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「感動」を補充した話

ちょうど2年ぶりに舞台を見た。
ご縁あって、ずっと見たかった『レ・ミゼラブル』を鑑賞する機会に恵まれたので、そのときのことを綴りたい。
(大それた評論を書くつもりはなくて、ただただ、感じたことを言葉に残しておくだけの投稿です)

ミュージカル『レ・ミゼラブル』については、こちらから↓

音に包まれるということ

音楽を聴いて鳥肌が立つという経験は、本当に久しぶりだった。
オケの最初の一音から、鳥肌が止まらない。
生音の良さを耳と体がしっかり覚えている証拠
冒頭は、感動的なシーンではないのだけれど、自然と涙が出た。音が、優しくも圧倒的な強さをもって迫ってくる感覚に、早くも感動してしまったのかもしれない。

はたまた、日常生活が形を変えてしまってから、いろんなことを我慢してきたからこそ、大好きな"生の音楽"と久しぶりに接したことへの喜びだったのかも、とも思う。

もともと音楽を長く続けていたこともあって、舞台(特にミュージカル)は好きだった。この『レ・ミゼラブル』(通称:レミゼ)も、高校時代に最後の演奏会で披露した思い出の作品。
そんな思い出の作品で、オーケストラの生演奏と歌の"共響"が味わえるなんて。
今風の言葉でいうなら"エモい"ということなのかな。
「この曲のこの和音が好き」「歌とオケの掛け合いの、この部分が特にいい!」などなど、鑑賞しながら思い出すことがいろいろとあって、頭の中がいそがしかった。

そしてもちろん主役は歌。
キャストさんたちの本気の歌にぐっと心つかまれた。
第一幕が終わるまでの間、微動だにしなかった。というか、できなかった。
特に"プリンシパル"と呼ばれる、メインのキャストさんたちは
満席の会場、ひとりひとりに向かって歌いかけているような繊細さがある。

一方で、広い会場をいっぱいに満たす力強さや広がりも。
それを引き立てるオケとの息もぴったりで、当たり前だけれど1ミリもずれがない。
伴走としてのオケは、柔らかくて上品。ぽん、ぽんと丁寧に紡ぎだされていくような、表情豊かな音たち。歌声と相まって、聴いていて本当に心地良い。
これがプロの表現力か…と圧倒されているうちに、舞台となるフランスの世界にぐいぐいと引き込まれていく。

『レミゼ』の楽曲はどれも魅力的で、物語の世界観を深めてくれるものばかり。
全編が歌に乗せて進んでいく"ソングスルー"という形式であることが、特にその効果を強めていると思う。
そのなかで、エポニーヌが失意の底で歌う「On My Own」が、個人的には一番好きだ。

大好きなマリウスから、コゼットとの恋の成就を手伝ってと言われて、引き受けてしまうエポニーヌ。
そんな自分を奮い立たせるように歌い上げつつも、抑えていた感情が爆発するようなクライマックスは、いつ聴いてもうるっときてしまう。

オケの盛り上がりはもちろんのこと、今回エポニーヌを演じていた生田さんの表現力の高さにびっくり…!
かわいらしいアイドルのイメージで見に行くと度肝を抜かれます。立ち姿は本当に華奢で美しいけれど、物語の中では革命の世を必死に生き抜く強い女性そのもの。

どん底に突き落とされて、それでもなお、マリウスのことを思う強い「愛」が感動的な旋律に乗って、心の深いところまで届いてくる。

本当は、1曲1曲について書いていきたいくらい、音楽としての完成度がとても高い作品(なので、吹奏楽やオーケストラ単独の演奏用にアレンジされていたり、たくさんのアーティストがカバーしていたりする)。

音楽が途切れることなく進んでいくので、最後の最後まで音に包まれている感覚が、本当に心地良かった。
有名な「民衆の歌」では、劇中で亡くなった人物も全員登場する。すべての感動をかっさらって、最高のボルテージで幕を閉じてくれるのも、この作品の良さのひとつ。

最後に見えてきたもの

最初にこの作品に魅せられたのは、高校生のとき。
当時は映画を見て、なんとなくその良さがわかった気でいたけれど、大人になってみると見えるものはずいぶんと違った。

特にこの、コロナ禍の今だからこそ見る意味があった作品だと思った。
程度の差はあれど、未来が見えずもがき苦しむ人々がいるのはいつの時代も同じ。誰かが救ってくれるかというと、そんなことはあまり期待できなかったりする。結局、自分との闘い。革命とコロナの時代に同質なものを見た気がした。

でも、いつの時代もきっと、希望の光になるのは「愛」だという確信も得られた
ファンティーヌからコゼットへ
バルジャンからコゼットへ、
エポニーヌからマリウスへ
マリウスからコゼットへ…。
苦しい時代を描写しながらも、いつも物語の中心には「愛」が描かれる。愛が、愛を繋げていく。
そんな不変の物語が『レ・ミゼラブル』だと思う。

そして大人になって見えてきたのは、
愛とともに「赦し」が語られていること。
牧師さんから受けた赦しを、バルジャンはジャベールに繋ぐ。
愛と赦しが、また新たな愛を作り、未来を築いていく。
きっとこの苦しい時代も、「愛と赦し」が救ってくれるのだろうなと思わせてくれる作品だった。

ミュージカルは、形の残らない一瞬を作る芸術
その日その場所での空気感、不意に出たアドリブも含めて作品。
だからこそ、限られた時間のなかで出演者たちが必死に役を生きている様子がリアルに伝わってきて、感動を呼ぶのだと思う。

同じものは二度とない、いわゆる「生物(なまもの)」の良さがある。

*あとがき*

ふと気づいたのは、こうして何かに心動かされることが、最近ほとんどなかったんだなあということ。
心のアンテナが鈍っているような気さえする。
自粛生活のなかにも、たまに感動を。そんな風に思った1日でした。

こうした社会情勢のなか、制限された環境での厳しい稽古(マスクのままでの激しいアクションや歌唱)を経て本番を迎えられるキャストの皆さんには、頭が下がります。

どうか、無事に千秋楽を迎えることができますように。

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