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映画『カラオケ行こ!』の感想🎤

感想🎤

(聡実くんの生きる世界)
主人公・岡聡実くんの、学校でのシーンと両親との会話のシーンが映画オリジナルとして大幅に追加されたことによって、聡実くんが生きている「等身大の子ども(中学生)としての世界」と「狂児と過ごす大人の世界」、この二つの世界の対比がより感じられるところが、映画でいちばん好きな点だった。

強豪合唱部の部長を務めている聡実くんは、声変わりが始まっていることでソプラノが綺麗に出ず、うまく歌えないことに悩んでいる。そんな中、コンクールに来ていたヤクザ・成田狂児に、歌がうまくなるコツを教えてほしいと頼まれ、一緒にカラオケに行くようになる。
聡実くんにとって狂児は言うまでもなく圧倒的に大人で、年齢差はもちろん、中学生とヤクザでは普段過ごしている世界がまるで違う。聡実くんは中学3年生として大人の階段をのぼり始めると同時に、その階段のずっとずっと上の方にいる人間と関わっていく。本来追いつくことのない、手の届くことのない存在である。
けれど天性の人たらしである成田狂児と、そんな狂児に最初は怯えつつも完全にはペースを飲まれることのない芯のつよさを持つ岡聡実だからこそ、この絶妙なバランスの、名前の付かない関係性が成り立っているんだと思う。そしてそのバランスを見事に実写でも成り立たせているのが本当にすごい。

特に印象深かったのが、副部長の中川さんが後輩の和田くんの前で聡実くんに腕を絡めるシーン。(文章で書くとめちゃくちゃ修羅場みたいになるけど全然そんなことはない)
中川さんと聡実くんが同時に映るシーンはそれまでにも何度かあるけれど、そのシーンを観て、狂児と聡実くんの並びの不可思議さや歪さが強調された気がした。女の子と並ぶと聡実くんのほうが身長が高く、後輩といるとしっかり年上で、何もかも狂児といるときとは逆の立場だ。狂児と出会わなかった世界線の聡実くんの人生が脳内を駆け巡らずにいられなかった。
だけど、2人は出会ったし、この様子を狂児は少し離れたところから見ている。
先に書いた「狂児と聡実くんの並びの不可思議さや歪さ」は、実写だとビジュアルのリアルさが格段に上がるのでより強く感じられてよかった。

(聡実くんの魅力)
後輩の和田くんは聡実くんが部活に来ないことに憤りを感じていろいろと言ってくるけれど、映画序盤のシーンでのセリフ「部長のソプラノは完璧ですよ」に、彼の聡実くんへの感情の全てが詰まっていると思う。

そして映画オリジナルシーンとして、狂児が聡実くんの歌声を「天使のお告げやと思ったわ」と言うシーンがある。

和田くんも狂児も大袈裟に言っている様子ではないので、この二つのセリフだけで、聡実くんの才能や魅力の底知れなさを感じ取ることができる。作品を通して、見る人も岡聡実という人間にどんどん引き込まれていく。



(以下、個人の所感)

感想を書いては寝かせ、書いては寝かせしていたら配信が始まり、円盤の発売も決定した。

映画が公開されて少ししてから夫(原作未読)と劇場に観に行った。観た後はラストの聡実くんの歌唱シーンをもう一度観たくて観たくて仕方がなくなり、一週間後にまた観に行った。二回目は半ば無理やり夫を連れて行ったけれど、「二回目の方が面白かった」と言っていてうれしくなった。
原作続編『ファミレス行こ。』上巻の和山やま先生のあとがき「この漫画では主に聡実くんの幸せを考えて描いていこうと思っています。」という一文を見てから、「聡実くんの幸せとは」を考えても全くわからず、そもそもわたしが思う幸せを聡実くんに押しつけるのはちがうだろ、などと思案し続けている。『ファミレス行こ。』はまだ連載中の作品なので、答えのない問いを考えながら一つの作品を追えるのは貴重な時間だなとおもう。

岡聡実くん、あなたの幸せを願っています。

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