ハイジの里の隠れ言語　ロマンシュ語

スイスというとネームバリューは強いのだが、アルプス以外の印象はというとさっぱりという人が多いかもしれない。日本ではなぜかスイスの児童文学の舞台となる印象が強い気がする。アニメ『ロミオの青い空』はスイス南部のイタリア語圏のティチーノ村をスタートとしたし、ヨハンナ・シュピリは原作の『アルプスの少女ハイジ』はグラウビュンデン州のマイエンフェルト近郊が舞台だったらしい。

原作はドイツ語なので、ハイジも現実世界で出会ったらもしかしたら流暢な日本語ではなくスイスのきッつい訛りのドイツ語をペラペラ話すかもしれない。昔、「ハイジを日本語の方言で吹き替えたら」という企画がボチボチあったが、実はそれの方がハイジの素朴さをうまく表現できるのではないだろうか？

ところで、今回取り上げているロマンシュ語はハイジの住むグラウビュンデン州を代表とする言語の一つでもある。

ただし、すべてのロマンシュ語の話者が統一された言語をしゃべるわけではない。単語のバリエーションや書き方も複数あり、例えば『ロマンシュ語週間(Emna Rumantscha)』の"Emna(週)"と辞書で調べてみたら出てこなかった。用いたのはロマンシュ語のスルセルヴァ方言の辞書だったので、逆にドイツ語から調べてみると"Woche"で"jamna"が発見できた。なるほどスルセルヴァ方言では"e"で始まらず"j"で始まるのね。"Emna"は違う方言のバリアントか、後述するいわゆるロマンシュ語標準形の形なのかもしれない。

ロマンシュ語は一九三八年を契機に表に出てきた。スイス大使館によると今日、二月二〇日は『ロマンシュ語週間(Emna Rumantscha)』とのこと。一九三八年にスイスの第四の国語としてロマンシュ語が加わったことを記念して、この日を『ロマンシュ語週間』としてプロモートしているようだ。スイス外務省はロマンシュ語を「スイスの強み(Rumantsch: in ferm toc Svizra)」とし、国のアイデンティティーの一つとして掲げている(1)。スイスの外務省が広報している"House of Switzerland"の情報によると話者数は第一言語としている人もそうでない人も含めて六万人程度とのこと(2)。しかし、日本ではロマンシュ語の知名度は低く、「スイスはフランス語、イタリア語、ドイツ語の国」「めっちゃ言葉が多い国」とロマンシュ語の存在についてあまり聞かない(少なくとも私の周りでは)。

ロマンシュ語の話を聞くと懐かしくなる。高校生の頃、とある大学のオープンキャンパスに行った際にドイツ語学科の先生とお話をさせて頂いたのだが、その先生はスイス関係らしかったので、「ロマンシュ語に興味があるんですが」と私がいうと「研究室に辞書があるから勉強できるよ」と言われたので、その大学を受験した。

ところが、プレゼンや小論文で先生方にアピールする特待生入試のような入試方法の試験で志願したが、プレゼンなどがうまくいかず、残念ながら「その大学でロマンシュ語を勉強し、スイスへ留学して...」という道にはたどり着けなかった。

それから何十年も経った後でスイスに用事で行けたり、ロマンシュ語に再び関心が向いたりと、とはなんとも皮肉だ。後は思い返してみて、「そんな頃からいろんな言語勉強していたんだっけか」と自分の雑多な趣味に少し呆れることもある。

今では本の一冊だけだがロマンシュ語の入門書が日本語でも出版されている。時代は変わるものだ。日本語でもスルセルヴァ方言とロマンシュ語の方言から作り出された「ロマンシュ語世界のエスペラント語」、「人工言語」、「標準語」である「ロマンチュ・グリシェン語」も多少学べる。ご興味があればぜひ手に取っていただきたい。

スイス「ロマンシュ語」入門

参考

(1)https://www.eda.admin.ch/eda/de/home/das-eda/aktuell/newsuebersicht/2021/02/emna-rumantscha.html?fbclid=IwAR1di_byFHq3MaZHjoIUqfB6CCb1U12waq7vv3x2cT1OW9tVyBaKCf4H28U
(2)https://www.houseofswitzerland.org/swissstories/society/allegra-look-romansh-switzerlands-fourth-language?fbclid=IwAR0jUf5F3YcXfShnI1WSUPKJQ2ouH7Tw1bzo6j8jVrUYouwFMwSBRO1UeUE

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