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(ネタメモ。 進撃 エルリ 現パロ )

「口を開けろ。入れてやる」
 …懐かしい響きと思った。
「どうだ?」
「あぁ、今日のも旨いな」
 

 一緒に暮らしはじめてから、リヴァイは早朝のバイトを辞めた。正確には、辞めてくれとエルヴィンが頼んだのだ。早朝のビル清掃のアルバイトの為に、夜明け前に家を出る。そのまま大学へ行って、夜は深夜までステーキハウスでバイト。
 彼なりのプライドもあるだろう、学費の援助を拒否するリヴァイに、夜のバイトまで辞めてくれとは言えない。だが如何せん、一緒に居る時間が少ないと不満を募らせ、家賃の心配はないのだから、早朝のバイトは止めてくれとエルヴィンが言ったのだ。「金はあるに越したことはない」そう言って会話を打ち切ろうとするリヴァイを強引に言葉でねじ伏せた結果、
「家事全般は俺がやる。それでいいな?」
 と、エルヴィンにとっては願ってもない形で決着した。
 家賃を労働と言う形で返そうとしているのはわかるのだが、最初の休日に、あまりにもピカピカに磨き抜かれた窓やバスルームの鏡を見て驚くと、「ハウスキーパーの舐めた掃除の仕方が気に入らなかった」という言葉に更に驚かされたのが後の余談となった。
 …その実、リヴァイはステーキハウスのバイトも終了時間をやや早めたシフトに変更したのはエルヴィンには内緒にしている。調子に乗られそうだからだ。
 しかし、エルヴィンとて一人暮らしが短くない男だ。家事の大変さを知らないわけではない。学業とバイトと家事で疲れるだろうと手を出すこともある。主に、リヴァイの側にいたいのが理由ではあるのだが。
「ランドリーに行かなくても、家で乾燥まで終わるなんて手間でも何でもねぇ」
「食洗器?なんでそんなもん買ってきやがった?」
「ル〇バを買うだと?貴様、俺の掃除が気に入らねぇのか?」
 …と、まぁ、終始こんなで皿を仕舞うぐらいしか手伝うことがない。嘆くエルヴィンにナイルは言った。「いい嫁じゃねぇか」それが人の恋人を目付きの悪いチビだと言った男のセリフかと思うが、当のナイルには惚気話にしか聞こえておらず、適当に返事をした結果である。
 それもそのはず、要約すれば「朝昼夜とリヴァイの作ってくれた食事ができ、常に家はピカピカ、クリーニング行きと家の洗濯を分けなくても仕分けから全てリヴァイがこなしてしまうし、食器を洗ってる時間を短縮できれば、一緒にお茶をする時間を増やせると思って食洗器を買ったら叱られた」だ。何処の亭主がそんな贅沢な悩みを抱えるか。…しかし蓋を開けてみれば、伴侶様は男ときた。突っ込みどころしかなさ過ぎて、突っ込む気になれないのがナイルの本音である。悩みと称した惚気話は散々聞いた。…きっとまだ続くだろうと諦めている。
 出会って約一ヶ月で同棲に漕ぎつけて、幸せを謳歌するエルヴィンではあるが、朝のアルバイトを辞めてから、寝顔を堪能できると期待していたはずが、習慣からか、リヴァイの方が朝が早い。最初は「もっと寝ていろ」と無理やりベッドに抱き留めていたが、ある日、
「テメェ、朝飯も作らせねぇつもりか」と静かに切れ、一緒に起きることは諦め、「アルバイトをしていた時より2時間長く寝ること」で妥協した。
 それから数日したある日。リヴァイが3限目から授業があると言っていた、その日。
 仕事へ行くエルヴィンに差し出されたのは綺麗にランチクロスに包まれた外観から察せられる弁当箱だった。
「外食ばっかだと、偏るだろうが」
 そっぽを向いたのが照れ隠しなのがバレバレのその顔が可愛くて、ぎゅっと抱きしめると、早く行けと叩き出された。それを昼に思い出して、弁当を食べながらにやけていると社員に指摘された。
 すっかり自分も早起きになった。そんなことを思いながら、今日も良い香りをさせているキッチンへいくと、卵焼きが焼けた直後だった。切り落とした両端を、味見してみるか?と箸で摘み上げて口へ運んでくれる。これを幸せと言わずに何と言うのだろうか。
 その度に、思い出すのは過去の、あの苛烈な日々の中であった小さな幸せ。リヴァイが与えてくれていた、小さな幸せの時間。
 右腕を失ってから、執務に向かっている間は飲み物すら口にすることがなくなっていた。片手でペンを握ると言うことは、そういうことだ。ペンを放さないと、カップは持てない。
―『エルヴィン、少し休め。ハンジがビスケットを買ってきた。茶を淹れてやる』
ー『あぁ、後て貰おう』
―『そういって、テメェはいつも休みやがらねぇ』
―『終わったら貰う』
ー『…。口を開けろ、入れてやる』
 何を言っているのかと反射的に顔を上げれば、ずいっと差し出されたのは摘み上げられたビスケット。
 冗談かと思って口を開けると本当にポイと口の中に放り込まれた。…馴染みのあるはずのビスケットが、いつもよりも、甘かった。
―『…旨いな」
―『なら、ペンを置いて、こっちに来い』
―『そうだな、少し休もう。…淹れてくれないか』
ー『あぁ』
 …きっと、今日の紅茶も旨いのだろう。


「おい、何にニヤケてやがる」
「いや、…いつも旨いと思っただけだ」
「…そうか」
「リヴァイ」
「何だ」
「いつもありがとう」
 なんだ突然、顔にそう書いてある。
 お前に、お互いが決して口にしなかった言葉を告げたあの日から、思っていることは伝えていこうと思ったんだ。
 お前だって、バイトのシフトを減らしただろう?


 …黙っているから、今は気づいていないことにしている。
 
 

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