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カープ優勝の年のこと

 正直僕は、ビビっていた。

 前の会社にいたある時、僕は上司から1週間ほどの出張を命じられていた。その場所は、広島。折しもカープが25年ぶりに優勝を果たした年、今や広島県全体が沸き立っているんだそうな。

 事前に入手した情報では、駅前は真っ赤っかに染まり、飲み屋とかお好み焼き屋では常にカープのテーマ曲が流れ、客も店員も一緒になって歌い狂喜しているという。マジかよヤベーな。

 その情報を聞いた僕は、その出張の期間は飲み屋や外食を避け、毎食コンビニにしようかと本気で考えていた。応援しているチームが違うから、ではない。野球に興味がないのだ。

 違うチームを応援しているのならまだ、マシだ。居酒屋で隣のオッサンにカープ優勝の喜びを分かち合おうと話しかけられて、カープファンじゃないことがバレたとしても、おうおう残念だったなぁプゲラッチョwくらいでイジられて終わるだろう。しかし、考えてもみて。

「どこから来たんや?ほぉ岐阜か、じゃあどこのファンや?」

って訊かれて、

「いや野球興味ないですし」

とか答えたら音速で殴り殺されるでしょ。ヤバいもう終わったわ。

 そんな話をディスコで友人と話したら、

「何言われても『菊池カッケーんすよ』って言っときゃ大丈夫だよ」

と言われたので、なるほど、菊池ってのが誰なのか知らないし、付け焼き刃感ハンパないけど、それで何とか乗り越えられそうな気はした。

菊池カッケーんすよ。

菊池カッケーんすよ。

菊池カッケーんすよ。

よし、完璧だ。

 そして出張当日。誰にも声掛けられませんでした。

 っていうかお好み焼き屋にも入ったけど普通にカープの曲もかかってませんでした。

 嘘つき。

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