鍵を無くした時に呼んだ鍵屋に値切り交渉をした話

1.会社から帰ってきたら家の鍵がなかった

 ある秋の夜、20時頃に職場を出た僕は会社の隣の富士そばで夕食を取ると、まだ燦々と輝く霞ヶ関の庁舎群を背に、帰路についた。この日は大きな仕事を終えた夜だった。いつもは自尊心の乏しい僕も、この夜だけは愉快な気持ちで家路についていた。

 霞ヶ関から電車を乗り継ぎ都内の極狭小住宅に帰宅した僕は、玄関ドアの前で衣服のポケット全てを隈なく探す羽目になった。普段は右のズボンのポケットに入れている鍵がないのである。何度手を入れてもそこにない。

 会社まで片道30分程度である。まあそこまで遠くはない。実は何度か会社に家の鍵を置き忘れて来たこともある。きっと今回もそうに違いない。僕は玄関前でため息をつくと、また駅に向かって歩き出した。

2.これまでの鍵紛失とは異質な状況 

 地下鉄の中で、僕は今回の鍵の紛失の異質さに気がついてしまった。これまで鍵を会社に忘れて来たときは、小銭入れを兼ねたキーケースをデスクの上に置き忘れてきたことが原因だった。椅子に座るときにポケットの中身を全て出してしまう癖があるので、それに起因したものばかりだった。

 しかしながら、1ヶ月のうちに3回鍵を忘れて来たことがあったので、僕は鍵をキーケースから外して、直接ポケットに入れるように変えたのだ。それによって、職場でも鍵はズボンのポケットに入れっぱなしになっているはずだった。だから、これまでのようなことは起こらないはずだったのだ。

 会社についてデスク周りを探したものの肝心の鍵はなかった。僕は完全に途方にくれていた。霞ヶ関の官僚たちの灯りが異常に眩しく見えた。

3.マンションのヘルプダイヤルに電話をした。

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