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Polletを通じて聴覚障害のある子どもたちの教育支援をするということ/コロナ禍だから、“いつかは”でなく“いまこそ”はじめるということ

「9歳の壁」。一般的に、抽象的な語彙の習得や抽象的な思考が難しいために、読み書きや学力の面で伸びなやむ状態を意味する。この思考力の伸長に大きく影響するのが「ことばの力」である。
耳の聞こえないろう・難聴児はこの壁にぶつかりやすいと言われるが、コロナ禍によるマスクの着用や外出自粛などの新しい生活様式がさらに深刻な影響を与えていた。
ことばの獲得期にある子どもたちにとって、人とのコミュニケーションの機会が奪われることは避けなければいけない。日本手話、日本語の第一言語獲得の適齢期を逃してしまうという懸念が強い保護者も多くいる中、孤立を防ぐために社会ができることはないのか。
さて今回、各種ポイントなど現金以外のさまざまなものをチャージしてお買い物を楽しんでいただけるようにするサービス「Pollet(ポレット)」が、ろう・難聴児の教育における新たな選択肢を提供するNPO法人 Silent Voiceに協力すると聞いた。その背景に何があるのか。Polletを運営するオズビジョングループの公式ライターが、NPO法人 Silent  Voiceにて「サークルオー」事業(注:この活動の内容などについては後述)の責任者をなさっている井戸上勝一(いどうえ しょういち)さんにお話を伺った。

“Silent Voice”とはなにものか

Silent Voiceは「NPO法人 Silent Voice」と「株式会社 Silent Voice」という2つの組織の集合体である。
最大の特徴は、全体スタッフ数の半数が聴者(聞こえる人)、半数がDEAF(聞こえない・聞こえにくい人)というところだ。
双方の視点を同じだけ取り込み、NPO法人 Silent Voiceでは前述のようなろう・難聴児の教育支援のための活動、株式会社 Silent VoiceではDEAF(聞こえない・聞こえにくい人)の能力が発揮しやすい仕事や職場環境を作ることを目的に企業研修やコンサルティングをおこなっている。これらの活動を組み合わせ、「聞こえないから教育が受けられない」「聞こえないから仕事を評価してもらえない」という状況を無くすことを目指している。
さてNPO法人 Silent Voiceが最初に手掛けたのは「デフアカデミー」という「ろう・難聴児専門の児童発達支援・放課後等デイサービス」の設立である。集うのは小学生から高校生までのろう・難聴児たち。放課後などに大阪市中央区谷町にある教室に出かけて、「ことばの学習プログラム」や「自ら考え協働するアクティブラーニングプログラム」などを専任スタッフと共にそれぞれ進めていくというものだ。時には外部のゲストによる講演なども行われるという。
そこに集まる子どもたちは、手話が使える講師のもとで、とてもハツラツとした表情を見せている。聞こえない子どもたちの“居場所”として機能している。2017年8月に始まったこの活動は、ろう・難聴児とその保護者にとってはまさに福音であり、静かに、確実にその活動を広げていった。やがて大阪のみならず近隣の府県からの問い合わせも寄せられるようになったという。

コロナが“いつかは”を“いまこそ”に変えた

しかしここにもコロナ禍はやってきた。感染拡大。緊急事態宣言の発出。こどもたちが施設に通えなくなったのである。
NPO法人 Silent Voiceはかねてからデフアカデミーをオンラインで実施することを思案していたという。理由はいくつかある。
たとえば前述したように、参加を希望するこどもの中には滋賀県など近県に住まう人もいた。だが近県とは言え、片道車で2時間弱、週に何回も往復するのは現実的に困難である。だがオンライン化することができればどんなに遠くても参加することができる。
また大阪府以外の地域に教室を作ることも検討したそうだが、ろう・難聴児の数は1000人に1人といわれており、地域によっては事業を成立させること自体が難しい状況にあり、拡大への着手に踏み切れずにいた。
「“いつか”はオンライン化し多くの希望者が参加できる仕組みにしたい」。
コロナ禍は、その“いつか”を“いまこそ”に変えた。
「こどもたちにとって、手話を通して人と繋がれない状況、というのはとてつもなく辛いことであるに違いない。“いまこそ”オンラインでデフアカデミーをやるべきだ」。こうしてコロナ禍の真っただ中、2020年8月にオンライン版デフアカデミーともいうべき「サークルオー」がスタートした。
今回お話を伺った井戸上さんは前述のとおりこの「サークルオー」の事業責任者である。Polletの協力はこの「サークルオー」事業にたいしておこなわれる。

Polletの「サークルオー」への協力内容の概要
1.「サークルオー」のウェブサイト(https://circle-o.jp/)にて活動内容などの詳細をご確認いただく
2.活動内容などにご賛同いただき、寄付を希望なさった場合、「サークルオー」の寄付ページ(https://silentvoice.co.jp/news/2576/)より、寄付額(金額選択、金額指定のどちらも可)を入力し支払いページへ
3.支払い方法を「クレジットカード」をご選択いただき寄付をしていただく
4.Polletを通じて寄付がなされた総額を毎月月末に集計(例:2021年3月/合計50万円)
4.翌月末日までに各月の総額の1%をPolletが「サークルオー」に寄付させていただく(例:50万円×1%=5000円をPolletが別途寄付)

違いを強みに変えられる支援がしたい

オズビジョン公式ライター(以下「公式」):今回は「サークルオー」事業への協力ということですが、Silent Voiceは「サークルオー」事業などをおこなうNPO法人と、DEAFが仕事の中で強みを活かすことに焦点を当てた株式会社という2つの側面をお持ちです。この「2つの側面を併せ持つ」ことにSilent Voiceの特徴があると感じました。
NPO法人 Silent Voice 井戸上勝一さん(以下「井戸上」):はい。NPO法人側は教育事業を、株式会社側は研修事業とコンサルティング事業をしています。
前者はおっしゃるようにろう・難聴児の支援をおこなっています。
一方後者が提供している具体的なサービスとしては、一般企業様を対象としたコミュニケーション研修プログラム「DENSHIN」のご提供、DEAFの方を雇用なさっている企業様を対象としたコンサルティングサービス「DEAF Biz」の提供となります。
「DENSHIN」は一般の研修プログラムとは大きく違っており、無言語©、すなわちまったく言葉を使わないという条件でいかにコミュニケーションするか、という体験をしていただきます。コミュニケーションの壁を乗り越えた経験を持つDEAFが講師を務め、「伝える」「伝わる」ということの本質的な意味を発見していただくというものです。

「DEAF Biz」はDEAFと聴者がともに働く場でのコミュニケーションを本質的に理解していただくことを通じて、「聞こえる聞こえない」だけではないさまざまな「違い」に強くなっていく組織の構築をお手伝いするものとなります。
つまり両方ともDEAFのハンディキャップ的な側面ではなく、DEAFであるからこそ持ちうる特性を大いに活かしていくものとなっています。お互いが違いの受容と活用を意識することで、プラスに転じていけるように支援していければと思っています。

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「サークルオー」はろう・難聴児の最大の楽しみ

公式:「サークルオー」とは具体的にどんな活動なのでしょうか。
井戸上:「ろう・難聴児の世界を広げるマッチングプラットフォーム」と捉えていただくのがいいのではないでしょうか。
おもな登場人物は2人です。1人はろう・難聴児であり、もう1人は手話ができる先生(聴者・ろう者・難聴者)です。

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子どもと先生はそれぞれ「サークルオー」に登録します。その生徒のコミュニケーション手段・学習言語・文化・聴力等といった、それぞれのろう・難聴児ごとの多様な重点項目を考慮して先生とのマッチングがなされ、その先生から週2回授業を受けることができます。こども側は1授業を1コマとして、その分の授業料を「サークルオー」に支払い(2021年7月までは無料)、「サークルオー」は先生側に指導報酬をお支払いするという仕組みになっています。
私たちはそのようなマッチングを中心とした「サークルオー」の運営、あるいはろう・難聴児向けの「ことば教材」の開発、予約システムの開発、また日本財団様をはじめとする協力者との連携などを行っています。
公式:なるほど。コロナ禍で外出や接触が制限される昨今、ろう・難聴児への深い理解があると同時に数々の運営ノウハウを持つSilent Voiceが実施する「サークルオー」は、子どもたちにとってものすごく楽しみな時間であることが容易に想像できます。

誰かの支援が「サークルオー」を後押しする

公式:今回のPolletの協力は、NPO法人側の「サークルオー」の活動に充てていただくとのことです。
井戸上:はい。「サークルオー」を昨年(2020年)8月に立ち上げた背景はさきほどおっしゃられたとおりです。今後、授業の質をさらに高めること、繋がりのハードルを下げること、これらを通じてできるだけ多くのこどもに人との出会いや学びの機会を提供していきたいと思っています。
まず「サークルオーの品質の向上」についてですが、教材の開発などまだまだ可能性があると思っています。例えば、写真などのスライド教材よりも動画教材の方が映像としてイメージしやすく生きた情報として伝わります。また、手話を用いた動画教材を複数作るにあたり、企画や撮影、編集などにはそれなりの費用がかかります。私たちは動画制作の専門家ではありません。全国のこどもたちに展開する動画だからこそ、高い専門性を持つプロへの依頼も必要だと考えます。このような側面をご理解いただけると大変ありがたいと思います。
もう1つ、「サークルオーと繋がるハードルを下げること」ですが、前述のように日本財団のご協力の元2021年7月まで無料でご利用いただけるのですが、8月以降は有償提供に切り替わります。価格は検討段階ですが、質の高いサービス提供ができても、授業料が高ければ、私たちが目指す教育の選択肢を広げることには繋がりません。Polletの協力を通して、各方面からのご支援をいただくことで少しでもハードルを下げていきたいと考えています。

SNSがもたらす理解と支援

公式:今回のように協力させていただく団体の方に共通して伺っているのですが、技術の進展が加速し、高性能のスマホを多くの方が所有する時代です。今回Polletを通じて「サークルオー」という活動を初めて知り、その場で「サークルオー」のサイトに飛んで詳しく理解し、共感したらその場で寄付をし、その行動をSNSで拡散させ、それを知った別の人がまた「サークルオー」を知る、といったサイクルが瞬時に起きる可能性もあります。そのような社会貢献活動への参加の仕方も今後増えていくでしょう。最後に、そのような傾向が生まれていることについて期待することなどがあれば教えてください。
井戸上:もう期待しかない、といった感じです。これまではどちらかというと質の向上に注力しており、私たちの考えの伝達や活動の拡散ということは足りないものも多かったかもしれません。ただ今後はおっしゃるとおりICTの活用により私たちの活動を広く知っていただき、たとえば実際に寄付をしていただく方も増えてくる、といった流れができればと思っています。
さらに広く知っていただくことで、「私にもろう・難聴児の子どもがいるのだがこんなサービスがあるとは知らなかった。ぜひ利用させていただきたい」という親御さんが出てきたり、「私は手話ができるんだけど、子どもの為になるなら先生をやってみたい」という方が出てきたりすると嬉しく思います。
また、直接サービスには関わらない人でも知り合いに聞こえない人がいれば、「こんなサービスあったよ!」と紹介してくれるような流れが生まれることを期待したいですね。

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以前、国際里親制度「ダルニー奨学金」にPolletが協力すると聞き、奨学金を運営する公益財団法人民際センターにお話を伺った際に思ったことがある。Polletは余ってしまったポイントや金券や商品券など、仕組み仕方がないと思っていた“「無駄」や「廃棄」などを解消し再生していく”という点に本質的な価値を有しているのだと。
「サークルオー」あるいはNPO法人 Silent Voice、あるいは株式会社 Silent Voiceが、教育支援や研修事業やコンサルティング事業を通じて挑んでいるのは、「違いの1つ」にたいする“理解や受容の不足を解消し再生していく”ということなのではないか。まったく違う組織やサービスでありながら、今回の意気投合となり、協力に至ったのは、そんな共通項があったからではないか。
今後このような意気投合や協力がいろいろな関係性の中で生まれていく時代になっていくのではないかと思った。その時問われるのは、規模でもなく売上でもなく、それぞれの本質的な在り方そのものなのだろうと思う。

(写真提供:NPO法人 Silent Voice、株式会社 Silent Voice)

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