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人にはそれぞれの体臭がある。当たり前の事だが。友人の家のバターの匂いと体臭が入り交じった匂い。友人が飼っているペットの匂いと体臭が入り交じった匂い。もちろん自分の家にも独特の匂いが香っていたのだろう。と、今になって思う。
まだ冬の香りが残る4月、妹が自死した。こんなことを言ってはいけないが、本当に綺麗な死に方だった。即死だった。人生で初めて参加する葬式は皮肉にも妹の葬式だった。幼少期の痛みを唯一分かち合えた、たった1人の妹だった。
死に顔は腹が立つ程綺麗で、手を触るときんきんに冷えていて、なぜだか分からないけど凄く嫌な気持ちになった。寒い中ふたりで寄り添って押し入れで身体をくっつけ合っていたじゃないか。
何か嫌なことがあって、半ば無理矢理妹を連れて屋上に星を見に行くことがあった。妹は嬉しそうに笑っていた 笑っていた 星空を見上げて笑っていた。

お風呂に入る気力も湧かずゴミのような部屋に居座っていると母にお風呂に入りなさいと促された。熱されたシャワーを浴びた頭皮からは妹の臭いがした。嫌とは思わなかった。実家でよく香っていた、妹の、人の匂いだ。血が繋がっていることもあり同じ体臭がする、それは当たり前だ。泣きながら皮脂を洗い落とした。わたしは一生この臭いを感じて生きていくことになるんだなと思い、すこし、すこしだけ嬉しかった。私のことだけを信じていてくれた頃の妹の面影を想って。

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