間に合ってしまう星
37歳の女がキリキリしている図は見苦しいと思うのだが、どうしてもせっかちな性分がやめられない。そして深く考えることができず、衝動的に行動してしまう。
8月もそうだった。我が家は南米コロンビアで生活しているのだが、夫が1か月本邦出張するという。ついでに、スーツケースにあれやこれや頼みたくなるのが主婦である。服、お弁当グッズ、本、化粧品。住んで10年も経つとこの国の便利さに感嘆することも増えたのだが、やはり日本製品の「こういうのが欲しかった!」にはかなわない。スーパーマーケットなんて行った日には、全部ほしくて物欲のコントロールがきかなくなる。SNSの商品を見るたび、「ほしいなぁ」とため息をつく日常にとって、2か月後に持って帰ってきてくれる人がいるのは貴重である。その日から至福のオンラインショッピングにふけこんだ。女性脳は過程を楽しむというが、まさにその通り。いきなりプレゼントされてもうれしくないのである。1000円の化粧水を口コミを全部読んで買う。その時間が楽しい。
そんな中、ラインナップの携帯電話が目にとまった。当時私が使っていたものは中華製の1万円のアンドロイドである。画像の粗さや処理濃度の遅さに辟易しており、通信機器は日本で買うほうがずっと安いとひらめいた。仕事でも使うんだからと言い訳し、当地の一般犯罪(盗難、すり)の多さに危惧したもののサムスンのS22シリーズの最安ショップをさがしあて、購入を決意。中国から届くので、到着予定は8月16日という。夫がコロンビアに向け日本を発つのは同月23日である。「できる女は仕事が早い」とつぶやきながら、その完璧なタイムスケジュールに鼻をならした。そして、翌日以降忘れた。1か月のワンオペ育児でそもそも自分に対するCPUが少ないのと、私はもともとにわとり程度しか脳みそがないのである。
迷惑メールに、見慣れないショップからメールがきていると気づいたのは1週間後である。削除する手をふととめて読んでみると「あなたの住所が確認できていません」とある。どうやら携帯をネットで購入した際、私は夫の受取先住所の番地を間違えて書いていたらしいのだ。雑な性格はいつも未来の自分を苦しめる。訂正のメールを書き終えると到着予定は8月18日~26日と変更された。自分のぐずっぷりにあきれるが、もし23日以降に届いたら、一年以上その携帯は受け取れない。1か月で受け取れると思って注文したのに、それでは意味がないではないか。
できることは神頼みと、お盆での配送遅延がないことだけである。手に入らないと思うとほしさ倍増で、どうしても今回持って来てほしいと祈る気持ちで毎日待った。送り状番号を打ち込み、中国の税関から成田、成田から送付先住所の1cm程度の横棒が伸びるのを待つ。23日の朝10時までに受け取れなかったらアウトである。
受領したよ、と連絡がきたときは22日。万歳三唱であった。まともに買えば3日で着くところを数千円の値段をケチり一か月の配送予定。その上住所記載を間違えるというおっちょこちょい。
これで学べばいいものを、間に合ったという強烈な体験だけ残り、きっと同じことを繰り返す予感でいっぱいである。そうだ、間に合うからいけないんだよなぁ。
主に書籍代です。