり。エモーショナルなシーンになったら一人称の方に寄っていって、アクションシーンになったら、漫画のコマ割りみたいに距離をとって描くみたいな……。だからなんか、エセですよ。

松田 それはテクニックですよ!

みずの 「針とら三人称

あさば 名付けられた(笑)

松田 これはいいテーマでしたね……また針とらさんお願いします!


【問4】どうやってキャラを考える?

  名前の付け方とかって書いてある……。 僕、『絶望鬼ごっこ』を出すときに、10年前の赤ちゃんの命名ランキング見て、その上位の名前からイメージに合いそうなものをつけた。すると、発売したときに、その年齢の子どもたちが、「あ、なんか自分と同じ名前だから買っちゃえ」みたいな(笑)

あさば すごい策略(笑)

 自分と名前が同じだと、それだけで親近感持ってくれるみたいなとこあるじゃないですか。そういうので名前つけたりしてますね。

松田 実際にホームページにもそういう投稿が来てたりしますね。「名前が一緒なんです!」って。

あさば 私は名付け辞典を見て、カタカナの音でイメージに合いそうなのを選びます。和子は「わこ」って思ってたんですけど、ルビを自分で付けなかったら、ゲラのルビが全部「かずこ」になってました(笑)

松田 すみません……! あさばさんに「わこです」って言われて、そっかわこちゃんか! イメージにぴったり! って(いい加減な担当者)。

1巻の初校ゲラを発掘。「かずこ」どころか「あまてらす」と振っていた!(何もあってない)

あさば 「かずこ」もいいんですけどね(笑)

 コオリくんはどこからですか?

あさば なんかちょっと変わった名前つけようと思って。あと、 カッコいいかんじの名前にしたくて。

みずの 私も同じ戦法かも。あと、小学生向けファッション誌のモデルさんの名前をいただいたりとか。人気が出そうな芸能人とかアイドルの名前も拝借したり。『クリエイティ部!』は『ハイスクール奇面組』の「一堂零(いちどうれい)」とかそういうノリです。

あさば 「河川唯(かわゆい)」とか!

みずの 「雲童塊(うんどうかい)」とか!(笑) ただ「ヤンヤン」は、友達にヤンヤンっていうあだ名の人がいて、その人がいつもいろんな人に囲まれて「ヤンヤンヤンヤン」言われてるのを見てて、「なんかヤンヤンって人に好かれる、いいなぁ」って……。

あさば 「ヤンヤンつけボー」からかと思ってました(笑)

みずの イラストレーターの卯花つかささんもそう思ってたようです(笑)

松田 1巻発売時に卯花さんがツイッターで「ヤンヤンつけボー」のパロディの絵を描いてくださったんですよね。それで、みずのさんの中で「パンダだ!」ってなって、2巻でヤンヤンはパンダの仮装をしました(笑)

『クリエイティ部!#2 仮装マラソンで想いよ届け!』では衝撃のパンダ姿をお披露目!

みずの そうそう、なんかアイディアを回し合ってる。でも『たったひとつの君との約束』のみらいちゃんとひかりくんは、最初にぱっと思いついた。読者の子がよく「ひかりとみらいっていう名前が素敵で読みました」っていう感想をくれるんですよ。だからラブストーリー書くときは、カップルの名前って大きいと思う。それで女の子が萌えるか萌えないか。

あさば 組み合わせの気持ちよさみたいなのがありますよね。

松田 では次、みずのさんお願いします!


【問5】ネタ探しは、どうやってる?

みずの これ質問、勝手に変えていい?

松田 ダメですよ(笑)

みずの はい(笑)。アイディアは降ってくる感覚だけど、ネタは自分から探しに行くってかんじ。これはやっぱりね、いろんなものを読んだり観たり片っ端からしてれば、自然に見つかる。 ちょっと話ずれるんだけど、私「無限に作れる話の作り方」っていうのを思いついたんですよ!

あさば え、気になる!(笑) 知りたい。

みずの でも、ある人がYouTubeで全く同じことをしゃべってたんですよね。アクセス数を見たら何十万! おんなじこと思いついても、この人はこんなにお金がもらえるんだって(笑)

  (一同爆笑🤣)

みずの やっぱり今の時代はYouTubeをやらないとダメなのかって、思ったんですけど。それはギャグとして置いといて。ネタ探しは最近、講演会が参考になるなって思ってます。

あさば へー、行ったことないかも。

みずの 講演会に行くと意外なことが聞けたりしますよ。あとTwitterも面白いなって思ってて。人ってこんなこと考えてるんだ、こんなもの流行ってるんだ、みたいなのが観察できる。ネタ探しはあちこちアンテナ張ってれば、いろいろと出てきます。

あさば 私は本屋さん行って、平台に載ってる売れ筋の本からキーワードを拾ってって……なんかすごい夢がないですね(笑)。でもそこに自分が面白いと思える要素を加えていくといいかなと思ってます。ただ、その方式であんまり成功したことはない(笑)。ので、やっぱり好きを突き詰めた方がいいのかなってちょっと最近、思いはじめました。けど、とっかかりのフックになる流行り感は、多少必要かもしれません。

松田 編集者的視点ですね(笑)

あさば ははは(笑)。でも本当は、好きを突き詰めたものを持ってって、編集さんにアレンジしてもらえればいいのかなって……気もします?

みずの 必要な視点ですよ! あと、「これはどんなに頑張っても売れない」っていうのは、自分の中でリストがある(笑)

あさば そのリストが気になる!(笑)

 僕は担当編集さんの好きなものを聞いて、それを読んだり観たりします。要は、自分の外を見ないと、ダメだなって思って。他人が熱くなってるものを聞くと、「どうして熱くなってるんだろう」って考えるじゃないですか。そうしているうちに、なんか出てきたりするから。自分の外にあるものを摂取するのがネタ探しかな。

みずの ハリーは人間関係大切にしてるよね。ちゃんと目の前の人のことを見てる。

 それしか拠り所がないというだけな気もします……(笑)。読者の子たちが何考えてるのかさっぱりわからないから。

あさば 読者の子たちは何考えてるかわかんないですよね(笑)

 顔を合わせてる人が何を考えてるかすらわからないけど……。

みずの でもさ、自分の考えてることもわからないよね(笑)

 そうそうわかんない(笑)

あさば 結論、何もわかんない

 でも他人のことは面白いなとは思ってる。

松田 確か二度目にお会いしたときに、僕が昔好きでしたって言った漫画を、古本で探して読んでくださいましたよね。

松田が好きだったのは『モンスターファーム』のコミックスでした。

 ありましたね~。今までの担当さんがみんな出身ジャンルが違ってて。ラノベ出身の人と、青年漫画出身の人と、純文学出身の人がいて、まったく違うことを言うし、まったく違うものが好きだったから、自分の中から出すよりもそれを考える方が楽しいなって思った。「その人と仕事をしないと、こっちの世界のものを見ることは生涯なかっただろうな」みたいなものってあるじゃないですか。

みずの いろんなタイプの編集さんと会ってるから、視野が広いんだ。

松田 盛り上がっておりますが、次あさばさんお願いします!


【問6】シリーズを続ける際に、気をつけていることは?

あさば ネタがなるべく被らないようにするっていうのと、成長が巻き戻らないようにする。一巻で成長して「やったね」ってところを、また二巻でやり直すと、読む方はすごいストレスフルだと思うので、ちょっとずつ成長させてます。でも、あんまり先を考えてないので、自分でもどうなるんだろうなって(笑) ちゃんとシリーズが終わった時の主人公の成長した姿を想定して、プロットを段階的に組むべきだって気持ちはあります。あるけどできてないです(笑)

みずの すごいまじめ……! 私からは一つだけ。健康です。

あさば 大事(笑)

みずの あと、人間関係。

一同 (笑)

みずの 自分が健康でいれば、良い人間関係が作れるっていう、うん。これはすごいある。で、何をやってても、自分が健康でいることで、自分も楽だし周りも楽だし、いい流れでちゃんと毎月銀行にお金も振り込まれる。

あさば 大切(笑)

 わりとみずのさんに近いかも。シリーズは、作家と編集が楽しく仕事ができる状態をキープすることが大事かなって思います。楽しくなくなると、びっくりするほど何も書けなくなっちゃう。

みずの すごい分かる。

 編集さんから売れるためのリクエストがあるのはしょうがない。単巻の場合はなんとか応えていって、MP(※メンタルパワー)を消費していっても、一冊出るまでもてばいいやって。でもシリーズは終わりがわからないので。ちゃんと「この部分で自分はMPが回復する」みたいなところきちんと持っておかないと、無理だなって思ってます(笑)

松田 これは編集者が気を付けるべきことですね……! 作家さんのメンタル管理という面でも。

 ただそれで作家が自分の方だけ見てやろうとすると、今度は担当編集のMPが(笑)。だからなるべく両方ともMP管理ができれば……!

松田 お互いMP消費を気をつけましょう! では次は針とらさん!


【問7】王道(ベタ)と個性のバランスは考える?

 僕はこれ、児童文庫では「ベタは正義」だと編集さんともよく言ってます。自分の場合、個性は絶対後でついてくるからあんまり考えないでいいやって。バランスという意味では、個性は3割まで。それ以上個性が出てきちゃうと、たぶんあまり子どもがついてこれなくなっちゃうと思うので。どうですか?

みずの 私はね、王道がちゃんとできる時点でその人の個性は確立してると思ってる。子どもからすると、初めてじゃない? 本に触れるっていうことが。大人は「もうこんなのうんざりだよ」って思うのも、子どもからするとすごくちょうどいい。だから私もすごく王道は大切にしてる。
私、デビューして8年くらいからよく編集さんとかに、「みずのまい節」って言われるようになったのね。でも、たぶんお二人はすごいわかってくださると思うんだけど、それを言われることが、別にいいことでもないじゃん!? で、それに抗いはじめたんだけど、今度は企画が通らなくなっちゃった(笑)

一同 (笑)

みずの で、思ったのが、作家も芸人さんと一緒で、一回始めちゃったら最期までやるんですよ。島木譲二さんって芸人さんは「パチパチパンチ」って生涯ずっとやってたじゃないですか。だから作家も一回はじめたら、ずっとパチパチやるしかないのかも!(笑) この質問って、「王道をやると個性が出ないんじゃないか?」っていう発想から出た質問だと思うんだけど、私は、王道を自分でちゃんと消化して、きっちり書けた時点で、もう確立しちゃってると思うから。むしろ王道をやった瞬間に個性はできちゃう

あさば できちゃうんだ、そっか……ありがとうございます。「個性ってなんだろう」ってずっと悩んでたので。

みずの ほんとに!? ぜんぜん気が付かなかった(笑)

あさば 自分の中にある王道の通りにつくってるので、逆に個性ってなんだろうって。ずっと自分だけにしかできない何かがなんだかわからないまま書いてたので……。

 個性って、その人なりの「こだわる場所」みたいなイメージがある。物語を構成する要素っていろいろあるじゃないですか。キャラクターとか、ストーリーとか、文体とか、描写とかもそうだけど。こっちは深くいって、あっちはちょっと浅く、みたいな。その選び方が個性なのかなって思って。なんとなくわかります?

あさば やっぱりじゃあ「個性を出そう」って思って出すより、ちゃんと王道を踏まえた上で、にじみ出た自分の着眼点が個性ととられる。

 そうですね、どこに着眼するかっていうのが結局、人によってバラバラになってくるので。

松田 創作に携わる人ならみんな悩むテーマだったかもしれませんね。次はみずのさん!


【問8】どれだけ読者(子ども)を意識する?

みずの これはいい質問ですね…… どれだけ!? どれだけ意識してるか!? うーん、自分なりに「これは今の子にウケる要素があるんじゃないかな」っていうのは考えます。うん、けっこう意識してるかもしれない。

あさば 書いてる間?

みずの そうそうそうそう。でも人気が出てくるとお手紙がもらえるから、そこで初めて本当にちゃんと意識できるかもしれない。あぁ、こういうところを読んでくれたんだなみたいな。

あさば 私、みずの先生の勝手なイメージなんですけど、心に少年と少女が住んでて、その子たちが書いてる気がしていて(笑)

みずの あーー! でもね……。いや、やっぱりそうだと思う!!  ちょっと待って、最初の回答カッコつけてたかもしれない!!(笑)

一同 (笑)

みずの 私の普段思ってることは、けっこう子どもとシンクロしてるかなって。だから、そのまんま書いてる。

あさば 完全に読者さんと同じ目線で見れてるのがすごいなって思う。無垢な心の持ち主の作家さんみたいな。

みずの なんだろう、涙が出てきた。

あさば (笑)。『お願いフェアリー』のイルカちゃんはみずの先生なのかなって思ってたんですど……

みずの うんうん、全くその通り。

あさば 最後の巻、フェアリーちゃんが「あとは自分でやっていきなよ」って感じで背中を押すじゃないですか。そこで、みずの先生自身の心の移り変わりみたいなのも感じて……

みずの ちょっとやめて、泣いちゃうから……!!(笑) 『お願いフェアリー』は長いシリーズだから、担当者も途中で変わっていて、一巻からすべてを知ってるのはイラストレーターのカタノトモコさんだけなの。それで、カタノさんが担当さんから「あと3巻で終わる」って聞いたときにポロっと言ったらしい。「あ、みずのさんにとってフェアリーは必要なくなったんだね」って。

あさば ピーターパンが見えなくなるような……

みずの そうそうそう。私20代の頃、好き勝手生きてたんだよね。でもこれから頼るのはフェアリーじゃなくて、もっとたくさんの人たちだなって思って。そしたら最終巻を思いついちゃって……。すごいですね、あさばさん、エスパーみたい。

あさば そうかなって。ほんと、ずっと子どもでいたいじゃないですか。子どもの心をずっと忘れたくないなって思ってて、だからすごい素敵な方だなって。

みずの うふふ。でも私、他に雇ってくれるところないし……(笑)

あさば ずっとそのままで、けがれないでください(笑)

みずの もうね、話戻るけど、正直に言う。読者のことは考えてない! 自分の欲望しか書いてない! こういう恋がしたいとか、こういう友達がほしいとか、こういう遊びがしたいとか、自分の欲望だけ!(笑)

あさば でも現代の子もきっとそう、同じですもんね。私も、あんまり媚びちゃうとよくないなっていう気がしてて。「こういうのが売れるんだろう」みたいなのを自分も読みたくなかったので、上からじゃなくて、自分も子どもの目線でこういう体験したいなとか、逆にこういう体験だけはしたくないなみたいなところを意識してます。

 僕は最初「児童文庫は女の子市場なので、女の子の目線を意識してください」っていうのはすごい言われた。でも「女の子の目線を意識すると見透かされるから、あんまり意識しないでください」とも言われて……。

あさば 難しい(笑)

 え、どっち!?  って思って。意識したり、意識しなかったりでやったのが、デビュー作です。よくわかんなくなったから、二作目はもう何も考えなかったです。それが『絶望鬼ごっこ』。編集さんもあまり意識しない人だったので、自分たちが楽しいという感覚を煮詰めてやりました。でも企画とかプロットの段階ではそこそこ考えてるけど、どっかの段階であえて忘れるようにしてたり……どうなんですかね、よくわかんないや(笑)

松田 答えはひとつではないんですね。では、次……と言いたいところですが、今回はこの辺で。といっても実はこれ、まだ半分ほど。この後もアツい議論は続きまして……。

後編は来週公開予定ですので、どうぞお楽しみに~!