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通天閣の下の赤ちゃん  第八話

   畦道の土手で小さな穴を見つけ、土竜でもいるのかと試しに掘ってみると室のように広がる蛇の巣があった。数十匹の群れが縺れ合いまるまっている。初めて見る不気味さにギョッとしていると後方で人の気配がする。麻布袋を持った蛇取りのオッサンだった。

 この辺は蛇の多い所らしい。蛇取りは蛇頭を長い金具で挟みつけ、手慣れた手捌きで全部捕獲してしまった。重く膨れあがった袋を肩に背負い「坊や、おおきに、蛇の巣穴教えてくれて助かったわ。ほかに穴知らんか」

 「そんなもん知らん。わてはこの土地のもんとちがうんや。それよりオッサン、この蛇どないすんや」

 「長いもんは皆売れるんや、これが家のもん、みんなのオマンマにかわるんや。蝮を捕まえてみい、尾頭付きもんやでえ、ここらで蝮を見たことあるか」

 「知らん。わては街のもんや、マムシって知らん。知ってんのは出雲屋のマムシだけやねん」

 それから、寺附近を徘徊する蛇取りとは挨拶する仲になった。半月経って無性に帰りたくなったヒロシは一計を案じた。財布の中の小遣銭で、まずオッサンから小さな蛇を買ってペットにした。それをポケットの中に入れて、食事中、「蛇ちゃんに喰わすんや」とわざと食卓に置いた。和尚の嫁と小坊主は長いもの嫌いだったので嫌悪した。和尚にありったけの告げ口をして追放しようとした。思惑が効を奏したようだ。まだ期限が来ていないのに庫裏で一寸と呼ばれた。

 「ヒロシさん。あんたもよく反省し、改心したようだ。もう大丈夫やろ、大人しく勉学に励むにちがいない。小学校も長期欠席は不味い。性格は治りましたと添え状を書くから、それを持ってバスに乗りなさい」と言い渡された。これは大成功だった。けれども帰ってきたヒロシの性根は、傷が痛がついたままで決して直っていなかった。

 「決闘の事やけど、なんでドクロ団とレンガ団がそない揉めるようになったんや。別にお前ら子供に利権や利害関係のもつれがあるわけないやろ。何が原因なんや。理由は何なんや」とナポレオンが聞いた。

 「理由なんかないのとちがう。なんで、こない揉めて争うのか分からん。なんでやろう。」

 「そらあ、そんな頼りないことで決闘やなんやなんて騒ぐのはおかしいでえ、やっぱり中止にしいや」

 「それはできんとさっき言うたやろ」

 ヒロシとナポレオンの間の空気が静まり、沈黙がしばらく続いた。

 お寺から帰ってから子供部屋の整理をしていたら特大の段ボール箱から、折れたり、皺のいった紙屑のようなヨレヨレのボール紙・画用紙のこま切れがドサッと出現した。誰かがダンボールの上に、何本かの南京虫退治の棒を置きっぱなしにしていたから、重さで動物園遊びの紙細工がヘシャゲてしまったのだ。南京虫には悩まされた。夏場に多い害虫で、夜寝ている間に襲ってくるのだ。噛まれた跡は皮膚が破れて血がうっすらと滲み、痒くて掻き毟ると出血が激しくなる吸血鬼のような厄介な虫である。


第八話終わり   続く

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