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胸キュンしても、つまみ食いするキョンは許せない?~じいちゃんの小さな博物記⑳
久しぶりにドライブをした谷本さん。キョンが増えていることは聞いていたけれど、千葉の大原、御宿あたりで、短時間で数頭に出くわしたとのこと。「キョン、かわいいですよね。でも、農家は困っているのです。」と、現状を教えてくださいました。
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第20回をお届けします。
谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。
「えっ、覚えてない?!」
孫の返事を聞いて、がっかりした。
野生化したキョンが千葉県内で増えているというので、5年ほど前、孫を連れて探しに行った。県南部の山道を車で当てずっぽうに走ったが見つからず、最終的には地元の人に教えてもらい、ゴルフ場で見た。
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群れる習性はないそうだが、数頭が一緒になって芝生を食べていた
野生動物の観察なんて、なかなかできない。だからキョンを見たことは、幼いなりにしっかりと記憶にとどめていると思っていた。
「つやつやの丸い粒のふんを見て、チョコレートみたいだと言っていただろ」
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「ふーん」
ダジャレを言うときかと思ったが、考えてみれば無理もない。小学校に上がる前だったから、その後に動物園で見たシカやカモシカとごっちゃになっているかもしれない。
だが、それは残念だ。せっかく連れて行ったじいちゃんとしては、ちょっぴり悔しい。そこで、数年ぶりのキョン探しとなった。
とはいうものの、その場所が思い出せない。自宅のある千葉市から勝浦方面に向かったのは確かだからと進むと、どこかのゴルフ場の案内板が目に入った。
名前に覚えはない。だがまあ、せっかくだ。くいっと、ハンドルを切った。
と。20メートルほど走ったところで、いきなりの遭遇だ。
「いた。戻って!」
「わかった」
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バックミラーで確かめながら、そろそろと後戻りした。ドアを開け、静かに、ゆっくりと道路に出た。
キョンとの距離は10メートルもない。芝草をもぐもぐさせながら、顔をすっと、こちらに向けた。耳の角度を変えてときどき動かすのは、警戒しているからだろう。
「かわいーい!」
「角があるから、オスだね」
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キョンはシカ科の動物だが、あしは短く、ふとしたしぐさが牛やカモシカを思わせる。もっともシカ科はウシ目(偶蹄目)だから、イメージが似るのもしかたがない。
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大くくりにすれば牛の仲間というのもうなずける
体のわりに目が大きく、愛らしい。シカ科には珍しく、オスの上あごには牙もある。
原産地は中国・台湾。観光施設で見せようと、千葉へ連れてこられた。足の先から肩までの高さは40~50センチだから、ホンシュウジカのおよそ半分といった大きさだ。体重比ではホンシュウジカの5分の1ぐらいか。
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野外で見るのは、施設から逃げだして野生化したキョンの子孫だ。県内だけで数万頭に増え、東京にまで北上する日も近いとうわさされる。
困ったことに水稲や柿、トマトといった農作物や民家の庭先の植木、草花などを食害する。夜には「ギャオー!」というブキミでうるさい鳴き声も発するから、なおさら嫌われる。環境省は特定外来生物に指定している。
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「だったら、キョンはわるもの?」
農作物を荒らすキョンはたしかに困りものだ。
でもその原因をつくったのは、海外から持ち込んだ人間の責任だろう。
「ギャオー!」という鳴き声はもしかしたら、人間に抗議したい気持ちの表れかもしれないね。