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【創作小説】猫に飼われたヒト 第45回 アニマーリア警察署の敏腕警部

アニマーリア中央区のアニマーリア警察署にて。

若い警官2人が話していた。
「なあ、この殺人件数ボード、要るか?」

「いや。要らないよな。事故はあるが、殺人に関してはだってこの警察ができた当時から今まで一度もこの記録が一になったことないんだぜ?」

「ああ……そもそも俺ら猫は他人を傷つけたり、殺したりしねえ生き物なんだよ。人間とは違うんだ」

そこへやってくる、片目が義眼の真っ白な猫。

「そういう気の緩みが大きな事件発生の際の対処遅れにつながるんだ」


若い警官が背筋を伸ばす。

「ルナ警部!」

「いいか。我々はいついかなる時も国民の生活を守らねばならない立ち場にいるのだ。平和だからといって気を緩めていては、いざというときに迅速な対応ができなくなる。それに…」


「ルナ!」

不意に呼びかけられるルナ。
声のする方を振り向くとそこには…


「レックス」




警察署内のカフェにて。

「ルナ。急に時間を作ってくれてありがとう。左目の調子はどうだ」

「もうなんともないさ。2年も前の話だ」

「そうか。それならまあ良かった」

「…それで?相談って何だ」

コーヒーの入ったカップを置き、レックスは話を切り出した。

「研究所のことで少しお願いがあるんだ。実は、研究所の現状として、かなり人間の飼育環境が悪くてな。予算を増やして欲しいんだ。そうすれば人間も…」


「却下だ」
ルナは即答した。


「なっ…」

「お前の研究所は我々の警察の管轄下にある。2年前に上が研究所の予算が多すぎると判断し、予算を削った。それは俺に言われても何もできないし、上に伝えても同じ答えが返ってくるだろう。研究所の研究は、その限られた予算で十分だと判断された訳だ。それに、予算内で研究を進めるのがお前たちの仕事だろう」

「だ…だが、予算が増えれば研究所の環境改善を図れるだけでなく、人間の種を保存するための繁殖実験だってできるかも…」

「却下だ。…そんなこと、しなくていいんだよ…」

「え?ルナ今なんて…」

「いや。何でもない。とにかく却下だ」


久しぶりの再会だというのに不穏な空気が二人の間に流れる。そこに、カフェのテレビが今朝と同じニュースを伝えている音声が響いてくる。
レックスは話題を変えた。

「…それにしてもこのニュース、驚いたよ。人間のレプリカロボットというものが存在するなんて」

「ああ。今となってはお前の仮説のおかげで人間への関心が高まり、大きく報道されるようになったが、そこまで世間の関心が向いていなかった2年前の夏にも、新聞の小さな記事にしかならなかったが、人間の頭部や腕などのレプリカを違法に作って違法に販売していたという実例がある。

その犯人は、自称発明家、アッシャー。

奴は一度逮捕したが、すぐに刑期を終え出所したんだ。今回の手口からしても、犯人は間違いなくアッシャーだと見ていいだろう。奴は今も逃走している」

「発明家、アッシャー…すごいな。生の人間を見たわけでも無いのに、レプリカを作ることができるなんて」

「保管庫にその時押収したものがある。今回の件のもある。見ていくか」

「いいのか」

「ああ。同級生のよしみだ」


地下にある署内の保管庫。

ルナに案内され、人間のレプリカを見るレックス。どれもメスの人間のものだった。

「すごい…ちゃんと人間の形を呈している」

「だが、これはどれも風船のようなものだ。中身は伴っていない」

「でも、数年前と今回…随分と精度が上がっているように見える」

「研究所所長のお前もそう思うか」

「ああ。作り方の癖や趣向から見ても、同じ作り手だろうな…だが、なぜこんなことを」

ルナはレックスに向き直った。

「レックス。事実として、人間愛好家、という猫は一定数存在する。そこに理由などない。人間に興味がある猫がいて、法の影に隠れて詐欺や違法売買が横行しているんだ。俺たちはそれを一掃するべく動いている。法に反する犯罪者は、全て俺が逮捕する」

「…学生の頃から、相変わらずだな、ルナ」

「お前に言われたくないぞ、レックス」

2人は少し笑った。
「…今日は会えてよかったよ、ルナ」

「俺もだ、レックス」

「さあ、レプリカの製作者である天才発明家とやらの調査に本腰を入れるとしよう。レックスは直近の課題はなんだ」

「私は…人間の誇大された危険意識を払拭すべく、人間の研究に勤しむよ」

「…俺は国民が危険意識を持っているのは悪くないと思うがな」

「…でも、それが真実とは限らないんだ。私は純粋に、人間を研究し、人間の過去と今いる人間の危険性について、真実を知りたいんだ」

「…ふふ、レックスも相変わらずだな」

レックスは真剣な面持ちでルナに尋ねた。

「…そうだ。アウラさんの捜索はどうなってる」

「それが、難航していてね…すまない」

「…そうか…ルナも忙しいもんな…」


「だが、必ず見つけてみせるよ」

「ああ。ありがとう。頼んだよ」

2人は固い握手を交わした。

次回に続く

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