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京都と豊田市、境界を巡る旅 虚無の声と百鬼夜行 ホー・ツーニェン

YCAM で開催されていたホー・ツーニェンのヴォイス・オブ・ヴォイドー虚無の声、幸いなことに京都にも巡回してくれた。直前に日程を組んだためにVRの予約は既に満杯だった。

膨大なリサーチに基づき、京都学派を深掘りする展覧会、あいちトリエンナーレの旅館アポリアからの接続という。豊田市美術館には行ったが、時間の関係から旅館アポリアの展示はパスしてしまった。後から分かったことだけど見ておきたかった。

副業で大阪に滞在していて、週末になってから京都に移動する。阪急の車内で浅田彰とホー・ツーニェンの対話を読んだ。ますます旅館アポリアを見たいという思いが強くなった。


ヴォイス・オブ・ヴォイドが扱うのは、かなり重いテーマであることは間違いない。膨大な資料とリサーチ、旅館アポリアから始まっている一大プロジェクトであるという。

3Dのコンピューターグラフィックスで作られたアニメーションに、京都学派と呼ばれる人達の活動が重ねられる。

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これは機動戦士ガンダムのザクから転用していると思われる。こうしたロボットが無数に展開し、ささやき声で日本語でナレーションが入る。音響効果によるものか、耳元で囁かれているようで、その場に話者が居るような錯覚を覚える。

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思想に囚われる。もはや呪縛から逃れられないとでも言うかのようなテキストに、ささやき声と字幕からの二つの感覚からのインプットによって感情が揺らされる。


中央公論が企画した座談会についてのレポート、こちらもアニメーションで座談会に参加した学者の表象とその座談会で筆記を担当した記者の物語が紡がれる。

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茶室で提示された映像作品、透明なスクリーンに投影された映像は、影としてより鮮やかな映像を落とす。背景もプロジェクターにより投影されており、不思議な臨場感があった。

事実から選って、テキストを構築し、アニメーションに合わせる。判断は鑑賞者にゆだねられている。


時間というのは、それだけで価値化を行う。昭和初期に出版された中央公論、その薄茶色に染まった表紙は、それだけの重さを感じる。

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四か所で提示された映像作品、そのうちのひとつVR作品は見ることが出来なかったけれど、三作品は、こうした監獄とその上空に展開するロボットと、それぞれの視点からのアニメーションが流れる。前述の座談会も、この空間の一部で執り行われていた。

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物事を捉える多重性の提示であるし、連関した現象を暗喩させる仕組みのように見える。京都学派は、どちらの思想からも敵対視されていたという。引用によって、そうしたことを伝えていた。繰り返しになるが、その判断は鑑賞者に委ねられていると思った。


翌日、愛知県豊田市に移動してきた。豊田市美術館のホー・ツーニェン百鬼夜行を見ようと思った。

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横長の長大なスクリーンに妖怪が現れる。パレードのようでもあるが、音楽とともに繰り広げられるアニメーションは壮大な絵巻である。二重にスクリーンを確認できる個所があり、手前のスクリーンは、京都で提示されていた透明のスクリーンと同じもので、投影された光が床にも光を落とす。

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コミカルな妖怪だが、時に暴力性を見せることもあり、油断はならないと感じさせる。この妖怪は日本の伝統的な妖怪が紹介されているが、時折見たこともない化物が登場する。例えば国体は、AKIRAを参照し、制御できなくなった様子を提示していた。ビルマの竪琴を参照した偽坊主を妖怪として紹介するなど、鑑賞者の情報によって、いくらでも深みを与える。シアトリカルに展開される絵巻物、日本の伝統的な絵巻は左から右に展開するが、これは右から左に逆転されていた。

妖怪は境界を表すという。旅館アポリア、ヴォイス・オブ・ヴォイドと同様に、この百鬼夜行は先の大戦を参照している。東南アジアから、あの戦争に対する視点を提示しているのだろう。

その表現にアニメーションを使っていることが興味深い。

複数の意味合いがあると捉えられるが、ホーが対話で語っていたのは、アニメーションの語源はアニミズムであるということ、命の無いものに命を吹き込んだかのようにして動かすことかららしい。妖怪という空想上のモンスターに様々な事項を重ね合わせる。その重ね合わされた事実、その裏にあるリサーチに眩暈を覚えた。

京都で提示されたロボット、豊田市で提示された妖怪、どちらにも日本のアニメーションの影響があることを無視することはできない。思想と文化の受容、そのことを示すために、快傑ハリマオを提示したのではないだろうか。

記号としての虎が、この展覧会に一本流れていた。後から知ったのだが、ホー・ツーニェンはトラ人間とも呼称され、境界を探るアーティストということだった。二項対立ではない考え方の整理と提示をしていたのだろう。


リサーチの結果としての作品。去年、今年と一番の展覧会体験だった。鑑賞後に、彼のリサーチの一部に触れたいと思い、提示されていた資料のうちのほんの一部を取り寄せた。

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旅館アポリアは12月に再演される。もう一度見に行こう。




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