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西村ツチカが描く『少年探偵 怪奇四十面相』ーー大人の読書感想画展#4

1冊の本を読んだ後、同じ本を読んだ人はどんな風に感じるんだろう、どんな景色を思い描いたのだろう、と気になったことはありませんか?

もしも、誰かが心に描いた景色と、同じものを見られたらー。

『大人の読書感想画展』は、絵を描くお仕事の方にお好きなポプラ社の本を読んでいただき、心に浮かんだ風景を一枚の絵にしていただくマガジンです。

今回ご制作をお願いしたのは、西村ツチカさん
漫画家、イラストレーターとして、書籍・CDジャケットなどの分野でご活躍されています。

北極百貨店のコンシェルジュさん(小学館)


ちくまさん(筑摩書房)

西村さんの作品は、まさに唯一無二。
印象的な構図と色使い、細かく描きこまれた無数の線により、絵の世界に引き込まれていくような感覚が味わえます。

西村ツチカ画集(玄光社)より

そんな西村さんが選んだ1冊は、『少年探偵 怪奇四十面相』
ご存知、江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズの中の一作です。

さあ、どんな感想画になるのでしょうか。
まずは本についてご紹介。

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『怪奇四十面相』 江戸川乱歩/作

世の中に「少年探偵団」は数多くありますが、その元祖ともいえるのが、こちらの「少年探偵」シリーズにでてくる「少年探偵団」です。

リーダーは、名探偵明智小五郎の助手・小林少年。少年探偵として活躍する彼が団員とともに追いかけるのが、稀代の大泥棒「怪人二十面相」なのです。

子どもたちが大人(しかも怪人!)と互角に渡り合う姿がスリリングに、そしてエンターテインメント性たっぷりに描かれたこちらのシリーズは、刊行当時から長きにわたり大変な人気を博しています。

しかし本作のタイトルは『怪奇四十面相』。
二十面相分、多いです!

本を開くとすぐにその理由が分かります。

明智小五郎に捕らえられた怪人二十面相が、東京都内の拘置所に入れられたところから物語がはじまります。
巷の話題は二十面相で持ち切りですが、拘置所に入れられてから5日目のこと。なんと新聞社に二十面相からの投書があったというのです。

世間に知らせておきたいことがある。それは、わたしの名まえについてだ。
わたしの顔は、たった二十くらいではない。その倍でも、まだ、たりないほどだ。もっとも少なく見ても、わたしは、四十以上の、まったく違った顔を、もっているつもりだ。そこで、わたしは、これから、四十面相と、なのることにした。二十面相を卒業して四十面相になったのだ。

作中より。一部省略

つまり、「自分、まだ本気出してませんけど?」ということなのです!
捕まっておきながら、なんと大胆不敵なことでしょう。

その後、見事に拘置所を抜け出した二十面相、もとい、四十面相。
劇場・お屋敷・古道具屋から洞窟まで、小林少年と奇々怪々の知恵比べを繰り広げることになるのです。

なんと、ポストに変装する四十面相!
小林少年が目撃した、骸骨たちの密談
アドバルーンにぶら下がっているのは、まさか四十面相⁉

終始わくわくする場面の連続なのですが、せっかくの感想画がいつまでもご紹介できなくなってしまうので、本についてはこの辺で。


西村さんのコメントとともに感想画をご紹介します。
(絵をクリックすると大きく表示されます。スマホの方は画面を横にするのがオススメです)


ー西村ツチカさんの作品とコメントー

小学生だった自分にとって『怪奇四十面相』は遠い過去の物語で、最初は少し古めかしく感じました。しかし読み始めると、冒頭からいきなり怪人と探偵の攻防がすごい勢いではじまっていて、そのまま怒涛のように奇妙な出来事が連鎖していく展開に、うわーと夢中になったことを覚えてます。

今回ひさしぶりに読み返して、あらためて圧倒されました。あと、物語の舞台のかっこよさを初めて意識しました。街ビルの上にガーゴイルの像がいたり、郵便ポストやオープンカーの様子など、小道具もどれも気が利いていて、前は素通りしていたそういう部分を、一つ一つ立ち止まって画像検索したりして楽しみました。





ほとばしる想像と舞台のかっこよさを、絵に描けたらと思いました。

あと、怪人の行動を知りつくした小林少年が、逆手に取って罠をしかける場面があって、今読むとそこでまんまとだまされてしまう、フェアプレー精神あふれる怪人にキュンとなりました。年をとったおかげでしょうか。

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人を傷つけるのが大嫌いな怪人は、小林少年にけがをさせることはありません。そのポリシーが仇となって、まんまと罠にはまってしまうのですが…。西村さんがキュンとした場面は、ぜひ本で確認してみてくださいね。

見るほどにかっこよさや、本の中の緊張感も感じるような1枚。
西村さん、ありがとうございました!

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