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幼心のときめき

何度もきたことのある場所なのだけど、いつもはもっと手前のほうで引き返していた。

この日はいつもの散策とは少し違い、どこまででも進めるままに進みたい気分。

足の疲れを感じ始めるまで……と思いながら、ときどきに立ち止まり写真を撮りつつ歩く。
持参した水筒の水を飲みつつ歩く。

こんなに奥へ入るのは初めて…と感じ始めたところで、野鳥を観察している方に出会う。

「こんにちは」

挨拶をきっかけについ訊ねてしまう。

「どんな鳥がいるんですか?」
「子どもの頃から植物の名前には興味がありましたが、鳥はまだまだ見分けがつかなくて、名前もあまりわからないんです」なんて。


山の会話は不思議だ。
普段街で特段の用もないのに人に話しかけるなんてあり得ないが、ここには“つい”が存在する。

ひとしきりお話ししたあと、ふたりで道を戻り始めた。

「知っていますか。この道をくるまでに、水晶が採れる場所があるんですよ。少年のころ、友人らとよく採りにきたものです」

穏やかなときめきを感じる表情で、その方は案内してくれた。


なんてかわいい。

つい通ってしまいそうだ。
つい近所にどんな石があるのか、石のなりたちはどんなか、調べてしまいそうだ。


これだから外へ出るのはやめられない。

「まずはセキレイから覚えますね。それでは、また」

「ええ、また」

しばし進んだ先で教えてくれた鳥の名を口にして、その方とは別れた。きっと近いうちに、また。


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