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掌編:石売りの少年

「君がここらの穴蔵の石売りさんかい?」

「うん、そうだよ。何かお探しですか。」

「若いのにお手伝いなんて偉いねー。」

「うちの穴蔵は働き手はみんな石掘りしてるから。」

「そうかいそうかい。ところで、天然の宝石は置いているかい?」

「宝石だなんてとんでもない。そんな禁制の物は置いてないですよ。うちは由緒正しい溶岩石掘りなんです。」

「そうかそうか。それは悪いことを聞いたね。じゃあこれを3つ貰えるかい?」

「まいどあり。お代もたしかに。」

「ちなみにこれは何時間ぐらい熱は持つんだい?」

「それなら3日は持ちますよ。」

「そりゃすごい。お天道様もびっくりだ。」

「お天道様?」

「なんだい、お天道様、知らないかい?太陽のことだよ。」

「太陽だなんて、おとぎ話でしょ。」

「いやいやいや。おとぎ話だなんてとんでもない。太陽はあったんだよ。」

「えー。本当に?」

「本当さ。ただこの数十年ほど前に奪われてしまっただけで。昔はどこにいても太陽の光がさんさんと降り注いでいたんだよ。」

「それじゃあ、何で今はないの?」

「それが、突然奪われてしまったんだよ。それからは気温も坂道を転げ落ちるように下がって。それで今みたいに皆が地下の洞窟で暮らすようになったんだ。」

「……おじさんって、博識なんだ?」

「これでも長生きしているからね。」

「ふーん。どれくらいなの?」

「太陽を実際に見たことがあるくらい、だね。おじさん、この体になった第一世代なんだよ。さて、それじゃあ、そろそろおじさんは行くとするかな。また買いに来るよ。」

 そう言うと、おじさんは鋭い五本の爪で穴に手をかけると、尖った鼻を穴に突き込む。そして短い体毛に覆われた体をふるわせ、そのまま去っていった。

「そう言えば、見るって何だろう?」

 生まれつき退化した目しか持たない少年の呟きは、おじさんの去った穴に向け、消えていった。

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