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【第9回ポリガレ『飛ぶ教室』】生徒の学力を上げるナッジ

みなさん、こんにちは!
学生時代、テスト前はあきらめが肝心!と思ってしまっていたPolicyGarage行動科学チームのY.T.です。

そんななか、
学生時代にぜひ知っておきたかったナッジがあるようです。
今回は、生徒の学力を上げるナッジをご紹介します!


世界銀行がペルーで実施した学力をあげるナッジ

「脳の発達の仕方」について学ぶと、学力が向上!?
にわかには信じがたいですが、世界銀行の行動デザインチーム(Mind, Behavior, and Development Unit (eMBeD))では、行動科学を活用して生徒の学力を向上させる取組を世界規模で行っています。

その背景にあったのは、生徒が自分自身に対して持っているバイアス(Fixed mindset:固定的な思考)が学力の向上の障壁になっているのではないか、という疑問でした。

Fixed mindsetとは、「自分の能力は生まれたときから定まっていると考えてしまう固定観念」のようなもので、この固定観念に染まってしまうと、自分の学力を見限り、それにより学びが妨げられてしまう可能性があります。

その解決策として、世界銀行はペルー教育省と協働し、800の公立校で「脳の発達の仕方」について学ぶ授業を行いました。これは、生徒に「自分の努力によって、学力を向上できる」というGrowth mindset(成長思考)*を持ってもらう取組です。

生徒は、90分の授業で、筋トレをすれば筋肉が増えるように、「脳の認識能力は鍛えられる」ことを学びます。この授業は、クラスの担当の先生などの地元の先生によって行われ、次の3つのパートで構成されています。

①生徒それぞれが「筋肉と同じように脳は鍛えられるもので、努力と訓練によって誰もが賢くなれる」というGrowth mindsetの考え方について、テキストを読みます。

②4,5人のグループに分かれ、生徒同士でテキストの内容について意見交換し、その後先生がモデレーターとなってクラス全体で議論します。

③最後のパートでは、各生徒が学んだことを友達や家族に伝えるための手紙を書きます。


90分の授業の後、先生は最も良い手紙を選び、その手紙と授業のポイントとまとめたポスターを教室に貼ります。
また、この手紙とポスターの前で生徒達の写真を撮り、メールで生徒に送ります。この工夫は、リマインダーのような機能を果たし、生徒は時間が経っても学んだことを覚えておくことができます。

「脳の認識能力は鍛えられる」という気づきを生徒に与えることに加えて、授業の手法にもナッジの要素が活用されているようですね。


果たして結果は?


5万人の生徒が「脳の発達の仕方」を学ぶ90分の授業を受けた後、その授業を受けた生徒と受けていない生徒の学力テストの差を比べたところ、授業を受けた生徒の方が、数学において標準偏差で0.14ポイント(学習期間数か月相当)学力が高いという結果が出ました。

この手法でかかったコストは生徒1人あたり20円ちょっとです。効果は地域によるものの、国語の成績にも好影響を与えるなど、最も差が出た結果では、学習期間4ヶ月相当の効果があったそうです。

世界銀行では、南アフリカとインドネシアでもこの実験を行っており、効果が確認されています。
学びを後押しすることにも、行動科学が活用できるようです。


社会人になって、諦めることが多くなりつつある今日この頃、
学ぶことを諦めてはいかん、と身に染みる事例でした。
皆さんも、学ぶことを諦めかけている人を見つけたら、是非この事例を紹介してみてはいかがでしょうか?


*スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱している概念。
 マインドセットとは、私たちが物事を判断したり、行動するかを決めたりする際に基準となる考え方です。
 Growth mindsetを持っている生徒は、Fixed mindsetの生徒と比べ、より自分自身に挑戦し、もっとできると自分を信じ、困難にも対処でき、クリエイティブに課題を解決できることが研究により証明されているようです。また、Growth mindsetを持つと、学ぶことに対してよりエネルギーを注げるため、学力の向上に繋がるようです。


出典:

Improving Student Outcomes for Only Twenty Cents (English). eMBeD brief Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/866351517954088018/Improving-Student-Outcomes-for-Only-Twenty-Cents

Ingo, O.-L., Alan, S. and Renos, V. (2020). The Power of Believing You Can Get Smarter. [online] Available at: https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/33297 [Accessed 8 Mar. 2022].

Instilling a Growth Mindset in South Africa (English). eMBeD brief Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/731961542391505661/Instilling-a-Growth-Mindset-in-South-Africa


Instilling a Growth Mindset in Indonesia (English). eMBeD brief Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/331271576268298373/Instilling-a-Growth-Mindset-in-Indonesia


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『飛ぶ教室』は、ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーの、知恵と勇気を題材にした児童文学小説です。
タイトルの『飛ぶ教室』は、小説内の戯曲の題名で、世界中を飛び回って現場から学ぶ、未来の理想の学校を描いています。
知恵と勇気を持って社会を変えようとする方のために、最先端で現場主義の学びの場を提供したいという想いを込めて、ポリガレの『飛ぶ教室』を開講します。
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