H25年度 東京都立西高校 推薦入試作文 解答例
次のことばについて、あなたが感じたり思ったりすることを六百字以内で述べなさい。 「人間はその人の直面している条件に支配されてなどいない。むしろ逆に、その条件のほうこそ、人間の決断いかんに支配されているのである。」 (V.E.フランクル)
解答例1
わたしたちは、それぞれが異なった性別や容姿や能力を持っている。男女の性別の違いのほかに、足の速い人もいれば、歌が上手い人もいるし、美人な人もいれば、ひょうきんな人もいる。これらの性質や特徴は人それぞれ、さまざまにある。しかし、他人と比べてある部分についてあるいはすべてにおいて自分が劣っていると感じてしまうことがある。そんなとき、どうして私はこんなふうなのだろうと悲観的な気持ちになる。なぜなら、現にある私の在り方が、私が存在する上での否定的な条件としてとらえられてしまうからだ。フランクルはこうした条件に人間は支配されていないと言う。むしろ、条件のほうが人間の決断に支配されるのだという力強い言葉を述べる。これはどういうことだろうか。
たとえば、私は数学が苦手だ。計算が遅いし、文章題を式にすることが難しいし、補助線をどこに引いたら良いのかもなかなか見えてこない。数学ができないということが、自分の在り方の条件のようにとらえられてしまう。しかし、今度の定期考査では絶対にこの点数を取るのだという決断をしたとき、この条件はむしろ私の克服すべき目標となる。したがって、私の「決断いかん」によって、私の条件はもはや条件ではなくなるのだ。
私は、条件を条件として受け入れ支配されるのではなく、フランクルの言葉のように、私の決断によって条件の意味を変えていけるような生き方をしていきたい。(588字)
解答例2
私たちは日々さまざまな状況に直面している。とくに、自分の力ではどうにもできないような困難な状況に直面するとき、私たちはしばしば絶望的な気持ちになってしまう。そのような場合、私たちは自分の小ささを実感し、卑屈になって、条件のなすがままに心を支配されてしまうかもしれない。
「条件のほうこそ、人間の決断いかんに支配されている」というフランクルの言葉は力強い。この言葉は、たんに「ものは考えようだ」と言っているだけなのだろうか。つまり、「ものは考えよう」なのだから、たとえ直面している状況がいかに困難なものだとしても、力強くポジティブに臨めば、その状況も違ったように見えてくる、と言っているのだろうか。このように言ったとしても、そもそも力強くポジティブにはものを考えられない絶望した人々の心へは響かないだろう。私は違う見方をしてみたい。
フランクルの言葉の重点は「決断いかん」の「いかん」にある、と私は思う。つまり、「いろいろな決断ができるのだ」から、「私たちにはいまの絶望的な気持ち以外にもさまざまな可能性があるのだ」という点を私は強調したいのである。こう語れば、絶望に支配されてしまった人々の目を自然に別の可能性へ向けられるのではないか。微妙なニュアンスの違いかもしれないけれど、こちらの言葉のほうが、困難な状況によって絶望に支配された人への言葉として、彼の心に響くと思う。(584字)