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【子供の不正問題】子供にポケモンカードを買い与える前に

 ポケモンカードが大流行しています。
 子供さんにせがまれて買っているうちに、自分もハマってしまってガチプレイヤーになった親御さんも多いのではないでしょうか。子供さんがとても楽しんでいるのを見たり、自分ものめり込んだりしていると、子供にも環境デッキ(強いデッキ)を買い与えてあげたくなりますよね。
 そんなみなさんに、ぜひ知っておいてほしいことがあります。
 子供の不正(イカサマ)問題です。

子供は最強に憧れる

 大人がカードゲームに求めるものと、子供がカードゲームに求めるものは違います。
 おそらくほとんどの大人は、カードゲームを『趣味』として扱い、その中で『技術』の向上を図るとともに、それをともに遊ぶ仲間との『関係性』に価値を見出すでしょう。
 実際僕もそうでした。顔馴染みになる人たちと遊びながら、誰かが大型大会に出るのを応援したりするのは、青春をやり直すようでとても楽しいです。
 しかし、子供は違います。『趣味』『技術』『関係性』などの複雑な楽しみ方をまだ理解できない彼らが欲するのは、『勝利』の2文字なのです。まずこの部分を、しっかりと理解してあげてください。

 子供たちの承認欲求は、明確に強いです。学校ではみんなで同じことをするため、得意不得意で勝手にランキングが作られます。上位にいたいという感情を、普段から刺激されているのです。
 この状態にある子供たちに、ポケモンカードを買い与えるとします。
 初期は問題ありません。スターターから始まり、アナログゲームの良さを知るだけです。
 その中で楽しさを覚え、じゃあジムバトルでも出てみようかとなります。そして、そこで2万円も3万円も、下手したら10万円近くかけたデッキを振り回す大人に完敗します。お小遣いの中からやりくりしていて、親がお金を出してくれない子供は、大抵そこで自分の置かれている状況に気付き、仲間内だけの対戦に戻るか、ゲームをやめるかを選ぶでしょう。
 しかし、親もプレイヤーになっている場合は違います。今まではパックから出たカードを適当に組み合わせ、スリーブも無しに遊んでいたのが、Twitterにアカウントを作り、優勝デッキを検索しまくり、メルカリとカードショップを徘徊して、翌週には環境デッキでジムバトルに参加します。子供の分のデッキも親の潤沢な資金で作り上げた上で、です。
 親っていうのは、単純な生き物です。子供が苦しんでいたら、当然助けてあげたいと思います。家であんなに楽しそうに遊んでいるポケモンカードで、見知らぬ人にボコボコにされていたら、せめて同じ武器ぐらい持たせてやりたいと思うのです。

 さて、ジムバトルにいる大人という猛者には、それでも中々勝てません。たまに勝てても、連勝連勝とはいかないでしょう。
 しかし、今まで遊んでいた子供たち同士の対戦はどうでしょうか。トレーディングカードゲームは、ある一定のところまではお金によるパワーゲームですので、破竹の連勝街道を進むことは間違いありません。
 そして、その子は思うはずです。
 『俺は強い』と。
 負のループは、ここから始まります。

不正は内輪から

 『俺は強い』と思っていた子が圧倒的連勝を積み重ねていたある日、子供同士の対戦の中で、その子にピンチが訪れます。それなりにお金をかけられるライバルが現れるのです。
 自分が絶対最強の内輪土俵において、負けることなど許されません。少なくとも彼は、心の底からそう思っています。

 お互いに、次のサイドを取れば勝ち。
 ボスの司令さえ引ければ勝てる。
 そんなとき、ふとトラッシュにボスの指令があることを思い出します。父親がジムバトル優勝記念に買い揃えてくれた、SRのボスの指令が。

「トラッシュ確認します」

 慣れない敬語でそう言って、手札を伏せ、彼はトラッシュの束を掴みます。ボスの指令を、束の一番下に移動させます。

「そっちどんな感じー?」

 別の机で対戦している友人が、話しかけてきました。

「めっちゃ接戦ー!」

 対戦相手が、それに返事をするために、別宅の友人の方を向いて、一瞬盤面から目を切ります。その瞬間、彼は一番下に置いていたボスの指令を伏せた手札の一番上になるように、ポトッと落とします。そして、対戦相手がそれに気付いていないか、様子を確認します。どうやら大丈夫そうです。

「あれー、たしかあったはずなんやけど……」

 それっぽいことを言いながら、トラッシュを戻し、手札を探すフリをします。

「あ、やっぱあったわ、重なってた。ごめんごめん、じゃあボスで」

 そう言って彼は、汚い勝利を手にしました。
 一度汚れてしまった手は、中々洗い落とせないと知らぬままに。

勝利は正義である

 さて、このお話は半分フィクション、半分本当の話です。トラッシュからカードを拾うという不正は、子供たちの間ではよく行われています。
 大人プレイヤーだと簡単に見抜けるのですが、子供たちの注意力だと、中々難しいんですよね。
 他にも子供たちが行いやすい不正として、山の積み込みや、コインの表が出やすい振り方などがあります。コインの振り方なんかは『技術』としてわざわざ語っている子も見たことがあるので、もしそういう子がいたら、それは不正なんだよ、と注意してあげてください。純真が故に、練習してうまくなるなら許されると思ってしまうところもあるのでしょう。
 しかし、一度イカサマに手を染めてしまうと、次から次へと案が湧きますし、ネット社会ではいくらでもイカサマ方法を知ることができます。
 積み込みなんて、大人でも見破るのは困難ですから、バレなければどんどんエスカレートしていくでしょう。
 子供たちがイカサマに手を染める理由は、『勝利こそ正義である』という二元論にあると言われています。
 そもそも子供には、まだ二元論以上に有力な決定機構が備わっていない場合が多いため、『勝つのが正しい』=『何をしても勝てば良い』になりやすいということですね。イカサマだろうがなんだろうが、『負ける』という二元論的絶対悪よりはずっとマシだということです。
 さて、いよいよ本題です。
 我々親は、これにどう向き合えばいいのでしょうか。

買い与える前に

 彼らの心理的な面へのアプローチは、買い与える前から始めるのがベストだと個人的には考えています。
「このゲームは、運の要素があるゲームだよ。だから、どんなに上手な人でも勝ったり負けたりするけど、それでも遊んでみるかい?」
と、伝えておいてあげるのです。
 トレーディングカードゲームにおいて、運の要素が排除されたゲームなどありません。運の要素があるからこそ、ギャンブルよろしくのめり込むことができるからです。そもそも、パックを買う時点で相当な運ゲーですから、トレーディングカードゲームと付き合っていく上で運の要素は不可欠です。これをちゃんと説明しておいてあげましょう。
「毎回勝たなくても、運のせいにすればいい」
とわかっていれば、子供たちの『勝ちたい病』にも歯止めをかけやすくなるはずです。
「サイド落ちが〜」という言い訳は、ある意味で『勝ちたい病』を抑える薬になっています。それはポケモンカードというゲームデザインの良さでもあるので、子供のうちは言っていいと思いますし、親も「そやな〜」と聞いてあげると良いと思います。
 大人になってから言うと「言い訳」とか言われちゃうのですが、言い訳も何もそもそもポケモンカードに運の要素が含まれているのは間違いないので、そこは勝った方が寛容に聞いてあげたいなと思います。
 大抵「サイド落ちが〜」発言で問題になるときは、そのプレイヤーの他の言動が含まれている場合が多いので(笑)、個人的には「サイド落ち言い訳は絶対してはいけない」と過敏になる必要はないと思う派です。
 子供にとっては、サイド落ち言い訳は勝利至上主義に陥らない絶好のストッパーになるので、自宅対戦などで子供さんが負けたときは、「サイド厳しかったなー」など伝えてあげても、個人的には良いと思います。

買い与えた後は

 すでに環境デッキなどを使っている場合は、カードゲームの結果についてよりも、ゲームに向かう姿勢について言及すると良いと思います。
 勝つという事象を褒めるのでなく、デッキの構築内容や、それを練習していたという過程を褒めてあげてください。
 『勝利』の価値は、親が褒める必要もなく、本人がちゃんと理解していますし、周囲も結果を褒めることが多いです。なので、親は結果について一切触れなくても大丈夫な場合もあるぐらいです。それよりも、「マナーが良かった」とか、「ちゃんと宣言ができてた」とか、「敬語が使えていた」とか、「ピン刺しのアイデアが良かった」とか、勝ち負けの結果でない部分を褒めてあげれば、勝利至上主義から少しずつ離れられるきっかけになると思います。

不正をしてしまったら

 不正をしてしまったら、しっかりと注意することが必要です。自宅や内輪での不正なら、その場でしっかり『それは不正だよ』と言いましょう。
 子供の中には、不正<勝利の子もいますので、いかに不正がよくない事なのかを説いてあげてください。
 ここが結構難しくて、子供によって刺さる言葉が違いますので、各お子さんの性格を判断しながら、色んな言葉でもって、しっかり理解するまで伝えてあげてください。
 「とにかくダメ!」と言うのではなく、
『なぜ不正をしてはいけないのか』を、子供と一緒に考えながら伝えていくと、子供さんも理解しやすいと思いますので、しっかり話し合ってあげてください。
 
 次に、もしも子供が公の場で不正をしてしまい、十分に罰を受けている状態だった場合は、親は「落ち込んだ様子を見せた方がいい場合が多い」そうです。
 これは、テレビか何かで誰かがおっしゃっていた受け売りなのですが、
「まさかあなたがそんなことをするなんて……」
と、親が落ち込んでいるのを見せたほうが、怒るよりも効果的なんだそうです。内容もうろ覚えですので明確な情報ではありませんが、たしかに子供心にグサッと刺さりそうではありますよね。
 もちろん、反省していなければ注意も必要だとは思いますので、『なぜ不正をしてはいけないのか』というテーマのもと、子供さんと向き合って、しっかり話し合うことをオススメします。

不正癖が治らない場合

 不正を注意しても中々治らない場合は、かなりの勝利至上主義的哲学が本人の中に出来上がっている可能性が高いです。これは様々な場所でトラブルを産む原因になってしまうので、親としては包括的な対応が必要になります。ポケモンカード以外の子育ての部分でもしっかりアプローチしていきたいですね。
 そもそも僕は、勝ちたい気持ちが強すぎる子は、偶然性の高いトレーディングカードゲームには合わないと思っています。
 むしろ、イカサマがしにくくて、運の要素がなく、実力が明確に出る将棋やスポーツなどの競技に向いていると思うので、うまく誘導してあげるのも一つの手段かと思います。
 トレーディングカードゲームをやるということは、運と共存するということです。それが納得いかないのなら、あまりオススメできる競技ではないと思います。
 どうしてもポケモンカードが良いというのなら、運との共存のための道を探しましょう。ストレスコントロールやアンガーコントロールなどが役に立つと思います。負けることを許せるようになり、勝つこと以外に楽しみを見出だせるようになれば、わざわざイカサマに手を出してまで勝とうとはしなくなると思うので、うまく誘導してあげたいですね。

我が子の不正の見つけ方

 まずは、プレイしているところをよく見る。加えて、どういうふうにプレイしているかをよく聞くということに尽きると思います。
 見るのは勿論ですが、対戦後に聞くことで発見できることもありますし、信頼関係があれば、こんな風にしてるという話の中で不正につながることが出てくる事があると思います。
 コインなんかは、本当に純粋に「7割表出せるようになったよ!」と中学生ぐらいの子に話しかけられたことがありました。「それは不正なんだよ」と伝えたところ、「なんで?」みたいな顔をしていたので、本人としてはまったく罪悪感がなかったのでしょう。
『ポケモンカードにおけるコインは、ランダムに振られることを想定してカードの効果が作られているから、そのコインの結果が偏るようなことをしてはいけないんだよ』と伝えたら、わかってくれました。
 純真だからこそ、その場にいる大人の責任で教えてあげたいなと思う出来事でした。不正と理解していながら行っていた場合は、少し厳しい言い方になっても伝えてあげないとな、とは思いますが、まあこのあたりは中々難しいですよね。
 そういう際にはっきり言えるようになるために、ジャッジの資格を取りたいと思った部分もあるかもしれません。職権乱用(資格乱用?)してはいけませんが、自分の発言に効力を持たせるという意味では、ジャッジ取得は一定の効果はあるかなとは思います。ちなみに大会などで稼働したことはないです。大人に裁定下すの怖いんですよね……(笑)。

最後に

 不正問題をTwitter上で知り、子供プレイヤーの話も出ていたので、子供プレイヤーを持つ親御さんへの問題提起と、その向き合い方の参考になればと思い、記事を書かせて頂きました。
 かなりの部分で学術的内容でなく個人的意見だったので価値があるか怪しいですが、参考になっていれば幸いです。
 ちなみに大人の不正(イカサマ)問題もポケモンカードでは散見されますが、あれは論外です。積み込みにせよマークドにせよ、責任ある大人が行っている以上、何かしら罰せられるべきと個人的には思っていますが、証拠を明確にすることが困難なため、運営側も難しいだろうなと思います。アナログゲームの大きな欠陥ですし、完全に防ぎ切るのもアナログである限り困難なので、見つけたら罰する、以上の対策は難しいと思います。そういった要素に免疫のない方は、デジタルゲームに移ってしまうのも1つの手段かなと思います。もちろんアナログには対面してできるなど大きなメリットもありますので、一様には語りきれないですが……
 この話は長くなりすぎるので、このあたりで(笑)。
 それではまた。

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