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『流浪の月』

公園で遊んでいた小学生の女の子が一人の大学生に誘拐された。

2ヶ月間監禁され犯人は逮捕されたが、彼女は大人になった今も誘拐された彼に好意を抱いているらしい。

そう聞いたなら私は一体どう思うだろうか。

大学生に対して怒りを抱くだろうか。

少女を可哀想に思うだろうか。

本屋さん大賞を受賞したこの作品は事実の曖昧さを描いた作品だと思う。

事実と真実は違う。

最初から事件なんてなかった。

主人公、更紗のそんな言葉が強く印象に残る。

これは小説で、読者である私は文章を通して真実を知ることが出来る。

だから、善意という名で差し出される見当違いの助けを否定することが出来る。

でも、これが小説でなかったらどうだろうか。

私はたぶん彼女を彼を苦しめる側、傷つける側にまわっていたのではないだろうか。

事実はそれだけ曖昧で、与えられる情報によっていくらでも姿を変えてしまう。

2人の関係は中々特殊なものだ。

友達でもないし、恋人でもない。

ただ「普通」ではない2人が生きていくためには互いが必要だった。

それだけなのだろう。

2人が追い詰められていく様子に読んでいて胸が痛くなることもあったが、とてもいい作品だった。

初めて読む作家さんだったが、ぜひ、他の作品も読んでみたいと思う。





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