ショットショート「犬の置物」

 深夜、長い残業を終えて家に帰ると玄関の前に犬の置物が置いてあった。
一瞬、疑問に思ったが疲れていたのでひとまずその置物を脇に寄せ部屋に入った。

 次の日、昨日と同じくらいの時間に帰るとまた犬の置物が置いてあった。さすがに、疑問に思ったが疲れていたので一旦無視をした。

 また、次の日同じく犬の置物が置いてあった。3日連続となるとさすがに不信感は強まったしかし犬の置物に心当たりはない。

 次の日は、休みだったので3体の犬の置物を眺めて考えた。しかし、思い当たる節は全くない。ちょうどお昼時だったのでひとまず考えるのをやめてスーパーに向かった。
 
 スーパーで会計をしていると目の前のおばさんがカゴに私の家に置かれていたものと同じ犬の置物を入れてるのが目に見えた。わざわざスーパーで犬の置物を買っている異様さとこの3日で起こった奇妙な出来事からこのおばさんに声をかけざる負えなかった。

 おばさんは、最初怪訝そうな顔をしていたが、素性を明かし事情を説明すると納得した顔でこう答えた。

「知り合いの沼崎さんに頼まれてあなたの家の前に
この置物を置くよう頼まれたのよ」

おばさんの発言には、驚かされたが全て納得した。沼崎というのは私の小学校時代からの友達で彼の奥さん共々付き合いがある。一ヶ月前も沼崎宅で一緒に飲んだばかりであった。

 私は、おばさんに礼を言い事情を聞くため沼崎に電話をした。
しかし、沼崎は電話に出なかった。仕方なく、沼崎の奥さんにも連絡を取った。奥さんの電話も繋がらない。沼崎に何かあったのではないか、
私はそんな不安を抱きいてもたってもいられずに沼崎の家に向かった。

 沼崎は、早々と結婚し郊外に一戸建ての家を購入していた。幸せいっぱいの彼の身に何か起きたのだろうか、それとも、私へのいたずらのためだけに夫婦示し合わせて着信を無視しているだけだろうか。いろんなことを考えながら彼の家に着いた。

 彼の家は、土曜日の昼下がりというのに平日のような静けさを孕んで佇んでいた。私は、インターホンを押す。しかし、返事はなかった。

 何度かインターホンを押したが反応はなかった。私は、おもむろにドアノブに手をかけた。

 ガチャリという音とともにドアは開いた。

 全く不用心だなと思いながら、中へ入ると人の気配はなかった。人の家に勝手に入るのは気が引けたが友人の危機を感じた私は家の隅々まで調べた。きになるとすると、ダイニングのテーブルに置かれた犬の置物だけであった。

 「また、犬の置物か」思わず呟いてしまった。
 そして、ひらめいた沼崎の家の庭には物置があった。

 早速物置へ向った。少し大きめの物置。戸に手をかけ恐る恐る開く中は
暗くよく見えなかった。恐る恐る中へ入る。

 すると、何か大きなものが動く気配と共にピシャリと戸が閉じた。
私はその時全て察した。

 犬の置物は、いたずらでも祝福でも何かの啓示でもなくただの警告であったことに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?