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なっちまえばいいじゃん、ブースターに。


イーブイブームが続いている。


 見た目が愛らしい。小さくて育てやすい。トレーナーによくなつく。おまけに何種類も進化先があるとくれば、人気が出ない方がおかしいというものだ。

 イーブイは俺の好みじゃないのでブームに乗っかる気はないが、それでも最近、思う所がある。イーブイの進化についてだ。


 昨今、トレーナーの元にいるイーブイの進化先のほとんどが、ニンフィアかエーフィのどちらかだという。今月のポケモンだいすきマガジンのイーブイ特集にそう書かれていた(『なんだ、だいマガがソースかよ』と思った奴はとっととブラウザバックするように)。

 特集によれば、イーブイの進化先をトレーナーが決める時に最も重視するのは「進化後の育てやすさ」だそうだ。フェアリーのニンフィアや、念力系の技無しならエーフィがラクな部類らしい。



 まあ、気持ちは分からなくもない。昨日までノーマルタイプだったイーブイが突然バチバチ帯電したり、風呂場を凍らせたりしたらそりゃあビビるだろう。イーブイのファン層の連中ならなおさらだ。

記事の中にも「あくタイプは怖い~」だの「くさタイプは散らかりそう~」だのといったえらく素朴な「ファンの意見」が並んでいた(『シャワーズは溶けちゃいそうで不安~』ってのには笑わせてもらったが)。
 
 で、結局のところ、イーブイ持ちのトレーナーの7割が「進化させない」派になっているらしい。いつまでもかわいいイーブイちゃんのままでいてくれるのが一番幸せなんだそうな。

 さもありなん、と思いつつ、俺はあえてここで問いたい。進化させるさせない関係なく、この特集に出てきたイーブイ持ちの連中全員に問いかけたい。



「お前らそれ、ちゃんとイーブイに選ばせてやったんか?」と。




 ガキの頃、俺は格闘技マニアの親父の意向で、強い男に育つようにと道場に通わされていた。初めて家にやってきたポケモンも、親父がどこからか連れてきたバルキーだった。

 親父の熱量はすさまじかったが、あいにく俺に運動のセンスはなく、道場の中でも俺は相当ヘタクソな部類だった。どんなに稽古しても、基本の型すらサマにならなかった。

 一向に上達する気配のない我が子に、親父がだんだんイラついているのが伝わってきた。道場へ通う足取りは、日を追うごとに重くなっていった。

 そんな時、俺にある選択が課せられた。一緒に稽古を積んできたバルキーのレベルが上がり、進化の時が近づいていたのだ。

 エビワラー、サワムラー、カポエラー。バルキーの進化先は3つに分かれている。親父は「どれを選ぶか、お前が責任を持って決めろ」と言うだけだった。これも教育の一環だったのだろう。知らんけど。



 突然与えられた正解のない3択に対し、ガキなりに悩みぬいた俺は、結果「選ばない」ことを選んだ



 俺はだいマガのかくとうポケモン特集の記事から、エビワラー、サワムラー、カポエラーのかっこいいピンナップをハサミで切り抜いて、バルキーの前に並べた。そして「おまえ将来、どれになりたい?」と聞いたのだ。


 ポケモンにそんなこと聞くなんて馬鹿なガキだと思う奴もいるだろう。しかし当時の俺は真剣だった。

 このマヌケな問いかけは、親の意向で道場通いを強制され、そして勝手に失望されていた、俺自身の境遇への反抗だったのだ。

 バルキーは黙って3枚のピンナップを眺めていた。進化について考え込んでいるのが伝わってきた。俺自身の好みでいえば一番カッコいいエビワラーになってほしかったが、それを口に出したらオシマイだと思った。もし進化したくないのならそれでもいい。俺はバルキーの意思を聞こうと思った。


 ……。


 …………。



 長い沈黙の末、バルキーはサワムラーのピンナップを指さした。

 その瞬間俺は「やった!!」と叫んだ。稽古の時の倍ぐらいデカい声で叫んだ。俺の希望とは違ったが、ともかくバルキーは自分で選んでくれたのだ。俺は嬉しくなって、バルキーの筋張った体に抱き着いた。

 親父には「足のバネが強いから」とかなんとか理由を後付けして説明し、バルキーは栄養剤で無事サワムラーに進化した。



 そしてその後すぐ、俺は忌まわしき道場をやめた。こっちは適当な理由が思いつかずひたすら「もう嫌だ!」と駄々をこね、親父にひっぱたかれたのを覚えている。それを見たサワムラーが親父にとびげりをかましたことにより、俺は晴れて自由の身となった。



……自分語りが長くなったが許してほしい。とにかく俺が言いたいのは、ポケモンの未来はトレーナーがすべて決めるもんじゃない、っていう単純なことだ。

 あいつらはなんでも自分で選べる。進化の仕方も、メシの好みも、お前と一緒に暮らすかどうかも。その上で、お前に未来を委ねる瞬間もあるってだけだ。

 少年時代の俺のケースは、今思えば単なる反抗心のめざめだったかもしれない。それでも、あの判断は間違ってなかったと、今でも思っている。


 イーブイ持ちの奴らに問いたい。
 もしイーブイがほのおの石を見て目を輝かせてたら、トレーナーとしてまず最初に言うべきことはなんだ?
 「お部屋が暑くなっちゃうよ~」か? 「すばやさが伸びないよ~」か? 違うだろ?

 そのことについて考えてほしくて、このnoteを書いた次第だ。

 以上。そろそろサワムラーのメシの時間なので、このへんで。

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