しらんぷり

 新幹線に揺られ長く暗いトンネルを抜けた。ここから新しい生活が始まるのだと。

 1人地元を離れ、のどかな風景に囲まれた土地へとやってきた。多少の不安もあったが親元を離れ、監視の目を逃れられたという喜びの方が大きかったように思える。新しい鍵を取り出し、扉を開ける。その時から7畳のあまり広くはない1kの部屋が新しい私の城となった。好きな本、好きな音楽でいっぱいにしよう。4年間勉強をするという目的はそっちのけで頭の中はそのことばかりだった。

 一人暮らしを始め、友人と映画を観て号泣したり、飲み明かして思い出すだけで恥ずかしくなるような話しをしたりと交通の弁が悪かったこともあり大半を家で過ごしていた。そのまったりできる時間もなんだかとても心地がよかった。しかし、いつもどこか満たされない気持ちがあった。

 地元に帰省し、友人と飲み明かす。そんな期間を終え、またあの部屋に戻ってきた。帰省したときに撮った写真を見返す。楽しかったという気持ちとともに寂しさが顔を出す。狭く感じていた部屋は急に広く冷たい空間に思えた。

 夜通し話し、大事な話をし、関係が深まっていく中でもどうしてか、ふとした時に寂しさが現れる。部屋のどこかに隠れていて気まぐれに顔をだしてくるようだ。人の温もりを知っていくほど隠れることもなく図々しくも部屋に居座るようになって、ほとほと呆れていた。

 そうしているうちに4年間の月日が経った。あの部屋で過ごした4年間はあの部屋にとってはちっぽけなものだったのだろう。しかし寂しさと同居していた4年間は私にとってはそこそこ大きなものとなった。

また新しい季節がやってきて新しい人がやってくる。誰かを連れて。

#はじめて借りたあの部屋

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