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メタバースの可能性

参照先によってはメタヴァースという表記もあるけれど、このnoteでは、引用以外はメタバースに統一したい。

テクノロジー業界の新しい流行語として、メタバースへの注目がにわかに高まっている。しかし、すでにメタバースの実現を目指している人々にとっては、インターネットの永続的で広大な「後継版」というメタバースの概念は、ハイプサイクルの浮き沈みを超越している。メタバースは単なる流行語ではなく、すでに始まっているインターネットの進化だと考えているのだ。

こんな書き出しで始まるDIGIDAYのメタバースのテキスト

マーク・ザッカーバーグがFacebookはメタバース企業に移行するという発言をきっかけに注目されるようになったという。


メタバースとは何か?

メタ(高次の)+バース(ユニバースあるいはマルチバースのバース)から作られた語で、現在は仮想空間と認識されている。デジタル上に展開される世界で、同時に多数の参加者が接続することが前提であり、ザッカーバーグの発言によって注目されているように、ビジネスからの熱視線が注がれている。ZDNetの用語解説が、簡潔でいいと思う。

DIGIDAYの記事に戻る。

メタバースのもっとも身近な入り口は多人数同時参加型ゲームだ。フォートナイト(Fortnite)のプレイヤーは2020年、トラヴィス・スコットのバーチャルコンサートで、原始的なメタバースを初めて体験した。フォートナイトの自由な世界で、カスタムコードを入手したプレイヤーがバーチャルコンサートを同時体験できるというものだった。1200万人以上がコンサートに参加し、メタバースの可能性を示す事例として今でも引き合いに出されている。

同時に多人数が仮想空間に集うことができること、単純に映像を視聴するのではなく、自身はアバターとして空間に入り込み、多数の人と交流しながら同じ時間と体験を共有する。

YouTubeなどの配信と何が違うの?ライブ配信見ながらチャットもできるし、交流しているよ。新しい言葉を使って煙に巻いていると思うかもしれない。記事でも、そのことを指摘している。

本物のメタバースに比べると、トラヴィス・スコットのコンサートは洞窟の壁に映る影にすぎない。プレイヤーが一度に交流できるのは最大49人に限られ、エピック・ゲームズ(Epic Games)のアカウントを持っている人しか参加できなかった。本物のメタバースのような相互運用性はなかった。

違いを考えることで、よく分からない新しい言葉を定義付けることができるだろう。本物のメタバースは、例えばこのコンサートが、フォートナイトだけでなく、マインクラフトや、あつ森でも視聴することができ、相互にコミュニケーションが取れる空間だとしている。


ニール・スティーブンソンのスノウ・クラッシュ、この小説にメタバースという言葉が初めて出てくるという。

近未来、デリバリーはあこがれの職業となっている。そして、ピザを30分以内に配達するためにあらゆるテクノロジーが投入されている。注文が入ったらカウンターが動き始め、注文したピザがどんな状況か常に把握することができる。デリバリー用のマシンにはピザ保管用のデバイスが取り付けられていて、配達中も常に状況をデジタルに共有している。中央政府は見当たらず、それぞれの都市が自治をしているような世界、高度にデジタル化されているように見える。1992年に発表された小説としては、現在の状況を如実に言い表しているように見えた。

主人公は軍人の息子として生まれたハーフ、肩書としてはピザデリバリー、ハッカーそして剣士となっている。アナーキーな世界でピザのデリバリを完遂するためには武装が必要で、銃よりも刀を愛用している。

そして、この世界には、名刺のようなカードに、当然のようにメタバースアドレスが記載されている。

メタバースは、ゴーグルをつけて入る仮想空間で、その中ではプログラムを書いて自分に必要な家や、移動手段などを作ることができる。アバターの再現度合は、メタバースに接続するコンピュータの性能に依存していて、その性能が高ければ高い程、精細なアバターをメタバース内に再構築することができる。そうしたアバターの見た目はファッションマウンティングにも似た状況を創り出していた。プログラムできるならば、アバターのファッションを買うだけでなく、自分でオリジナルな装飾をすることができる。

メタバースの中で交わされる会話が金になる。ある映画監督の趣味だとか、そうした他愛の無い情報をライブラリに上げておき、その情報が有用だと思う人が対価を支払う。

とてもリアルな仮想世界の描写、実現方法については詳細がないため、2021年の今になって読んでもリアルに感じる。残念ながら、2021年の現在もこの小説に描かれているメタバースの半分も実現していないけれど、とても1992年に発表された小説とは思えない。ハヤカワ文庫の定価が740円に対して10倍近い値段がついているのは、一定の需要があるからだろう。重版してくれればいいのに。

ピザの宅配はUber Eatsを連想するし、情報が金になるという点も今の状況を表しているように思う。ポストサイバーパンクの小説と呼ばれている。


仮想世界にアバターで入り込み、現実とは違った豪華な屋敷に住んで贅沢をする。そうした表現から失敗したセカンドライフを思い出す。

VRイベントで話題になったclusterの創業者によれば、セカンドライフはアバターが過疎っていたことが失敗の原因だという。誰とも会うことの無い仮想空間で何かが起こることを期待する。セレンディピティ頼みだった。それを反面教師として、アバターが集まるための部屋を作ったのがclusterが支持されている要因という。


ゲーム産業の拡大がNVIDIAの技術革新を推進し、チップの高性能化によって機械学習という何回目かのAIブームを作った。そしてゲーム産業は新たな拡張先としてメタバースを捉えたのかもしれない。

こうした社会性のデジタル化はロックダウンによって加速されたことは間違いない。

コカ・コーラ(Coca-Cola)のような企業がテーマのある非代替性トークン(NFT)をオークションに出品することに関心を持つ理由は、素人目にはよくわからないものだ。

既にソーシャリゼーションの一部となっている仮想空間で過ごす時間、
参加するには今が絶好の機会と企業が考えているのだろう。


ふと、WIREDのインターネットの次にくるものはメタバースだという記事を思い出した。

ここで指摘しているインターネットは何か?という野暮な疑問へのツッコミ(以前は事象の意味よりも事実もしくは実装に関心があった。ミラーワールドといっても基本はWebの技術やコンピュータネットワークでしょ、みたいなツッコミ)は置いておいて、メタバースには接続する自身のコンピュータの性能の範囲で、ミラーワールドとそうではない仮想空間とを創り出すことができる。その意味について考えていきたい。



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