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初給料のご褒美に買った靴

メルカリで見つけたもの、という企画をみつけて、これは書かねばというエピソードが1つ。

私が新卒だった頃、というとかなーり前のことなんですが、初給料のご褒美に、セールの靴を買ったんです。セールといっても当時の私にはそれなりのお値段でございまして、躊躇はしました。

しかし、あまりにも好みにドンピシャなデザインで、どうしてもどうしても履きたいという欲望をまる1週間も捨てられず、あぁ!セールが終わる!あぁ!と叫びながら購入したのでした。

それから嬉しくて毎日のように履き倒します。つらすぎる営業仕事のお供にもなってくれた、いわば相棒のような存在でした。丁寧にメンテもしていました。しかし悲しいかな、その相棒は合皮だったのです。

お客さんとの付き合いで、かなりの酒を飲んだ日も、それを履いていました。ふらつきながら笑顔で店を出て少し、雨が降ってきました。若いうちなんてお金もないし、経費でタクシーなんて許されない、ほんのり濡れながら駅へ向かい、満員の終電に体をねじこませて帰路へ。

あっちこっちの小さな水たまりを踏みつぶしながら帰宅する頃には、酔いと疲れと寒さで意識がぶっとびそうになり、相棒のことを忘れて倒れ込むように寝てしまったのです。

翌日、相棒には明らかにダメージが入っておりました。おそらく、それ以前からやや怪しかった合皮の亀裂に雨が入り込み、内側から剥がしたのでしょう。

合皮というのはそもそも、長持ちするものではないので、これはいたしかたないことなのですが、絶望しました。会社を休みたくなるほどでした。

それから相棒は、もうしわけ程度にクリームを塗り込まれて、長い眠りにつきました。もうとても履ける見た目ではないのですが、捨てる気になれず、靴箱で眠ってもらったのです。

それから仕事を何社か辞めたり入ったり、結婚するなどできるほどの時が流れました。それなりに金も手に入るようになり、ふと、靴箱を取り出して夫が通う靴の修理店へと向かいました。

修理店の仕事がよくできるお姉さまが「これはどうにもならんです」と言いました。そして「こんな珍しいデザイン、たしかに手放せないですよね」とも言いました。そうなんです!よ!

そして言い忘れていましたが、この靴は廃番どころの騒ぎじゃなく、私があっちこっちを歩き回って暮らしている間に、そして水たまりを踏みつぶしたあの日にはもう、ブランド自体がなくなっていたので、再購入やメーカーへの修理依頼などの手立てはなかったのです。

オークションサイトすら漁りましたが成果なし。とっくに終わった取引履歴で2~3品の画像が残っているくらいでした。

箱に眠った相棒をデザインのひな形として、靴を一から作ってくださるオーダー店に持ち込むことすら考えましたが、超絶!お高い!
比較的安いセミオーダーでは、到底作れない気張ったデザインでありまして、さすがにフルオーダーは手が出ない。

もう諦めるしかないのかと思い続けて、気が付いたときにはネット上を漁ることを続けてさらに2年、メルカリ!!!!出た!!!!!!!ついに!!!!相棒が!!!いる!!!!

出品されているではありませんか。しかも私がセールで買った金額の半分の値段で、新品同然、とんでもなく美しい状態で!!!!!速攻購入です。

興奮のあまり、出品者さんに「こいつ頭おかしい」と思われてもしかたないくらいの感謝の言葉を尽くした長文の取引メッセージを送りました。

でもとっても優しい人で「あなたのような人に渡せるならよかったよ」と言ってくれました。きっと、この出品者さんは、私のあまりの執着と頭のイカれ具合に呆れて憐れんだ神様が遣わしてくれた天使だったんだと思います。

ピッカピカの新相棒が届きました。丁寧に梱包された新相棒は、箱の中から輝きを放っていました。そして、その輝きのなかに、出品者さんからのお手紙が入っていました。やっぱり天使でした。あまりに素晴らしいお手紙なので、大切なお手紙箱にしまったくらいです。

そういうわけで、今、私の家の下駄箱には新しい相棒がちょこんと座っています。この相棒が倒れたらもうきっと二度と出会えないので、びびっって全然履けてないんですけどね。でも、家に輝く相棒がいるだけで幸せなのでそれでいいんです。奇跡でした。出品者さん、ありがとうございました。

#メルカリで見つけたもの

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