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カラスウリはレース編みがうますぎる~じいちゃんの小さな博物記⑩
夏は、日が暮れてからの散歩がおすすめ。ちょっと気をつけていると、暗闇に白く浮かびあがるレースフラワー、カラスウリの花を見つけることができますよ、と谷本さん。今回は、カラスウリのひみつのお話です。
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第10回をお届けします。
谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。
「玉章」「玉梓」と書いて「たまずさ」と読む、美しい日本語がある。結んだおみくじのような結び文のことで、むかしは思い人への恋文に用いたという。その呼び名は時を超え、カラスウリの別称としていまに伝わる。
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「カラスウリの種を財布に入れておくと、お金がたまるんだよね」
「そうだってな。でもそんなこと、だれに聞いたんだ?」
「じいちゃんじゃないの!」
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お金がたまるようにと、財布に入れる人もいた
自分で試してはいない。ヘビの抜け殻にも同様のご利益があるというし、たんすにタマムシを入れておくと着物がふえるといわれる。あれもこれもと手を出したら、ふえるのは標本箱のような気がする。
カラスウリは晩秋の山野を、朱色の卵のような実で彩る。その中にある種の形が大黒様のお顔や打ち出の小づちに似ているというので、金運招来に結びついたようである。
カラスウリの花は数年前まで、庭で見られた。だが茂りすぎるため、たまりかねて引っこ抜いてしまった。カラスウリの花見をするならもはや、どこかで見つけるしかない。
散歩がてら、探しに出た。雑草化するほどだから、珍しくはない。すぐに見つかった。
純白の花びらは5枚で、均整のとれた星の形。その先端にはレース状のデザインが施され、「たまずさ」の名にふさわしい風雅さで見る者の心を幽玄の世界に誘う。
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なーんて人は思うものだが、虫媒花なので誘うのは虫だ。花が咲くのは日が落ちてからで、夜明けにはしぼむ。いかに妖艶であっても、そんな時間帯に訪れるのは夜遊びが得意な蛾ぐらいのものだろう。
だがまさに、それがねらいだ。くち(口吻)の長いスズメガが飛んできてホバリングしながらみつを吸い、花粉を運んでくれる。
せっかくだから花が開くところを見ようと半時ほどその場にたたずんだが、変化はない。カラスウリの思い人であるスズメガも現れず、親しげに寄りつくのは蚊だけである。しかたなく周辺をぶらついて戻ったら、咲き終わっていた。なんともつれない話だ。
開花シーンを動画撮影する人もいるようだが、1時間半から2時間は付き合う覚悟が要る。
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次回に向けてご縁だけでも結ぼうと小指をつるの先に差し出し、そのままにした。
と、意が通じたのか、くるんと巻きついてきた。
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ありがと、「たまずさ」ちゃん。
数日後。庭で見慣れない葉を見つけた。キュウリの葉に似るが、それよりは小さく、つやつやしている。
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キカラスウリだった。旅先で拾ってきた実からこぼれた種が、いまごろになって発芽したようだ。キカラスウリの花は明るいうちに開くから、うまくいけば庭で観賞できる。
どちらのカラスウリも葉の根元から、俗に「じいさんひげ」と呼ばれる長い糸が出ている。カラウスウリに親しみを感じるわけは、そんなところにあったのかもしれないね。