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1日3食30品目の誤解

先日、世界一受けたい授業の中で情報をアップデートしよう!というテーマで昔、よく言われていたけれど、最近では否定されている仮説などが紹介されていました。

僕ももう40歳を超えていまして、すっかり昔の人にカテゴライズされている人間なので、テレビを見ながら「え〜?」と思っていた訳ですが、その中で

一日三食三十品目は古い、30品目食べるとカロリーの過剰摂取になってしまう。
今は、食事バランスガイドを参考に食品群に分けて、バランスよく適量に食べるのが正しい。

世界一受けたい授業より

という話がありました。

食品会社の研究職として10年以上働き、疫学分野でPhDまで取っていながら、ちょっと恥ずかしい話ですが、僕はこのことを知りませんでした(もしかしたら聞いたことはあったかもしれないですが頭には入っていませんでした)。食事バランスガイドも一日三食三十品目もどちらも言葉も内容も知っていましたが、一日三食三十品目はもう古いんだということは認識していなかったというわけです。

みんなはどうなんでしょうか?
そもそも一日三食三十品目なんて教わっていないでしょうか?
そんなことを考えながらテレビを見ていたので、自分の思考を整理することも含めてnoteの記事を書いています。

一日三食三十品目は古いというより不可能じゃない?

まず、一日三食三十品目ってみなさん学校とかで習いました?
僕はいつ習ったのか全く記憶にないんですが、小学校か中学校の家庭科で習ったんだと思います。ついでに言うと、食事バランスガイドも家庭科で習ったと思います。食事バランスガイドは全体がコマの形になっているのを見た記憶があります。

で、この1日3食ってのはいいとして、30品目ってメチャクチャ多いですよね。習った時も超絶大変だ!と先生が言っていたような気がします。野菜はミックスベジタブルにして、主食は雑穀ご飯にして、ヨーグルトにフルーツミックスをかけて、具沢山のみそ汁を作って、おやつはもちろんミックスナッツ〜と言うレベルなんじゃないかと思います。

これは、毎日はできないですよね。大変!というレベルではなく不可能ですよ・・・。そして、誰もが同時に感じるのは、食材の数を増やすことが目的化していると言うことだと思います。これってどう考えても、無理だし、正直あんまり意味ないよね〜と言うのは気になっていました。

ちなみに僕は仕事柄色々な方から食と健康について質問されたり、ディスカッションをすることがありますが、この一日三食三十品目については触れたこともないです。今思うと不思議ですが、聞かれたこともありません。僕が触れていないのはそもそも自分ができていないし、意味も感じていなかったからです。でも、今思うと、聞かれたことがなかったのも、周りの人も同じように感じていたからかもしれません。

一日三食三十品目は農水省の記事[1]でも否定されてますね〜。(LINK

分かりやすいのはいいんだけどモヤっとする

ところで一日三食三十品目はなんでこんなに市民権を得ていたのでしょうか?

語呂が良くて覚えやすいと言う単純な理由もあると思いますが、食材の数と健康に、それなりに相関関係があったんじゃないかと思います。当時、エビデンスがあったのかは知りませんが、最近の研究では、日本人の食生活の研究をされてきた東北大学の都築先生の研究 [2]では1970年代の日本人の食事パターンが最も健康で長生きしたということを動物実験で明らかにし、その特徴が食材の多様性だと述べています。(LINK

正直なところ、昔は、まずはいろいろな食材を食べることが重要だよねという認識でよかったんだと思うのです。

ところが、最近はミックスベジタブル、ミックスフルーツ、ミックスナッツ、ミックス雑穀など確かに食材の数は多いけれど、栄養成分も似たり寄ったり(でもないけれど)だったりすることも多く、本当に食材の数だけでいいのかっていう風潮が出てきたと思います。

あとは、数え方とかも曖昧な気がしますよね。大根おろしは1食材にカウントするの?じゃあおろししょうがは?みたいなことだったり、ヨーグルトと牛乳で2品でいいの?みたいな話だったり、すごく迷ってしまいます。結局のところ、一日三食三十品目って分かりやすいようで、結構ツッコミどころも大きく、紛らわしいんですよね。

食事バランスガイドは何?

<食事バランスガイド 農林水産省HPより>

では、次に食事バランスガイドについて簡単に解説します。上の画像が食事バランスガイドです。コマの形をしたデザインが特徴的なのをよく覚えていると思います。逆三角形だから、上から摂取量が多くて、主食>副菜>主菜>乳製品>果物です。ちなみに5−7などの単位が「つ(SV)」とありますが、サービングの略で、おおよそ1品と考えれば良いと思います。

この内容を否定する気はないですが、個人的には果物はもっと沢山食べて良いと思います。また、主菜よりも副菜を多く食べましょうという点はとても大きいポイントだと思っていて、1日の中で小鉢くらいの副菜を5-6品食べるのが目安です。

内容的には一日三食三十品目というよりはもっと細かく食事が分類がされていて、数ではなく内容・バランスに焦点を当てている点がポイントだと思います。

自分の食事の特徴を知ろう

さて、この食事バランスガイドですが、内容をざっくりとでも覚えておくというのはとても良いことだと思います。ですが、僕はそれは自分の食生活を改善するための使い方としてはあまり良くないと思っています。

と言うのも、ガイドラインというのは一般の方が読んでも、ある程度理解できる、分かりやすい文章で書かれてはいますが、基本的には、専門家が栄養指導を行うための教科書的なものだからです。教科書をそのまま「はいどうぞ!」と渡されても「は?」ってなりますよね。そうではなくて、このガイドラインを見てどうすればいいのか?を明確にする必要があると思っているんです。

そのためにも、まず、自分の食生活をざっと振り返って、主食、副菜、主菜、乳製品、果物をどれくらい食べているかをメモしてみましょう。

例えば、僕の今日の食事だと、
主食:4SV
副菜:4SV
主菜:6SV
乳製品:0SV
果物:1SV

みたいな感じです(リアルな内容です)。すると、僕の場合には、主食、副菜、果物はちょっと足りない、乳製品は大分足りない。主菜はちょっと多いことが分かります。

まずは、このように自分の食事の過不足を認識して、副菜をプラス1品と乳製品、果物の摂取を意識しよう!など、具体的な行動指針として落とし込むことを意識しましょう。

これだけ書くとものすごく当たり前のことを話していると感じるかもしれませんが、どうしても、食事バランスガイド全体を見せて、こういう食事が理想だよ!と伝えて終わってしまいがちなんです。そして、そこで終わってしまうと、食生活の改善ってなかなか実践されないで終わっちゃうと思っています。

やっぱり、「あなたはこんなことを意識するといいですよ!」と明確に言ってもらった方が、行動変容につながりますよね。

万人に対応できるガイドラインはない

ガイドラインで大事なところのもう一つは、これが全てではないということを冷静に理解することです。例えば、高齢者はタンパク質を多めに意識することが食事摂取基準で求められています。また、糖尿病患者の場合には、主食(炭水化物)は減らすなどの対策が必要だと思います。

本来は、どんな食事をすべきかは個人の健康状態などによってケースバイケースのはずです。一般化を突き詰めて全体の最大公約数を求めたのが食事バランスガイドのはずですが、実は、こういうものは多くの専門家がう〜ん・・・となりがちなんです。

どういうことかというと、例えばミスコンなどでは、審査員は、他の審査員が選びそうな人に投票してしまい、自分が1番好きな人を選ばないことが分かっています。

同じようなことがガイドラインの策定のでも起こるのではないかというのが僕の考えです。僕はガイドラインの策定に関わったことはありませんが、ガイドラインの叩き台作成した後で他の共同作成者の先生方から承認されなければいけないので、どうしても様々な制約や内容の妥協は出てきますよね・・・ということです。

これは、決して、ガイドラインの内容を否定しているわけではないです。ただ、例えば、僕は果物は食事バランスガイドの記載量よりも、沢山食べた方が良いと思っていますが、カロリーオーバーになってしまうリスクや糖尿病患者も読むことを想定するとこうなるかな・・・みたいなことは当然あると思うのです。また、日本人の食文化を考えた時に難しいと感じることもあるでしょう。

食事バランスガイドも順守は大変

もう一つは、改めて思うのは、やっぱり食事バランスガイドがとても実現が大変ということです。食事バランスガイドのベースの考え方は、一日三食三十品目とは異なると思いますが、たくさんの食材をバランスよく食べるという思想は共通しています。

今の時代は、共働きが当たり前、単身世帯も多い中で、実現はかなり難しいんじゃないかと思います。ですので、ランチだけでも栄養を気にしてメニューを選んだり、2−3日分の小鉢で食べれるような副菜のストックを作っておくとか、工夫が必要になると思います。でもそれでも、限界があることを承知の上で、自分は特にどんな栄養素、どんな食材を意識して食べるのかなどを決めておくと良いと思います。

ガイドラインって一般の人が使うの?

また、ここまで書いておいてそんなこと言う?と言う気もしますが、ガイドラインってそこまで一般の人が使うものではないとも思っています。つまり、栄養の専門家が栄養指導を行う際に使用するツールだと思っています。

食事バランスガイドの場合は家庭科の教科書などでも出てくるくらいなので、一般の人が知っておくべき内容だとは思いますが、それでも、ガチで気にするのは生活習慣病などで食事指導を受ける時だと思います。

それであれば、食事指導を受けていない健康な一般の方は、主食、主菜、副菜を中心にバランスよく食べることを意識しようくらいでも良いのかな・・・というのが、正直な僕の意見です。

おいしさは優先させよう!

最後になりますが、食事バランスガイドを意識するときに、一つ忘れないで欲しいのは、おいしさはちゃんと優先させようということです。

程度によるので、一概には言えませんが、少しくらい栄養バランスなどを妥協しても、おいしさを選んだほうが良いと思います。美味しい食事は本当に生活を豊かにしてくれます。そして、食事が美味しくなかったら、なんだかんだ言って、絶対に継続できないんですよ。

確かに食事バランスガイドは大事ですが指導する時も、指導される時も、無理のない塩梅で、食事を楽しむことは忘れずに取り組んだら良いのではないでしょうか。


参考文献・サイト

  1. ちょうどよいバランスの食生活 LINK

  2. 健康的な日本食の健康有益性を検証~1975 年の特徴を有した健康的日本食のヒト介入試験より~ LINK

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