思いついた怪談「1週間持たない家」前

 ゴン、ゴンと鉄の大きな音が広がる。

 「ココはですねぇ!セキュリティも万全なんです!玄関のインターホンセキュリティもさることながら、ドアをノックするとこれだけ音が広がるんですから!中からもしっかり聞こえるのでね!セキュリティになるんですよ!」と、陽気な不動産会社が語る。正直笑いながら欠点を放すタイプの人とはトモダチにはなれないだろうな、と思いながら内見を始めた。

 玄関から入るとまっすぐな廊下に左右一つずつ、そして奥にも一つ扉がある。左は脱衣所から浴室、右はフローリングの一部屋、と次々に扉を開けて見せてくれ、一足入れて中を眺めた。浴室には洗濯機スペースに洗面台、脱衣所があるタイプでトイレ別。反対の部屋はそこそこの収納を備えていて日当たりも良好な窓があった。流石角部屋、といったところだろうか。

 「ありがとうございます。ところで、ここの契約料なのですが…最初の月だけ契約金ではなく"違反金"となっているのは…?」
「あぁ、実は…」
とてもバツの悪そうな不動産会社の人物は、伏し目がちに話を続けた。
「ここ、条件がいいのに、買い手がついてから1週間で皆さんココの家から出ていくんです。」
「1週間で…?」
「はい…なので、最初の1か月は『違約金』という形です。家賃はいただかないんですけど、最初の月の中で引っ越しされたときに、原状復帰用としていただこうという考え方です。」
「なるほど…」
家賃の安さから飛びついては見たが、やはり心理的痂疲があるということだったか…しかし、背に腹は代えられないといった現状であった。
「それでも大丈夫です。ここでお願いします。」
内見を終えてそう告げると、先ほどの沈痛な表情を浮かべた不動産会社は一瞬で切り替えて笑顔を向けた。
「はい!ご契約ありがとうございます!」

引っ越しを終えて荷運びを終えたその日、私は疲れから泥のように眠ってしまった。そもそも引っ越したのは新しく仕事につくため。最寄りの中で安かったこの物件は絶好のチャンスだった。内定も決まり近くの職場へ通えるように独り身で引っ越しをしたのだ。一人だから自由に動ける…などと自分に嘯いて意識を手放した。仕事一日目として、新居と新生活に気合が自然と入る。その思いも胸に。

「…んんッ…」カーテンのない窓から日が差し、自分の顔を撫でる。時計に目を送ると出勤の時間よりかなり余裕があった。身支度をすべて整えても少し余裕がある中、周辺の立地などをゆっくり眺めて仕事につこうか、そう考えて家の扉を開けた。
「…足跡…?」
小さな子供の足跡が、水にぬれたようにして玄関先の廊下についていた。早朝とはいえ十分乾いていてもいいはず、しかし、しっかりと足跡が見えていた。指の先までしっかりと跡が見えるそれをなんとなく気になって、よけるように会社に向かった。
道中にコンビニが2件、カフェが1件。気持ち次第で寄るところを変えても飽きがこないだろう。折角なので昼食になるパンでも買っていこうかとコンビニに寄り、店をぐるりと回った。そこで、ハタと気付く。

「指、まで、足跡でわかったな…」

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