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17)役に立つとか立たないとか
これまで役に立つことを書こうと思いすぎていた。役に立つか立たないかは読んだ人が決めればいい。
毒にも薬にもならないようなことをちょこっと書き散らかす。なにこれ、この快感。
大学を選ぶとき、ネットもない時代の地方の高校生が持っている情報は少なかった。自分なりに考えて、なるべく実用的でない勉強をするところに行こうと思った。じゃあ理学部か文学部。何やってるか知らんけど。
行ってみると理学部にはべたべたの科学好きたちがいた。3人に1人くらいは科学マニアと呼びたいタイプだ。極端に言うと、現世はどうでもいいのだ。おもしろいからもっと知りたい、それだけの動機でやっている。研究対象や実験について考えること触れていることが息をするのと同じくらい当然だと思っている人たちが世の中にはこんなにいるのか。えらいところに来てしまった。とてもついていけない、ここは自分のいる場所ではない、と落ち込んだ。
自分の居場所ではなかったが、そんな研究者の卵たちと一緒に過ごし、もっとずぶずぶの研究者である教員たちと出会い、基礎科学の研究の片鱗に触れたことは、振り返ってみれば貴重な経験だった。
後々、法律や心理学を専門とする人たちと接することが多くなって、理学部あたりにはマニアックな人の割合が高いようだと気づいた。どの分野にも学究的な人はいるのだが、日常生活に直結して役に立つ専門分野はその実用性のために学ぶ人の割合が高くなる。その感覚だけでいると、基礎研究の意義はうっかりすると見失ってしまう。
結局、きわめて社会的な生活に直結した仕事に就いたが、世の中に役に立っているハードやソフトのすべての背景には基礎研究があること、その基礎研究ははじめは何の役に立つのか立たないのかわからないままに積み重ねられてきていることを肌感覚でわかるのは、マニアックな人たちとの接点があったからである。
2019/07/20
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