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昭和と和解した令和の結婚育児論

岸田政権の少子化対策が止まらない。

早くも異次元の少子化対策として第三の矢が放たれた。それが『子どもファストトラック』だ。国立博物館など国の施設において、子供連れの家庭は並ばずに通れる専用のレーンを新たに設けるとのことである。

第一の矢であるURリフォーム提供に対して、筆者は『これはどちらかと言えばすでに結婚している夫婦向けであり、もっと未婚男女が結婚や育児に憧れる政策を打った方がいい』とnoteに書いたが、今回の子どもファストトラックは、まさにまだ結婚や子供など考えていない男女へアピールする少子化対策と言える。

正直なところ、これまで打ち出したUR団地リフォーム提供奨学金返済免除の二つに比べるとメリットは大きくない政策ではある。しかし『国は子育て世帯を独身、DINKS世帯よりも優遇しますよ』というメッセージ性においては3本の少子化対策の矢の中では最も強い施策である。言い方を選ばずに言えば、国が子供が ”いる” ”いない" で扱いに差をつけることを明言したのだ。はっきりそう言ってしまうと角が立つため、『国立博物館で子供ファストトラックを導入します』というパッと聞いてもよくわからず、博物館なんて行かないからあんまりうちは関係ないか……と多くの人にスルーされるような遠回しな政策を打ってくるあたり、岸田政権のしたたかさを感じざるを得ない。

UR団地リフォーム提供は結婚して第一子を授かって以降の夫婦、奨学金返済免除はこれから結婚を考えているカップル、そして子どもファストトラックは結婚子育てについてまだ一歩を踏み出していない男女、かなり準備して様々な階層の男女に”そろそろ結婚して子供を作ってみませんか?国も後押ししますよ?”というメッセージを伝えている。岸田政権の少子化対策はハッタリではなく本気である。

しかし、残念なことに岸田政権が考え抜いて打ち出して来た少子化対策(おそらく今後も次々と新しい政策が打ち出されると思うが)だけでは、少子化が劇的に改善させるほどの効果は薄いように思える。

もちろん改善は多少するだろうが、令和日本に根付いた個人主義自由恋愛主義の思想の下では、どうしても既婚率を爆上げし子供の数を増やすことは難しい。やってみたい人はどうぞ結婚して子供を作ってくださいね、という優しい声かけだけでは少子化をV字回復させることは困難だ。

そしてそのことに岸田政権も当然気が付いている。少子化をV字回復させるために最も重要なことが”価値観の変容”である。政府は少子化対策を語る際に度々『社会保障制度』についても併せて触れている。

『2022(令和4)年の出生数は過去最少の79万9700人となった。わずか5年間で20万人近くも減少している。2030年代に入ると若年人口は、現在の倍の速さで急速に減少することになり、わが国の経済社会は縮小し、”社会保障制度や地域社会の維持が難しくなる”。これから、6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ。

産経新聞:首相記者会見要旨 少子化対策「社会全体の意識や構造を変える」

そう、日本政府は少しずつ慎重に『少子化問題』と『社会保障制度』の関係について世論にメッセージを送り続けているのだ。そのメッセージとは『社会保障費が足りない。なぜなら少子化だから子供を作らない男女がいるから社会保障制度が維持できない』というものだ。

これが世間に根付くと過半数を超える子育て世帯、そして子育てを終えた高齢者たちの間に『子無しが楽してるから社会保障が回らないんだ!』という世論が産まれることとなる。平成令和とかけて積み上げてきた個人主義と自由恋愛主義が、昭和の古臭い保守主義、皆結婚主義とぶつかるのである。

岸田政権の目論見通り(というか他に少子化の解決策がない)に昭和の価値観が既婚子持ち世帯、既婚高齢者の中で蘇えり、メディアもそれを後押しすれば、少子化対策としてはこれ以上ない効果が得られるだろう。

日本人にとっての最高の少子化対策は『みんな結婚して子育てしていますよ』と同調圧力のかかる社会を作ることだからだ。日本人は同調圧力に弱い国であり、常に人生の大きな決断コストを肩代わりしてくれる”世間様”を求めがちだ。そのコストを政府とメディアが作り出した”令和の世間様”が受け持ってくれるのであれば、あまり深く考えずに結婚出産をこなしていくだろう。マスクなどの自粛やワクチンをすんなり受け入れたときと同じである。日本人は世間様が決めてくれたことには従うのだ。欧米の自由過ぎる社会に日本人はもう溺れそうになってしまっている。

ただやはり昭和の価値観がそのままと返ってくるということはないだろう。令和に根付いた個人主義や自由恋愛主義の価値観や、進歩し続けるITと融合する形で俺たちの昭和は帰ってくれると思われる。昭和と令和が和解した結果、新しい結婚育児文化が形作られるはずだ。

そもそも昭和の日本はなぜ既婚率や出生率が高かったのであろうか?昭和の多子家庭を支えた三本柱が……

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