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“Variants” by Pierre Huyghe

トップアーティストを研究することは、現代アートの理解と楽しみを得ることに非常に役に立っている。研究は、作品やアーティストへのインタビューをはじめとして、様々なメディアに掲載された批評や論文、大きな受賞とその理由とコメント等々をソースとして、深く深く潜り、自分の解釈と解釈のための勉強(哲学、科学技術など)から整理してまとめていく。そして自分の言いたいことに辿り着く。ようやく修士論文を書き上げたが、気が付いてみると、それが自分のアートを見るまなざしと思考の基準になった。

現代アートは修士を取って終わりにするにはもったいない領域、引き続きピエール・ユイグを研究対象にしていく。ロックダウン以降、彼の動きが少ないなと思っていたら、ノルウェイに恒久設置の作品を作っていたみたい。2021年から開始し、2022年に公開された《Variants》(2021 - ongoing)

木にぶら下がったピンクの物体は何だろうか。

Pierre Huyghe, Variants, 2021 - ongoing. Scanned forest, real-time simulation, generative mutations and sounds, intelligent camera, environmental sensors, animals, plants, micro-organisms and materialized mutations: synthetic and biological material aggregate. Courtesy of the artist; Kistefos Museum; Hauser and Wirth, London. Photo: Ola Rindal © Pierre Huyghe.

彼の作品は作品写真のクレジットラインに多くのヒントが隠されている。森のスキャン、リアルタイムシミュレーション、ミューテーション(突然変異が適切かな)と音楽の生成、インテリジェントカメラ、環境センサー、動物、植物、微生物、実体化されたミューテーションとそこにあるもの、自然物か人工物かに関わらず作品としている。それらを"合成・生体物質集合体"とでも呼べばいいのだろうか。

ノルウェーの川、Randselvaの島に設置されているという。恐らくKistefos美術館の近くの島のことだと思う。

この島は、川の氾濫のために立ち入ることができなかったらしい。

美術館の50番目の彫刻作品としてピエール・ユイグの作品が選ばれた。

In the initial phase, the artist has taken as a starting point what is naturally found on the island. A biologist has mapped the species, a surveyor has taken precise measurements, water levels and water flow have been studied, and stones, plants, trees, insects, animals, rubbish, sounds and smells have been thoroughly documented and used in the artist's further work.
初期段階において、アーティストは島に自然に存在するものを出発点としました。生物学者が種の地図を作成し、測量士が正確な計測を行い、水位と水の流れを調査し、石、植物、木、昆虫、動物、ゴミ、音、匂いを徹底的に記録し、作家のさらなる制作に役立てたのです。

https://www.kistefosmuseum.com/sculptur/variants

In the summer of 2021, the island was scanned using point cloud technology. The 3D model of the island forms the basis for a simulation that unfolds in real-time on the LED screen at the far end of the island. The simulation is controlled by artificial intelligence according to a separate set of rules and guidelines that differ from the island's natural laws.
2021年夏には、点群技術を使って島をスキャンした。この島の3Dモデルは、島の最奥部に設置されたLEDスクリーンでリアルタイムに展開されるシミュレーションの基礎となるものです。シミュレーションは、島の自然法則とは異なる個別のルールやガイドラインに従って人工知能によって制御されています。

https://www.kistefosmuseum.com/sculptur/variants

ピエール・ユイグの作品は徹底的なリサーチから始まる。島の3Dスキャン、生物群の記録、それらを島の奥部に設置したLEDスクリーンでシミュレーションを行う。島のどこかで突然変異を起こした何かが現れることを、そのスクリーンは示している。

サイボーグのような島、あるいは環境の言葉をデジタルに乗せて、アーティストは、それを見せているのかもしれない。これはミュンスターのスケート場や、カッセルの郊外の森の連作と見ることもできるだろうか、あるいは大宰府に設置された庭とも接続している。

ピエール・ユイグの作品は、展覧会に提示して終わりではなく、そこから始まる。展覧会も連続して展開されていく、これは時間を表しているし、変容をも示している。人と人外との二項対立ではない世界を創り出す。


是非とも見に行きたいが、Googleマップでは休館中となっている。来年の夏頃には行けるだろうか。《ソトタマシイ》も公開されていないしね。


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