【おはなし】窓 #07

前回のお話


オレたちは映画を見てからカフェで軽くランチをして街をぶらぶらとした
今日は、居酒屋が開店したら一杯飲んで帰ろうという計画だ
そこはさすがに高校生の時とは違う
着るものに無頓着なオレの服を選んであげると無理やり流行りの洋服屋を巡らされている
着やすいのが一番だろう?と言うと、

「フミヤはスタイルが良いんだから、もっともっと格好よくなるよ!」

なんて店先で大声出すもんだから
ショップの店員さんに笑われた

何枚か洋服を買ったらそろそろ居酒屋が開店する時間だ
ユカが選んだ店は、居酒屋と言うにはお洒落な店でバルって感じだった

乾杯
料理を何品か頼んで先に来たドリンクのグラスを合わせる
外で二人で飲むのは初めてだな

会話の内容はいつもの朝の延長と言った感じ
3杯目のドリンクを頼むころからユカは静かになってきた

少し会話が途切れて、二人同時にグラスが空になった
店員さんを呼んでもう一杯ずつ注文する

「そろそろ最後の一杯かなぁ…酔っちゃった」
「そうだな もう2時間しゃべってるからな
 あれ…乗って帰るか」
「……えっ?……観覧車?」

酔って赤くなったユカの顔がさらに赤みを増した気がした
そしてちょうど店員さんが新しく持ってきたドリンクをごくごくと半分飲んでしまった

「おい…大丈夫かよ」

そう声をかけると
お手洗い!と叫んでバタバタと目の前から消えていった…

その間にお会計をすませて二人は店を出た

高校生のあの日ぶりに、観覧車を待つ行列に並んでいる
さっきまで陽気だったユカは言葉数も少なくなった
オレはなるべくいつも通りのテンションで
「景色とか、変わってるのかな…」
なんてどーでもいい事をぼそぼそ言う

オレたちのゴンドラが来た
二人が乗り込むとすぐに街の人々がどんどん小さくなっていった

ユカは真後ろのガラスの方を向いて外を眺めている
「どう?景色変わってる?わかんないよ~ってか、高校生の時の景色も覚えてないし!」
無駄にでかい声が小さな個室の中に響き渡っていた



オレは心を決めていた
今日、この時…
高校生の時はユカに勇気を出させたけれど
次はオレの番だ


ゴンドラが頂上に近づいてくるけれど相変わらずユカは窓に貼りついている

「ユカ」と呼ぶと少し驚いたように、やっとこちらを向いた
「…?なに?」
「高校の時の事、覚えているんだろ。この観覧車に一緒に乗った時の事」
「え…あーーっっあの日の事ねっっちょっとあの日は私どうかしちゃって」
ユカは顔を真下に向けてしまった

「オレもあの時は驚いたんだ でも、最近までなぜか忘れててさ、だけど思い出して…」
「えーーーっっ 思い出さなくていいよっ忘れて忘れて!記憶から消去!」

「あの夜の事を思い出しただけじゃない、オレの気持ちも思い出した
 子どものころからの、オレの気持ち ずっとユカが好きだったんだよ」

………!

ユカは大きく息を吸って、しばらく固まっていた

その時ゴンドラが頂上に到達し、ゴンドラの揺れがしばらくおさまった
オレはゆっくりとベンチから腰を上げユカの隣に移動する
ユカの肩に手を置くとユカは
えーーっ
と言いながら大きく息を吐いた

「付き合ってほしい もう、ただの幼馴染は嫌だ」

ユカの返事を待つことなく、大きく目を見開いたままのユカに口づけをした




駅から家までの道のり
オレはしっかりとユカの手を握っていた
もう離したくない…


家に近づくとユカの家のリビングから賑やかな声がする
オレの両親がなぜかユカの家のリビングで飲んでいる

ユカとオレは、ただいまと声をかけた

あっおかえりーーっ
早かったのね!もっとゆっくりしてくるのかと思ったわ~
母さんは顔を赤くして上機嫌だ
結構飲んでるな…

「なにしてるんだよ 集まって」
と聞くと

今後の話し合いよ
家もどうしようかねぇ
リフォームしてつなげちゃおうかって今盛り上がってたのよ

「は?何の話だよ」

すると母さんがバッとこちらを振り返る
目が座っている…
あなたたち!好き合っているんでしょう!
何年あなたたちの親をやっていると思っているのよ
お見通しよ!お・み・と・お・し!

オレとユカは驚いた顔で顔を見合わせて、次の瞬間にはなぜか爆笑していた

飲みすぎるなよ!
と声をかけてお互いの部屋にそそくさと戻っていった

風呂に入り終わったころには両親たちは解散して静かになっていた
自分の部屋に戻ると、窓の外にユカの姿が見える
風呂上りのまま、窓枠に腰を掛けて風に当たっている

「風邪ひくぞ」
そういいながらオレも窓の横の椅子に腰を下ろした

「夜風が気持ちいいね」
「ああ なんか、長年の胸のつかえがとれて、目の前がすごくすっきりした感じだ」

オレとユカはしばらく見つめ合った

「なんか…ずっと近すぎると思っていた窓だけど
 今夜はすごく遠く感じる」

そうユカは言った

「うん そうだな」

オレも、さっき離したばかりのユカの手を
もう握りたくなっていた



「明日から、よろしくな」
「うん よろしくね」



【おはなし】窓   おわり


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