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高架下の光と闇 ~@onefive live 2023 -NO15EMAKER- Underground~

2023年11月25日 Yogibo META VALLEY


◇はじめに、このテキストでは「考察」はしないつもりである。@onefiveは今回のライブが二部作のうちの一部であることを予め宣言しているし、今は色々と考えを巡らせることにあまり意味はないのではないか、と個人的には思っている。衝撃的だったラスト以外にも、いや客観的に見ればそれ以外の部分にこそ、この公演の真価があったと思うし、僕はあの最後の瞬間まではずっと(狭いスペースながらも)踊り続け、叫び続けて楽しんでいたから、曖昧な記憶で詳細は書けないけれど、12月の"Overground"に足を運ぶことを決め兼ねている人たち、揺らいでいる人たちに少しでも「行ってみたいな」と思ってもらえるような、短いけれど濃いめの感想を書くつもりである。

…ただ、既にfifthたちの間でざわつきが沸騰しているあのエンディングについては、心も身体も衝撃を受けて、体験した誰もが何かを考えずにはいられなくなるようなものだった、ということだけは書き添えておく。

◇大阪なんばに2023年10月にオープンしたばかりのYogibo META VALLEYは、頭上に南海電鉄の電車が走り、時おり車輪が線路を圧す重い振動が響いて来る、文字通りアンダーグラウンド感の強いライブハウスだった。高架下の建物なので全体が細長く、ステージはかなり横長に配置されていて、フロアの左右にはがっしりとした柱が立っている。"Underground"というサブタイトルがかねてから強調されていた大阪公演は、そのタイトルとロケーションを想起させる地下鉄のアニメーションによる映像演出からスタートした。

4月のEX THEATER ROPPONGIでもライブの各所に映像が用いられていたが、その時よりも格段にクオリティが上がったと思わせるオープニングの演出に導かれて@onefiveが舞台に現れ、一曲目は「Underground」。まず感じたのは、全体から滲み出てくるような余裕であった。舞台の感触とフロアの反応を確かめるように、丁寧に力の抜けた(だが抜群にキレのある)身のこなしで、リラックスした微笑みすら浮かべながらパフォーマンスを魅せる4人。歌はぶれることなく歌詞がはっきりと耳に届く。奇しくも「Underground」はこのライブからほぼ2年前にリリースされたシングルであり、彼女たちの2年間の鍛錬と身体的・精神的成長に自然と思いが及ぶ。

◇この日のセットリストで特徴的だったことの一つは、過去の楽曲のリミックスと"繋ぎ"だ。「Underground」に続いて4つ打ちのキックが強調された「Pinky Promise」~低音が更にブーストした「BBB」、そして中盤には原曲のダビーな雰囲気を薄くしてミニマルに仕上げた「雫」~「Lalala Lucky」という豪華な組み合わせのリミックスバージョンが披露された。4月の「Just for you/缶コーヒーとチョコレートパン」のリミックスを土台にして、楽曲の解体・再構築と融合を更に進める試みとも言える。

個人的にリミックスされた@onefiveの楽曲を聴きたいと以前から強く願っていたので、これは本当に嬉しい体験であった。@onefiveは初期から一貫して、4人のダンスを際立たせるようなトラック・構成・ヴォーカルのバランスが考え抜かれた楽曲をリリースして来たと僕は勝手に思っていて、その楽曲たちがリミックスによって新たな輝きを与えられ、ライブの現場でフロアを熱狂させていることに興奮したのだ。

@onefiveの楽曲は、多くがダンスミュージックを基調としたポップスである。当然ながら1曲ごとに細かい抑揚の構成があり、パフォーマンスを完遂させてその世界を表現することは、ポップスのライブパフォーマンスとしては正しい。一方で一曲ごとに完結してしまうと、どうしてもグルーヴが途切れてしまい、ダンスミュージックとしては物足りなく感じることもある。これまでも楽曲のエンディングと次の楽曲の入りを繋ぐような工夫をしたり、その隙間を埋める努力を見せてきたのだが、トラック自体をマッシヴなビートで彩り、更に楽曲をフルで演じずに繋げるというリミックスの手法は、質の高いパフォーマンスとフロアの狂騒の両立という意味で、現時点では最適解に近い答えなのではないか。原曲とは異なるアレンジが逆に聴き慣れたサビのフレーズに破壊力を与え、ライブならではのカタルシスを感じる瞬間もあった。@onefiveは新しい武器を手に入れたのだ、と思った。

◇「Last Blue」、「Justice Day」、「Like A」などの最近の楽曲はフルパフォーマンスで披露され、メジャーデビュー以降の楽曲への自信と確信を感じさせた。また、この日のライブではフルで演じられた楽曲にも幾つかのアレンジが施されていた。例えば「Chance」ではラストのサビ前で音が止まり、そこからトラックを少し戻してサビをやり直すというアレンジがあり、「SAWAGE」でも最後のパートでトラックを止めて「まったく悩むことない…」という歌詞を4人がアカペラで歌い、フロアのfifthにも促して共に歌うという場面があった。これらの演出は音源だと3分半弱で終わってしまう(サブスクリプション時代のスタンダードはどんどん短い尺になっていて、現在は3分を切るのが主流になりつつある)楽曲の、ライブにおける盛り上がりどころをもう一つ作るのと同時に、『NO15EMAKER』というライブタイトル、つまりfifthに声を出してほしい、声を出す時間を少しでも長くしたいという想いから生まれたものだったのではないか、と想像している。

そして、「F.A.F.O」だ。この楽曲は音源の配信に先んじてコレオグラファーであるRena(TSUBAKILL/Rht.)が自身のInstagramとTikTokで短いダンスの動画を投稿していたのだが、その振り付けを初めて見た時には、これをそのまま@onefiveが踊るということが俄かには信じられなかった。11月22日に公開されたMVを観ると確かにサビの超高速ダンスを@onefiveの4人がしっかりと踊っていたのだが、今度はこれを歌いながら踊るということが信じられなくなった。音源と映像で判断する限り、この楽曲のパフォーマンスは相当にタフなものなのではないかと思われた。

だが、@onefiveはこの楽曲を、当然のように歌いながら踊るのだ。初めてのライブパフォーマンスで、はっきりとリアルの声を響かせながら、歌って踊ったのである。今の彼女たちは4月のライブから更に成長を遂げ、鋼鉄のフィジカルと絹糸のように滑らかな表現力を兼ね備えた強いパフォーマーへの道を、確かに歩み始めている。「F.A.F.O」という楽曲を、初めてのパフォーマンスで、歌声のぶれもなく、ダンスを抑えることもなく、楽曲全体のテンションを最高潮に保ったまま演じ切ったというその事実を伝えるだけで、大阪に足を運ぶことができなかったfifthたちにも、それをイメージしてもらえるのではないかと思う。

◇ここまで書いて来たように、この日、ライブの本編はとにかく楽しく、肉体にダイレクトに呼びかけてくるようなショウであった。パフォーマンスは盤石で、フロアも踊り、叫び、「参加した」という実感を充分に持てたし、絶えずメンバーから降り注いでくるレスポンスは形容しがたいキュートネスで僕たち包み、幸せを与えてくれた。より間口が広くなり、きっと、いや間違いなく、新しく彼女たちを知った人にも大いに楽しんでもらえるライブだった。

そんな訳で僕はあまりにも楽しんでいたから、"その瞬間"まで、従前このライブに関して@onefiveが語っていたこと、「2つのライブは繋がっているから、絶対に両方見てほしい」という言葉を、すっかり忘れていた。アンコールを受けて再び舞台に現れた彼女たちは、Instagramでも中継された「Just for you/缶コーヒー…」を披露し、物販の紹介をした後、真剣な面持ちで語り始めた。その内容は、@onefiveとして活動を始めてから上手く行かない時期もあったし、挫けてしまいそうなこともあったが、メンバーがいて皆さん(fifth)がいたからここまで辿り着けた、というものだった。そして、そんな"絆"を歌った楽曲として最後に紹介されたのは「Ring Donuts」だった。

意外なチョイスだった。「まだ見ぬ世界」でも「未来図」でも「1518」でもなく、彼女たちが大阪公演の最後に選んだのは「Ring Donuts」だった。ダンスも歌もこの上なく情感豊かで、時おり溢れてしまうエモーションをぐっとこらえながら、凛としたパフォーマンスを魅せる4人の姿が印象的だった。「Ring Donuts」の最後の一音が余韻を残して消えていき、フロアから大きな歓声が送られると、舞台の照明が暗くなり、"その瞬間"が訪れた。

@onefiveは、僕の知らない歌を歌い始めた。アンビエントノイズのようなバックトラック。メロディアスで、もの悲し気で、時に壊れそうな叫びを伴う歌。そして、終盤の演出。真っ暗な闇の中で何かを探すようにうごめく心細い光、「誰もいませんですか」という感情を殺した呟きのようなヴォイス、舞台に持ち込まれるこれまでの衣装たち…。

正直に言って、何が起きているのか理解するのに時間がかかり、混乱していた。さっきまで明るく弾けるように上気した笑顔で歌い走り回っていた4人の姿は、そのまま@onefiveの表現の芯であると思っていたのに、いま、4人は暗闇の中に悲壮な表情を浮かべて、踊ることもせずに切々と歌っている。そして、歌い終わった4人が去って行くと、舞台には数々の衣装たちが、ぼんやりと明るくなったフロアには茫然としたfifthたちが残されていた。

◇あらためて書くまでもなく、このラストは衝撃的であった。ライブ終了後から続々とSNSに投じられた驚きや戸惑いの声は、そのまま、あの時あの場所にいたfifthたちの感情だったと思う。はじめに書いたように、ここでは「考察」はしないけれど、"意味"を穿つ事を抜きにすれば、あの最後の楽曲、パフォーマンスが示したことは明白である。それは、@onefiveが新たな「表現」の領域を手に入れた、ということだ。明るく元気で可愛く、カッコよくて時に切なさをも魅せるパフォーマンスに、あのような、鋭い刃物で受け手の心が切り刻まれるような、寂寞と絶望に鳥肌が立つような、その上であくまでも美しく決して折れない強さを感じさせるような、新しい表現が加わったのだ。そこにはたどたどしさもわざとらしさも無かったし、彼女たちのパフォーマンスがそれだけ真に迫っていたからこそ、僕は終演後にしばらく身動きを忘れるほどの衝撃を食らったのだ。

これは、ちょっと恐ろしい話かも知れないと思っている。どうやら、僕が推しているグループの表現世界は、思っていたよりもずっと広く、深いらしい。それを再び確かめに行くのだ。12月21日、六本木に。

(2023年12月2日)






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