2019 東京医科歯科大学 医学部 保健衛生学科 看護学専攻 前期小論文 模範解答
問題Ⅰ
設問1
感覚所与を五感によってとらえて、それらを現実や事実と見なすことと、現実を理解するための理論を意識のなかで作り、意識のうちに理論を持つことがともに、私たちの頭の中で行っていることであるということ。(97字)
設問2
私は学校の授業のなかで、外国では虹が七色ではないことを知った。日本では七色からなる虹が、他の地域ではそれが五色だったり、二色のみに分けられていたりするということだった。同じ対象、同じ世界を目にしているはずなのに、私たちが見ているものは異なるようだ。ここに、私たちの感覚所与と意識の対立があると考える。私たちは外界の対象を、意識において「ことば」を用いて区別している。虹の色の識別について、意識における言葉による区別と、視覚という感覚所与との間には、異なる言語を用いる人々のあいだでいわば「ずれ」があるということになる。たしかに、私たちは同じ感覚器官を有するため、私たちが感覚所与として外界から受容している情報は同じであるかもしれない。しかし、世界を「ことば」という網の目で分節化する意識の働きは異なっているため、感覚所与と意識の対立が生じていると言える。(377字)
問題Ⅱ
設問1
がんの治癒率は、がん患者のステージによって異なってくる。それゆえ、ステージの異なるがん患者の患者数に差異がある病院について、全体の治癒率を割り出して比較しても、全体としてその病院のがんの治癒率が高いと結論づけることができない。したがって、全体の数字だけで病院の良し悪しを判断することはできないため。(149字)
設問Ⅱ
筆者によれば、「『正しい判断』が医療現場で不可能であること」とは、「確実な状況下での意思決定」は医療においても可能であるものの、意思決定や数値の割り出しにもとづいた判断が「正しい判断」になることを保証するものではないことを意味する。そのうえで筆者は、「正しい判断」が医療現場で不可能であることや「医療は不確実である」ことが社会において容認されていないため、医療界と社会との「きしみ」を生み出していると述べている。それでは、「正しい判断」が医療現場で不可能であるならば、医療従事者はどのように患者に向き合うべきだろうか。
科学的根拠に基づいた医療判断を下したとしても、実際の医療判断の場においては、患者を取り巻く環境や状況、患者自身の意向などが関与する。その結果、医療には様々な要因にもとづいた「確率に左右されるゆえの不確実性」が常に存在するため、「正しい判断」は成立しない。したがって、この不確実性を患者と共有しつつ、患者にとって最良かつ適切な判断や選択が行える体制を整備することが必要だと考える。そのためには、患者の心理的状況や社会的状況なども考慮し、より広い知見と情報を保有し、各分野の専門医との人脈を築き、専門医たちと連携しながら、患者の最終的な決断をサポートするべきだと考える。つまり、「正しい判断」はできないにしても、患者とともに適切な医療判断を進めていくことが重要になるだろう。(594字)