カメムシはほんとうに臭いのか~じいちゃんの小さな博物記⑨
カメムシは自分のにおいでダウンする? においのないカメムシもいる? そんなウワサのたえないカメムシですが、ほんとうに、臭いのかな? どれぐらい臭いのかな?という疑問をもった谷本さん。
今回は、カメムシのにおい調査レポートです。
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第9回をお届けします。
散歩の途中で、クズを見つけた。
そのつるにしがみつく、だるまさん体型のつやつや虫。マルカメムシの集団だ。
「いいにおいがするから、かいでみな」 孫が素直に鼻を近づける。
そして――。
「むへっ。ひどいよ!」
ぼくを責めているのか、ひどいにおいに閉口しているのか、顔をゆがめて訴える。
カメムシは臭い。
当たり前のように、そういわれている。
わが家のナスやピーマンを定宿にするホオズキカメムシは、確実に悪臭を放つ。立ち退きを迫ると、悪態ならぬ悪臭を放つ性悪だ。
ホシハラビロヘリカメムシもやっぱり臭い。とぼけた感じの人間の顔に見えるのだが、これがなかなかのくせ者、いや臭いものだ。
カメムシ自身は、なんともないのか?
そう思って数匹捕まえ、小さな瓶に入れてみた。瓶を振って刺激すると、しばらくしてから、どれもダウンした。
カメムシの悪臭は、おしりから出ない。成虫はあしの付け根、幼虫は背中にある臭腺開口部から、におい物質を発散する。
体験上、臭いカメムシは確かにいると言える。例に挙げた3種はどれも臭い。だったらカメムシはどれも臭いかと問われると、自信はないのだ。もしかしたら、カメムシが臭いというのは、えん罪かもしれない。
「カメムシだけど、どれも臭いと思うか?」
虫仲間でもある孫に尋ねる。
「そうでもないよ」
「だよな」
だから青リンゴの香りがするカメムシがいると聞けば、においをかいでみたくなる。
おなかが黄色で、赤・白・黒に塗り分けたソックスをはいたようなキバラヘリカメムシを見つけた。よく目にするので片っぱしからくんくんするのだが、芳香は感じない。
「どうだ?」
「うーん」
フェンネルに集まるアカスジカメムシ。
やっぱり、臭くない。
コブシの実のアカスジキンカメムシ。
これも臭いとは思えない。
オオメカメムシ、ナガメ、ウズラカメムシ、集団でいるオオキンカメムシもアカギカメムシも臭くない。片仮名を並べられても困るだろうが、姿かたちや色・模様に特徴があるカメムシは臭くないように思えるのだ。
もしかしたら、万人が臭いと認めるカメムシは意外に少ないのではないか。
猛毒を持つヘビだと知れば、たいていは出した手を引っ込める。それと同じで、臭いことで定評があるカメムシのにおいをわざわざ確かめる人は、多くないように思う。それが、ごくフツーの人たちの行動パターンではないだろうか。
同種でも個体差はある。時期による違いもあろう。当然、人の嗅覚にも差がある。
「じいちゃんの鼻はアテにならないからね」
家族の評価はさておき、鼻がきく人に判定してもらいたいものだね。