2023.09.23
彼氏を初めて両親に紹介した。
付き合って5年半にしてやっとである。
・対面まで長すぎやしないかい
今までは母親が、あまり会いたがっていなかった。
「本当に結婚する人ならいいけど、そうなるかわからない人なら会いたくない」とバッサリ。
多分、私の男遍歴を見るのが嫌だったんだろう。
前日の22日、そのことを職場の女性(30代子育て中)に話すと、
「うーん。仮に◯ちゃんが今の彼とダメになっちゃったとして。お母さんも『前の人のほうがよかったのに』とか変に思いたくないんだと思うよ。それに、娘が離れていく感じがして、すぐに会いたくなかったんじゃないかなぁ。お母さんも子離れの最中なんだよ」と。
「子離れの最中」という言葉がストンと胸に落ちた。たしかに、母と結婚時期の話をしたとき、一瞬黙りこくっていた。きっとそれは当たってる。
そんな母がなぜ会うことを了承したのか。
少し話はそれるが、私の家族は毎年10月に長野に行く。ワインブドウ農家の親戚の収穫のお手伝いのためだ。周辺には蓼科などの観光地があり、紅葉もとても美しい。
去年の秋、その親戚の農家が「次は彼氏もつれてきたら?」と声をかけてくれた。それで私は母に、「今年は彼をつれて2人でいきたい」と相談したのだ。
すると、母は「私たちに先に彼を会わせなさい」ときっぱり。驚いた私が「えっ、会いたくないんじゃなかったの⁉」と聞き返すと、一瞬間をあけて、
「もうママはいいと思ってるよ」と言った。
それが7月末の話だ。
・こっちもこっちで大変
そんなこんなで彼氏と両親の対面が決まり、今日を迎えるまでの間、私は別の問題に頭を悩ませていた。
彼氏のロン毛問題だ。
8月下旬、私は彼と2か月ぶりに会った。すると、なぜか彼の髪の毛が私(ボブ)よりも長くなっている。
(ああ、また来たか・・・)
彼がロン毛になったのは今回が初めてではない。
私が21歳(大3)のとき、つまり今から4年前にも一度あったのだ。
当時は、(短い方が似合うのになあ)と思いながらも、特に口出しはしなかった。
一年ほど放っておいたら、「俺、ロン毛が似合わないことに気づいた」とまた短髪に戻った。
その後は就活や会社の規則もあり、しばらくは短髪が続いて私は安心し切っていた。
しかし、今年の5月、彼は服装規則のゆるい会社に転職した。そして、またもや「俺はロン毛にしようと思う」と言い出したのだ。
そのときは(どうせ1年経てばまた元に戻るはず)と放っていたのだが、ウチの母に会うとなると話は別だ。なぜって、母は大のロン毛嫌いだから。
私は知っている。弟がロン毛になったとき、毎日毎日に「髪切って」と言い続け、最後には「切らないと家から追い出す」と脅したことを。母のネチネチ攻撃は一度始まると止まらないのだ。
そんな母が彼と対面したら……(ゾッ)
心配した私は、ロン毛で現れた彼に「うちの母、ロン毛嫌いなんだよね」と伝えた。
(これで切ってくれるだろう…)と期待できたのもつかの間、
「うん、だからパーマをかけようと思う。そしたら髪は切らずに短くなるし」。
ウウウンソウジャナイ…。
彼の長さでは、相当チリチリのパーマにしなければ短くならないだろう。それに、チリチリパーマの男を母が好むとは思えない。
それに、これはただの長さの問題ではない。
結婚を考えている相手の親に会う以上、誠実そうな髪型や服装で行くのは最低限のマナーではないだろうか。
でも、(見た目についてあんまり口出しするのも嫌だな)と思った私は、それ以上言うのをためらってしまったのだ。
不安を抱えたまま、9月に入った。
そして1週間ほど過ぎたころだろうか。変な夢を見た。
彼がプロポーズをしてくれる夢。でも、「はい、婚約指輪」と渡されたのが、ゴム紐で出来た子供用の指輪だった。しかも4つ。
(え、ナニコレ…)とぼうぜんとしていると、
「これが〇ちゃんに似合うと思ったんだ。可愛いからたくさん!ふつうはこういう指輪じゃないのかもしれないけど、形式にこだわる必要はないと思うんだよ。気持ちが大事じゃん?」と彼が大真面目に話し始めた。
「エッ、そう…ありがとう…」と戸惑いながら答えた私は、彼がいなくなったあとに大泣きした。
「そうじゃなくない?形式もそこそこ大事じゃん…?」と一人でワンワン泣いた。いやなことを嫌と即座に言えない自分が情けなくて、夢なのにものすごい自己嫌悪に陥った。
「最悪…」
ハッと目が覚めた。なんつー夢…。
少し時間をおいて、(これは夢からの警告なんだ。ちゃんと嫌なことは嫌と伝えた方がいいんだ)と思い、彼にLINEをした。
「嫌な夢を見た、お願いだから髪を切ってくれ」と。
彼からしたら意味の分からないメッセージだっただろうが、彼は即座にOKしてくれた。
そのあと、彼から「このくらい切ればいいかな?」と送ってこられたイメージ写真がめちゃくちゃチャラくてNGを出したり、いろいろあったのだが割愛する。
・やっと来た…長かった…
そしてとうとう迎えた当日。彼からは「後ろはバッサリ切って、前は少し長めにした」とメッセージが来ていた。私は、(少し長めって、どのくらいの長さなんだろう…)と一抹の不安を抱いていた。
彼とは横浜駅で待ち合わせた。(どうか変な髪形じゃありませんように)と祈りながら待っていると、彼が現れた。
よかった、ちゃんと髪も短い。しかもスーツ!
珍しく彼も緊張していた。
両親と対面する食事会場についたとたん、口数が減った。そして…
「ママ、パパ、ついたよ」
両親に私が声をかけると、まったく気づいていなかったらしい両親は驚いてこちらを振り向いた。
彼は、きれいにお辞儀をした。
「こんにちは、○○です。○○(母の名前)さんと○○(父の名前)ですよね。今日はお時間いただきありがとうございます!」
頭を下げる彼をみて両親がにこやかに笑ったとき、「あ、もう大丈夫だ」と思った。
その後は両親と私、彼の4人でなごやかに話が進んだ。彼の家族の話、趣味の話…。話題が途切れそうなタイミングで私もパスを出しつつ(?)、終始とぎれることなく会話が進んだ。
何より、よくしゃべる父とよくしゃべる彼氏は、趣味も仕事も似ていて気が合ったようだった。
彼はいつもより緊張して、隣で汗をかいているのが伝わってきたけど、軽い笑い話も交えながら自分のことを知ってもらおうとたくさん話してくれた。
両親が「じゃあ、これからもよろしくね」と言うと、彼は「長い付き合いになりますから。こちらこそよろしくお願いします」とハキハキ答えて頭を下げた。私もあわてて3人に「今日はありがとう」と頭を下げた。
彼と二人になり、「お疲れ様、緊張したよね」と声をかけると、「うん、でも気さくな両親でよかった。お父さんの声があんな渋くて良い声だとは思わなかった」と言いながら手で額の汗をぬぐった。
「おつかれさま」と言いながら、感謝の念があふれた。
・気になる感想は
彼と別れ、実家に帰った。両親はどう思ったのだろう。
直接感想を聞いたりはしなかったけど、「十分話せた?」と聞くと、父は、「もっと○○くんとショパンの話をしたかった」とぽつり。
それで(よかった、合格!)と思った。
母も、「なんだか感心しちゃったわ。よくあんなに自分の家族や仕事の事を簡潔にわかりやすく話せるわね」と好印象の様子だった。
なんだか色々心配していた自分がバカみたいだ……と思ったそのとき、母が言った。
「でも、髪は少し長かったね」
「フッ…」
思わず笑ってしまった。母がいぶかしげな顔をしたので、実はロン毛問題があったことを話した。
母は、「うん、切ってもらってよかった。もし髪が長かったら、パパはその場で帰っちゃってたかも」と大笑いして、「昨日ね、パパと『明日は二度と思い出したくない日になるかもしれない…』って冗談で話してたの」とニヤリと付け加えた。
やっぱり、切ってもらってよかった…と心の底からホッとした。
(完)
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