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迷い込んだ森【ショートショート】
男性リーダー このシールを貼って、ここにこれを被せてからネジを付けて。そうだな、20個くらいになったら台車で持ってきてね。あ、手だけ気をつけてね。急がなくてもいいからね。分からなかったらいつでも周りの人に聞いてね。みんな優しいから。
ゆいは戸惑いながらも、はい。とだけ返答する。
女性作業員 吉川さん、まだ18歳なの?可愛いわね。私の娘より若いわ。笑
男性作業員 重い物とかあったら俺に言ってくれても良いからね。
ゆいは居心地が悪かった。一週間前、生まれて初めて派遣会社に登録し、髪を黒く染めた。そして今日から洗濯機を製造する工場で、洗剤を投入するケースを組み立てる作業に就く。思ったよりも暖かい歓迎に、慣れない感覚を覚えていた。
ゆいは18歳となった今年、人生をやり直す事を決め、交友関係、仕事など、過去を全て捨て、人生をやり直す決意をした。
ゆいが水商売を始めた時、彼女はまだ15歳。3ヶ月後には風俗で働き出し、その半年後からは風俗を続けながらも、アプリなどを用いて個人間のやり取りで身体を売るようになった。
水商売を親に反対された時は、「お前らがろくに小遣いをくれないから」と反抗していたが、身体を売っていることは黙っていた。
しばらくはキャバクラで勤めていると思っていた両親も、一年前ついに、ゆいが何をしているのかを知る事となった。
父親の会社の部下が風俗店のウェブサイトを見て、ゆいを見つけたのだった。父親はゆいを溺愛しており、待受画面をゆいに設定していた。
また、過去に何度か会社の前でゆいと待ち合わせて歩いていた事があり、会社の中で数人は、ゆいの顔を知っていた。
父はそれがきっかけで重度の胃潰瘍を患い、母の頭には円形脱毛症が何個も現れた。
そんな中で、ゆいが心を入れ替えた。
両親はいつでもゆいの味方だった。突然黒髪にし、派遣に登録すると告げた時、母は泣いて喜び、過呼吸となった。そしてその日はご馳走を作った。
父は記念に何か、仕事で使える物をプレゼントしたいと申し出てきたが、親の経済的状況を考慮し、気持ちだけを受け取った。
夕方5時。作業自体は簡単な物だったが、8時間立ちっぱなしの仕事はゆいにとっては苦痛でしかなかった。今までこれほどまでに足が痛くなった事は無かった。
『皆どうやって毎日働いているんだろう』という疑問が頭の中を駆け巡っていた。
女性作業員 足痛いでしょ?大丈夫よ。慣れると痛く無くなるよ。
初日の勤務を終えた時、もう無理だと考えた。一日で辞めようとうっすらと考えながらも、これ以上親を悲しませたくない気持ちが勝り、明日の朝の足の状態で決めようと考えた。
翌日。朝起きると、足は痛いままだった。休んでもいいほど痛く感じたが、女性作業員の慣れるという言葉を、信じてみる事にした。
現場には昨日居なかった女性がいた。50代ほどに見える、太った女性作業員。癖毛のショートカット、ファンデーションは塗らずに、どすっぴんに口紅だけを塗ったような顔だった。眉間に皺を寄せている。
50代女性 新しい子よね?投入ケース何個か作った?
ゆい はい、昨日作ってました。
50代女性 何個くらい?
ゆい え・・・いや。何個でしょう。一度に20個くらいで、8時間くらい働いてたんですけど・・・
50代女性 まだまだね。次からはちゃんと意識してやろうね。あと、分からない事があったら必ず周りの人に聞いてね。失敗されるとこっちに迷惑かかるから。
工場派遣の勤務で得られる日給は、ゆいの以前の職業なら2時間ほどで得られた金額だった。
この日を最後に、ゆいは以前の仕事に戻った。
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