ナイルの受難

(ネタメモ。 進撃 エルリ 現パロ )

…ジムに行ったら、なんかエルヴィンがめちゃくちゃ走っていた。
早い。ランニングだとかジョギングなんて速度じゃない。疾走している。走っているエルヴィンよりも走らせているドレッドミルの方が大変そうだ。
おいおい、軽く人だかりができ始めてるぞ。
「エルヴィン」
「……。」
 夢中になり過ぎて気づいていない。
「おいっ!」
「ん?あぁ、ナイルか」
 マシンから降りて汗を拭く姿に、周囲にいた何人かの女が振り向く。水分補給にボトルを傾けた時はちょっとした歓声が聞こえた。…って、水飲んだだけじゃねぇか!あー気に入らねぇ。…って、のは俺だけの感想じゃねぇみたいだな。これ見よがしの筋肉自慢の筋トレ野郎どもも同意見のようだ。めっちゃ睨まれてるぞエルヴィン。大声で羨望と嫉妬の視線を寄越す周囲に教えてやりたい。コイツは既に売約済みの上、生涯の伴侶はまだ若いピッチピチの21歳の大学生。…で、男。


「あー、あれか?お前、若い恋人と食生活合せたら太りでもしたか?三十路界はつれぇよな」
 だははと笑って背を叩くと、いいやと否定してエルヴィンは言った。
「リヴァイはそんなに油ものは好まない」
 もともとの食生活が悪すぎるが、料理はそれなりにできるようでエルヴィンと暮らし始めてからは家事の一切になってくれている上に、料理サイトを検索していたりもして、栄養表示まで見ているらしい。…やるとなったらとことんやるタイプなのだろう。…聞かなきゃよかった。
 唐揚げかと思ったら、ちぎった高野豆腐に卵を吸わせて焼いたものだったから始まって、鳥肉と豆腐のハンバーグ、鱈をグリルしたものに香味野菜のソースだの根菜のカレーだの…こいつが逐一感動した晩飯を聞かされた。しかも昼は弁当。朝はパンと卵であることが多いが、目玉焼きだったり、スクランブル、オムレツ、などバリエーションがあって、いつも丁寧に入れてくれる紅茶がどうとか。とどのつまり、めっちゃ年齢に配慮された食事用意してもらってる。あーあーあー、ウチなんか子供産まれてから子供中心の食生活になって、太らねぇように必死なのによ。だけど勿論旨いし、残すもの悪いしで『運動とトクホの茶』で維持してるわけんだが…。まぁ弛んだ腹にはなりたかねぇし。
「そんだけ気遣ってもらってんなら、あんな必死に走らなくていいんじゃねぇのか?」
「ナイル、高たんぱく食と運動は最高のアンチエイジングだそうだ」
「なんだ突然」
 アンチエイジングときたか。
 ・・・。
 しまったと思った時は時すでに遅し。後悔先に立たず、後悔役立たず。「へー」とか適当に流しときゃよかった。
「リヴァイの…」
「だーっ!だまれっ!!」
 出たよ、目付きと口の悪いクソガキ。…しかし何故かエルヴィンには本気で可愛く映っているようで、初孫を可愛がる祖父母も裸足て逃げ出すような可愛がり方をして、「人前でやるな」ウザがられている。…あぁ、人前じゃなきゃいいのか。
「12も離れているからな…若く見られないまでも、老け込みたくはない」
 …で、メッチャ走っていました。と。
「あぁ、ちょっと、すまない」
 …鳴ったスマホをタップるエルヴィン。すまないもクソもお前が一方的にリヴァイとそれが作る飯のこと話してただけだけどね。
「あぁ、…そうだな、さっとシャワーだけ浴びて一時間ぐらいで出る。汗臭いのは嫌だろう?」
 うわぁ何だその甘ったるい声。…相手、「アレ」だな。
「いや、何でも嬉しいが、「今日は何か」という楽しみがってもいいだろう?…そうだな、では一緒に買い物をして帰ろう。何か紅茶に合うもの…フルーツもいいな?買って帰ろう。」
 はい確定。
「あぁ、早く会いたいよ、リヴァイ」
 はい出た。
 会いたいもクソもお前ら一緒に住んでんだろ。
 通話を切ったエルヴィンの顔といったら…おいおいおいおい、少しは女の視線気にしろよ、こっそり羨望と落胆の視線投げながら話聞いてるのが何人かいるぞ。
「近くまで来てくれるらしいから、俺はもう出るが…」
「あーはいはい、早く行け」
「お前もマリーに何か買って帰ってやったらどうだ?喜ぶんじゃないか?」
 巨大な世話だ。
「夕食の材料を一緒に買いに行きたいと…」
 その話まだ続けんのかよ。
「…早く行けよ」


 エルヴィンが去った後、自分もトレーニングメニューをこなしてしまおうとマシンに向かう。ガラス張りの窓の外、眼下にジムから出て行くエルヴィンの姿が見えた。…少し先のいる黒髪のパーカー姿がリヴァイだろう。12月にしちゃ薄着してんな、若さか。なんて思っていると、エルヴィンの奴が自分のマフラーを撒いてやるの見えた。これで手でも繋げば完璧。
・・・あ、完璧だった。

 …次に顔合せた時に、今日の話をしこたま聞くことになるだろう。
 あぁ、クソ。見せつけてんじゃねぇよ。全く持って羨ましくはないが「幸せ」であるという点は何故か羨ましく感じる。妻子がいて自分だって幸せなのにも関わらず、だ。
 ・・・今日は何かケーキでも買って帰ろう。でもってコーヒーを淹れてやる。 

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