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すんどめも信じた道をいく(8)真昼のまひろとそして、いと。




平日の真っ昼間、中年男はぽやぽやと石山寺。


光堂を後にすると、ゆるゆると坂をくだりながら次の目的地「紫式部像」を目指す。

緩やかな坂から急勾配の階段へと差し掛かると、眼下に広がる樹々のあいだから紫式部のお姿がチラチラと見えた。はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと階段を降りていく。

階段を降りてほどなく、紫式部像の前でインテリ神様老夫婦が記念撮影をしているのを肉眼で確認する。奥様が紫式部像の前に立ち、にっこり笑う。旦那様がよだれを垂らして、推し活ばりにパシャパシャいく。

近づいてパシャリ、遠退いてパシャリ。
しゃがんでパシャリ。立ち上がってパシャリ。

寝そべってパシャリ!半裸でパシャリ!
逆立ち、バク転、前まわり!
大凧に乗ってカシャカシャ激写!!

パシャリ、パシャリとえびす顔。


樹々に囲まれてひっそり佇む紫式部像は、初デートのようにはしゃぐ老夫婦を前にして、穏やかにくつろぐ。


私はお邪魔にならないように、急かさないようにと、気配を殺してそっと腰を下ろして身を潜める。手から足から顔からとワサワサ葉っぱが生えてきて周りの樹々に擬態する。

膝を抱えるようにしゃがんでいるとなんだか日曜の昼下がりにかくれんぼしている様な気分になる。チラチラと顔を出して老夫婦の様子を見る。よし、気づいてない。

擬態化が上手くいきすぎたおかげで、老夫婦はかわりばんこにポーズをとって夢中になって撮っている。私はその微笑ましい様子を生温かい目でこっそりと覗く。

キャッキャ、キャッキャの老夫婦は紫式部とのスリーショットを撮りだした。が、何度も何度もチャレンジするも、シャッターを切っては小首を傾げている。どうやら納得がいかないご様子……これは……おせっかいモード発動するしかない……。

擬態化を解いて、樹々の中から突然、ヌッと現れる。


「お写真撮りましょうか?」



ヒィッ!!!


めいっぱい気さくな紳士を装ったつもりだったが、大失敗のようだった。


老夫婦の短い悲鳴と私の心がポッキリ折れる音が山寺にこだまする。


まだらに落ちている木漏れ日が微かに風で揺れる。


心折れながらも、悲しき不審者は「よろしかったら撮りますよ」気丈にふるまう。

すると満点不審者の顔をまじまじと見ながら、


〝あぁ…さっき目ぇつぶってぐるぐるまわって崖に向かって歩いたバカか…〟



ただのバカだと認識したのか、老夫婦の顔から警戒色が消えてゆく。

「えっ…あっ…ほ、ほんなら、たのんます!!」壊れた笑顔で私にスマホを渡す。


インテリ神爺さんのスマホを構えて、ご夫婦と紫式部像の記念写真を撮ることに。

私は「…あれっ、えっ、ま…まひろみたい!!まひろとまひろ!?どっちが紫式部⁉︎」なんて軽口を叩きながらスマホを構えていると奥様が

「よく言われます」

なんてノリ良く言うもんだから嬉しくなってつい、


「すいません、だんなさんの方です」


と言ったら

「なんでやねん!!」とキレのいい奥様。

すかさず「いただき!」パシャリ!!


いい笑顔!お二人とも歯ぐきむきだしで笑ってるベストショット。いただき男子の不意打ちショットだけではあんまりなので、仕切り直して何度もパシャリと撮る。

撮ってる最中も「あんたはどっちか言うたら、まひろやないな、『いと』まひろの弟の乳母の方や」と旦那様。

たしかにそっくり!!…とは何故だか言えず

間髪入れずに「でもいとさん、とってもキュートで私好きですよ」とフォローにならないフォローをする私。


「こんな感じですけどよろしいですか?なんならまだまだ撮りますよ!!」撮り終わったスマホを返す。


「うわぁ〜、よ〜うつっとるわぁ…紫式部とまひろといとやな〜」
「紫式部とまひろとハゲジジイやろ!!髪の毛生やしてからもの言え」

ほんと奥様のキレの良さよ。

おふたりのかけ合いに悲しき不審者も歯ぐきむき出しで笑う。


山寺の樹々に囲まれた小さな一角で、木漏れ日のような三人の笑い声が葉っぱを揺らして響き渡る。

ブロンズの紫式部は筆をとりながら、そんな三人を静かに見ている。



奥様が「いとさんと為時岸谷五朗、あれは怪しい!」「それもだいぶ前からとみた!」嬉々として言ってきたので「ですよね!わたしもそう思います!!」と返す。



『光る君へ』談義が始まる。


どうやらインテリ旦那様は、会社を定年退職してからは某私立大学の通信課程で史学科の勉強をされているとのこと。そのインテリ無双が止まらない!!

スマホにメモをするわけにもいかず、100KBの脳みそに必死にインプットする。おかしいなぁひとつも思い出せない。


この時に、インテリ神様は「さわさんは、たぶん、九州で死ぬ」という予言をされる。紫式部集で出てくる筑紫の君という国司の娘がお友達でなんたらかんたら…だから死ぬやろ。


私はさわさんが、ずっとまひろのそばにいて、二人コンビでさまざまなことを乗り越えていってくれたらいいなぁと思っていたので、予言外れてくれないかなあって祈っていた。

バッチリ的中してしまった。

「神様、当たりましたね」

石山寺で出会った老夫婦を想いながらさわさんが雲隠れする回を観た。




ひとしきり光る君へ談義に華を咲かせた所で、老夫婦は先に進んでいった。



私は一人、石山寺にくつろぐ紫式部像を、撮る。


この写真の後方に見える石段に身を伏せていた。怖いですよね。そら、悲鳴の一つもあげますよ。


補陀落山(ふだらくせん)
天智天皇の石切り場

石山寺環状線の起点であり終点である石段にたどり着いた。

これより私は、後回しにしていた『大津大河ドラマ館』へと向かう。



自動販売機のラッピングがいとおかし。
喉がカラカラに渇いていたので、『必殺!ターボ飲み』をここでも発動!!

インバウンドの外国人にジャパニーズターボ飲みを見せつける。



お国に帰ったら伝えるがよい!イシヤマデラにデモンがいたと!!

つづく。



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