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【紅麹事件】食品メーカーから見て小林製薬を擁護できないところ

こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。先日、食品メーカーで働いている立場として、小林製薬の紅麹事件を僕がどのように感じていたかを記事にまとめました。

この記事では、食品メーカーとして他人事とは考えられない気持ちでこの事件を受け止めていることをお伝えしました。Xなどで記事の感想を見ていると、多くの同業者の方々からの共感のコメントをいただき、皆さん、割と近い感覚でこの事件を見ているんだと実感しました。

でもその一方で、この紅麹事件を見ていると、やっぱり小林製薬は、かなりハイリスクなことをしているし、機能性表示食品の届出も強引なところがあったのかなあ〜と感じています。そこで、この記事では、同じ食品会社で機能性食品などにも関心がある立場として、僕がここは擁護できないな〜と感じていることをまとめたいと思います。

ポイントは以下の3点です。

⚫︎ スタチン類が含まれる時点で食品としての販売は不適切
⚫︎ そもそも紅麹がリスクの高い食品は周知の事実だった
⚫︎ 機能性表示食品の届出が大分強引で、嫌悪感はある

スタチン類が含まれる時点で販売は不適切

1つ目のポイントは、スタチン類は医薬品だという点です。紅麹は機能性成分としてモナコリンKという成分が含まれていますが、これは別名ロバスタチンというコレステロールを下げる医薬品です(米国のメルク社が販売)。もう一度言います、モナコリンKは医薬品です!

医薬品と食品は別物ですので、本来、モナコリンKを機能性成分としている紅麹は食品ではなく、医薬品として管理すべきなんですよね。少なくとも米国ではモナコリンKを含む紅麹は医薬品管理となるため、食品、サプリメントとして販売することができません。

日本では紅麹を使った食品、サプリメントの販売が禁止されていない上に、食文化として若干馴染みがあったということから小林製薬は紅麹に目をつけたのでしょう。これ自体は、小林製薬が何かいけないことをしているわけでも無いですし、むしろ紅麹を使った食品に規制をかけなかった厚生労働省の方が問題だったのかなとは感じます。

また、正直なところ、販売すること自体が不適切だったとしても、それが今回の紅麹事件を引き起こす原因だったかというと、それは何も言えないと思います。つまり、僕としてはスタチン類が含まれる紅麹を販売している小林製薬がけしからんと言うのは、気持ちはわかるけれど、ズレているよね!というスタンスです。

でもね、やっぱりここは企業倫理が問われるところなんじゃないでしょうか。いくら規制されていないからと言っても、紅麹サプリメントを食品として販売していれば、専門家から叩かれても当然とは思います。

また、モナコリンK、ロバスタチンみたいな言葉をパッケージなどでは一切使わずに機能性表示食品で届出をしている点も、本来、医薬品成分は機能性表示食品では認められていないことを知っていながら、届出を無理やり通そうとしたんだなと言う企業側の姿勢が見え見えです。

これは如何にも企業がやりがちな手口で(僕も企業に勤めているので良く分かる)、正直に言って、分かるけれども賛成できません。

そもそも紅麹はリスクが高い食品

2つ目のポイントは紅麹自体のリスクです。紅麹にはシトリニンという腎毒性のある成分を産生する可能性があると言うのは、多くの方がニュースでも聞いていると思います。

このことは割と一般的で、2010年の論文では米国で市販されている紅麹サプリメントのうち、なんと3分の1の商品でシトリニンが検出されていたと報告されています[1]。

小林製薬でも当然このリスクは認識しているので、小林製薬の紅麹は遺伝的にもシトリニンを産生することができない種を開発しています。

でも、腎毒性という有害事象の重篤性を考えると、かなりリスクの高いチャレンジをしたんだな〜とは感じます。

丁寧な安全性試験が必要になると思いますし、紅麹カビを何世代も繰り返し培養してもシトリニンを産生する遺伝子座が欠損したままなのかといった、遺伝的安定性などの試験も必要になります。

そして、どこまで安全性を確かめれば大丈夫なのか、終わりもよく分からないです。微生物は変異も早いので、結局、どこまで行っても自信を持って安全だと言い切るのは難しいんじゃないかと思います。

シトリニンに関しては、小林製薬でも定期的に検査を行い、産生されていないかを確認していたとは思うのですが、今回の紅麹事件でも疑われたように、たとえシトリニンが産生されないとしても類似の物質が産生されていれば、検査の網を抜けてしまうリスクもあります。

まあ、詰まるところ、紅麹はリスクの高い素材だし、リスク対策がしっかりとできたとしても、完全に安全と言い切ることはできないので、リスクを承知の上で紅麹に賭けたのは小林製薬なんですよね。

機能性表示食品の届出が強引

最後のポイントは、機能性表示食品の届出の強引さです。ちゃんと目を通すと気になることは色々あるとは思うのですが、まず目に入ってくるのが、採用文献が1本という掟破りのシステマティックレビュー(SR)です[2]。

SRというのは、基本的に複数の研究を吟味して一つの結論を出すものなので、論文が1本というのは正直厳しいかなと思います。まあ、ここに関しては、機能性表示食品が始まる前に大阪大学の森下先生が、文献が少なかったら論文1本とかでSRを書くしかないと普通に言ってましたし、他社でも論文が1本のSRはあるのでなんとも言えないかなあと思います。

この点に関して、本音を言ってしまうと、疫学者の視点で機能性表示食品の届出を見ると、SRは圧倒的多数がイマイチで、その中の一部がかなりイマイチというレベルです。SRは複数の論文を批判的に評価して一つの結論をまとめるものですが、届出をしたい企業がSRを行ったら恣意的に評価して、自分の言いたい結論にまとめるに決まってますよね。機能性表示のSRのレベルの低さは、言い出したらキリがないのでここではあえて言わないし、食品メーカーだって、そこはある程度理解した上で届出を出しているというのが実態です。

だから、紅麹事件のようなことが起こった時に、機能性表示食品をここぞとばかりに叩く人が一定数いることは理解できます。(ただ、繰り返しますが、今回の事件は機能性表示食品とかはあんまり関係ないと思うのでズレてるな〜とも思っています)

その中でも、紅麹のように採用論文が1本のパターンは特にパワープレイをしたなあと言うかなりイマイチな印象を受けますので、小林製薬に対する印象が悪くなってしまうのはあるかな〜と思います。


ここまでの内容を見るとどうでしょうか。小林製薬はこの記事で指摘したことを全部承知の上で紅麹の販売にアクセルを踏んだんだと思います。だから、印象は悪いですし、印象が悪いと言うことは、今の時代では何か大きな問題が起こった場合にSNSなどで総攻撃を受け、必要以上に叩かれたりすることは覚悟が必要だと思うんですよね。

ただ、大事なことを一つ付け加えるとすると、今回の僕の記事の指摘は、小林製薬や機能性表示食品の制度が叩かれても、感情的にはしょうがないよね〜と言ってるだけで、今回の紅麹事件が起こった原因ではないと思っています。あくまでも感情論や企業倫理の話です。ここはすごく大事で、僕たち食品会社としては今回の事件の原因究明と対策に意識が向いてしまうので、SNSやメディアで取り上げられる小林製薬を批判する記事と対立してしまっているのかもしれません。

まあ、そんなことをまとめると今回の事件は致し方ないとは思いつつも、事件そのものが重篤ですし、小林製薬の倫理感などを考えると擁護することもできないかな〜と思ったりしました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

参考

  1. Gordon et al. Marked variability of monacolin levels in commercial ed yeast rice products: buyer Beware! Arch Intern Med. 2010; 170: 1722-27.

  2. コレステヘルプa 機能性表示食品 届出資料 LINK

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