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光ケーブル通信の営業と対決する



 強い雨が雨戸を叩き、強い風が雨戸を揺らせています。
 台風6号は迷走に迷走を重ねた挙句、元の軌道へ戻し、何かを思い出したかのように加速を始めました。到来前は『休みの間を家で引きこもり生き残れるだけの食料を確保せねば』とも考えていましたが、その心配は杞憂に終わったようです。今日も今日の分のおかずを調達に行きました。
 外に出ると、そうは言っても強い風と雨に打たれます。台風の時特有の、どの方向から来るのかイマイチわからないような風。この風を受けると、なんだか昔のことを思い出します。小学生低学年の頃に暴風が吹き荒れる中で家の外へと遊びに行き、強い風に吹かれながらTMレボリューションごっこをしていたらトタン板が猛烈なスピードで顔を掠めていったという思い出です。顔に当たっていたら大怪我ですし、下手したら失明していたかもしれません。これも思い出ですし、多少はステーションマスターとしての役に立ちますかね?どうぞ回収していってください。まぁそう遠慮せず。

 買い物を終えて家に戻り寛いでいると、インターホンが鳴りました。おかしいです。この台風の中、訪問する人などいるはずがありません。幻聴かとも思いましたが、一応確認してみると、いました。
「こんにちは〜!◯◯ケーブルテレビのものですけど、Wi-Fiの増設について確認で回っておりまして」
「はぁ」
 光通信事業者を名乗るものが訪問して来ました。まぁこんな台風の中よくやるものです。ちなみに、NTTやKDDIといった光通信事業者の本体が訪問することはまずありません。100%代理店の営業です。興味がなければ相手にする意味はありません。
「こちらのお宅ではWi-Fiご利用ですか?」
 変なことを訊くね。Wi-Fiって無線通信規格のことだから無線LANルーターのことか……?なぜそんなことを訊くんだろう。
「ええ、使ってます」
「どちらをお使いでしょうか?」
「確か……バッファローです」
「…………」
「…………」
 呼吸を止めて1秒。
「えっと、そうじゃなくてネットの会社ですよ。はは」
 何笑ってるんだ、Wi-Fiがどこか訊いてきたのはそっちだろう。まさか光ケーブル通信のことをWi-Fiと呼んでいるのか?もうむちゃくちゃだな。Wi-Fiの意味が分かってなくて言っているのか、昨今Wi-Fiって言葉が一人歩きしているからイメージしやすいようにわざと使っているのか、おそらく後者だろうが……
「ええ?それでしたらお宅で使ってますよ◯◯ケーブルテレビさんで」
「ああ、そうでしたか!それは失礼致しました」
「いや、ケーブルテレビさんなら利用者の顧客情報くらい持ってますよね?僕が使ってるかどうかくらい……」
「ありがとうございました!失礼します〜」
 営業は、こちらからの質問には答えずに音速で撤退していった。通信事業者本体だったら当然顧客情報も持っているだろうが、この手の営業は120%代理店だ。ケーブルテレビの名札を胸に提げていたが、あれもよく見たら「ケーブルテレビ『正規代理店』」などとあるはずだろう。当然顧客情報など持っているはずはなく、契約に繋がらなさそうな奴と話している暇はヤツらには無い。流石はゼロ、引き際を心得ているな…!しかしケーブルテレビの代理店だと正直に名乗らず、本体を騙ったのでお返しにいじわるな質問をしようと思ったのに、すぐ逃げられてしまった。
 もっと話したかったな。通信インフラ自体のことをよりにもよってWi-Fiなどと呼ぶに至った経緯や、昨今のスマホでのパケット通信量のことをギガなどと呼んでいる利用者に屈服して、今ではキャリアのカタログにすら「ギガが無くなっても安心!」などの文字が踊っているという悲しい事実についても。
 しかし、そんな理不尽にも屈せず、彼らは台風の中飛び込み営業をしている。生きる為に己の信念を少しだけ曲げれば、その分だけ社会に適合した大人になれる。しかし、自分を曲げすぎるとまた、生きることは難しくなるということも、覚えておきたい。なにもこんな台風の中営業に来ることはないと思うのだ。あーあ、営業さんの傘が風で逆向きになっちゃってるよ。あんなに雨風に晒されちゃって、TMレボリューションごっこは大人になってまでやるもんじゃない。西川貴教も「本当に危険なのでTMRごっこはやめて下さい」って言ってるからね。営業成績とか、そんなんどうだっていいから台風のせいにして帰った方がいいよ。

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